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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第一章 ー終わりの始まりー
9/99

8 実行





 教室の扉を開けて中へ入ると、話し込んでいた奴らの視線が俺に集まってくる。そして"空閑日向"だとわかった瞬間、そいつらの目は『汚いものを見る』目に変わった。昨日とは打って変わっている、空閑と言う名を聞いただけで媚びるような目だったのに、今は昔と同じで『こっちに来るな』と視線だけで話してくる。


 まぁ、こんな空気はもう慣れている。一々気にしていたら野望なんざ叶わないし、先にも進めやしない。近寄るな、話しかけるな、邪魔だ、消えろ、そして『死ね』と、教室に漂う空気に乗せて言われている感じだ。これがイジメを受けている奴の感覚なんだろうか、俺は今まで同年代では無く大人にやられていたから、これくらいなら別に痛くも痒くもない。



「最初の授業は確か……」


「数学です日向様」


「そうだったな」



 席に着くと机の中から教科書を引っ張り出した。だが、



「な!?」



 やられた、まさかこんな古典的なやり方でやられるとは思わなかった。それも一冊だけじゃなく、中に入っていた教科書全てに『落書き』やカッターかハサミでバリバリに破られていた。書かれているのは『ニセモノ』『成り上がり』『害虫』『消えろ』『死ね』と乱雑に記されていた、誰がやったのかは大体検討がついた。


 俺は教室の隅っこでグループで話している椿を見る、楽しそうに話しをしていてこちらの視線なんか気にしていない、そのグループの中に昨日の金髪ロールとその取り巻きも混じっていた。


 アイツらは間違いなく椿の犬にされた、いや操り人形ってところか。俺はズタボロにされた教科書を全て取り出しゴミ箱へ捨てる、これでは授業がまともに受けられないだろう。



「日向様、今すぐ教科書の手配を」


「いや、いい」


「しかし……」



 今教科書を注文したところで直ぐには貰えない、借りるか見せてもらうかしかない。昨日配られたばかりの教科書を全てダメにしたから貸してください、だなんて担任に言えば驚くだろうし色々話をきかれてしまうだろう。


 もし俺が『このクラスの誰かにイジメられた』と話しても、担任は認めたりしない。ここは普通の学園とは違い、世界に広げた企業の娘や息子が居る、その誰かを疑ったりすれば担任のクビは確実な上、学園への出資や支援が停止することになる。全ての責任が担任一人にされれば、最悪なケースにも繋がる。


 あの女がそこまで計算高いとは思えないが、変に身動きを取れば俺は奴の思い通りになってしまう。



「どうかした? うわぁ、教科書捨てたりしちゃいけないじゃなーい」


「…………」


「あははは! 面白いわ」



 馬鹿にしに来たのか知らないが、椿は嘲笑いながらゆっくり耳元に近づき、




 ―――無能がざまぁみろ



 無能。よく両親ゴミにも言われていた台詞だ、どれだけ努力しても認めてもらえず。必ず何が何でも一番を取れと言われ、二番を取っても褒められず無能と言われ。小さかった俺では抵抗すら出来ず、勝手に死んで居なくなったアイツら。


 きっと空閑家では昔の事を聞かされていたのだろう、それで心の中に『立場』と『身分』を擦り付けられ、自分より下のものには『容赦はしない』と決めつけてしまった。


 規律と身分で生きている馬鹿共が、言わばここに居る全ての生徒だ。本当に心の底からこう思っている、



「"哀れだな"」


「は?」



 つい思っていた事が口に出てしまった、自分がこんな仕打ちにやられてしまって『哀れ』なのと、コイツらが親の操り人形になってしまっている事に『哀れ』だと。


 悲観的にすらなれないこの場所で、これから三年間過ごさないといけないだなんて、本当に面白いよ。



「教科書が無いので誰かに借ります」


「な、何よ」



 多分、今の俺の目は酷く『復讐者』のそれだろう。身体が熱く、睨む目もかなり熱い。今にでもコイツを殺して全てを終わらせてやりたい程に、俺は体の芯から熱を感じている。


 だがそれをすればただの犯罪者で終わる、空閑には何一つ傷を付けられない。だから今は抑える、少し頭を冷やす必要がある。俺は落ち着く為に席へ戻ろうとした時だった、ガラッと扉が開いて誰かが入ってきた。




「あ…………お姉様、おはようございます」


「え、えぇ。おはよう」


「え、何……これ」



 俺と椿がゴミ箱を囲んでいたせいか、クラスに入ってきたほむらはゴミ箱の中身に視線を向けた。まるで自分がされたみたいに表情を歪め、少しだけ青ざめる。俺は構わずそのまま席に戻る、椿も『ふん』と何も知らないといった感じで教室の隅っこへ戻った。


 焔はズタボロにされた俺の教科書を見つめた後、俺の横に立っているルリに話しかける。




「メルリさん、日向君に新しい教科書を―――」


「―――日向様に必要が無いと言われましたので」


「そんな……どうやって授業を……」




 俺は驚いてる、売店での出来事と今焔が俺の為に悩んでくれている事。何気無くチラッと隅っこにたまるグループに目をやると、椿は『嘘、あの子が』と目を見開いていた。これで確信した、焔は俺を"家族の対象"として見ている。


 面白い、面白い。朝の時点ではまだ微妙なラインだったが、これでようやく納得できた。あとは焔を俺の味方に付けるためにしっかり行動するだけだ、焔さえこちらに入ればあのクソ女を絶望させることが出来る。



「焔」


「は……はい」




 ―――俺に教科書を見せてくれないか?





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