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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第一章 ー終わりの始まりー
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7 片割れ




 太陽の光が部屋の中を照らす朝、俺は支度の準備を済ませ食堂へ向かっている時だった。食堂に行くにはメインホールを抜けなければならない、玄関を横切る形になるのだが話し声が聞こえてきた。


 備え付けられている電話機で話しているようだ、使用人だろうと思い、通り過ぎようとしたが、チラッと横目で確認すると、電話をしていたのは双子の椿だった。俺は咄嗟に陰へ隠れて耳を澄ます、相手は誰だ? 女か男か? 話の内容によっては、情報を手に入れられるかもしれない。


 しかし、内容は期待しているものではなかった、モデルの仕事をしている椿に、恐らくスケジュールの確認をしているのだろう、いつから電話をしていたのかわからないが、通話は直ぐに終わり、俺に気づかないまま椿は食堂へ向かった。



「今日の夜19時か」



 仕事をしているだけあって忙しい奴なのだろう、だが夜にモデルの仕事とはまた変な感じだ、詳しくは知らないがモデルはそんな時間までするものなのか? あの妹であるほむらですら、学園がある平日は仕事には行かない、あるとしても放課後の一時間程度とルリから聞いている。


 昨日のプロフィールなどの情報を説明してくれた中に、平日の仕事については聞いていないし、プロフィールにも記載されてなかった。深読みしすぎだろうか、だがこんな些細な情報も価値になる、一応気に留めておこう。


 メモを取ると俺はそのまま食堂へ向かった、食事をする場所なのに空気は最悪で、味もよく分からないだろうが、今はグッと堪えて、その時に備えよう。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 学園に着くと俺はクラスに行かず売店へ、屋敷の食事があまり喉を通らなかった、ルリに心配をさせてしまったが菓子パンを買って食べると話し、こうしてやってきたのだが、



「朝の癖に混んでるな」


「人気のサンドイッチがあるそうです」


「なるほどな、余り物を買って食べるか」



 列の最後尾に並ぶ、制服より運動部のユニフォーム姿が一番目立っている。朝練した後にここへ来るのが当たり前らしい、しかし俺が変に浮いて見えてしまうな、横にはルリも居るわけだから尚更目立つ。


 チラチラ見てくる奴も居るが、一々気にしていたら疲れるかもしれん。ルリを外で待たせてようやく売店の中へ入れた、残っているのはあんぱんとコロッケパン。どちらも朝からだと重い気がする、だが何か腹に入れないと厳しいだろう。



「あんぱんにするか……」


「あんぱんだぁ……」



 あんぱんに手を伸ばしたが、視界にはもう一つの腕があんぱんに伸びてきた。誰だ、俺が選ぼうとしたあんぱんを奪おうとしている奴は、



「お前……」


「え、あ…………」


「焔か」



 こいつはビックリだ、まさか妹の方から現れるとは思わなかった。これは話が出来る良い機会じゃないか、だがコイツは面倒な性格を抱えている。男が苦手なのだが『家族以外』が対象となっている、しかし養子である俺はどっちに該当されているのかわからない。


 もし家族以外にカウントされていれば、かなり苦しい道になる、だがもし家族にカウントされていれば……野望への道をさらに進むことが出来る。養子になってから会話はほとんど無いに等しい、挨拶をしてもじっと見つめられ、逃げられる。


 でもそれは中学生までで、そこからは俺自身食堂以外では会うこともなかった。焔は基本モデルの仕事以外は引きこもりがちで、屋敷内も食堂とお風呂以外は部屋に居る。ルリ達の話では、男の苦手意識を直すためにモデル仕事を始めたと聞いているが、中々直らないようだ。


 双子と言うだけあり、椿同様可愛さがかなりの売りだとか。細かい所はまだまだ探っている最中だ、ここからは自ら喋って貰うしかない訳だが、果たして俺はどちら側なのか。



「はい……焔です、えと、あんぱん」


「あぁ、これが欲しいのか。譲るよ」


「え? でもお…………日向君が先に……」



 なんだ、何か言い掛けていたな。まぁいい、一応話せるレベルではありそうだ。俺はあんぱんを棚から手に取りそいつを焔に手渡した、本当は食べる気は無かったが仕方がない、隣に並んでいたコロッケパンを手に取りレジへ並ぶ。


 後ろで手渡されたあんぱんを見たり、レジに並ぶ俺を見たりとキョロキョロしている。俺が先に伸びていたのに、自分に譲ってくれた事が不思議でならないのだろう、そんな事はお構いなく、俺は支払いを済ませ売店を出た。



「お帰りなさいませ、コロッケパンにされたのですか」


「あぁ、あんぱんにするつもりだったけど、面白い奴に譲ったよ」


「面白い奴……ですか」


「何、その代わり知りたい事を知れたよ」


「はぁ」



 ルリはあまりピンと来ていないようだが、それでいい、今はこのコロッケパンを少しでも腹に入れる、カロリーを少しでも取らないと頭の思考は働かないし、集中力が続かないだろう。歩きながら食べるのは行儀が悪いと言われるかもしれないが、ルリはそんな事を注意してこない、全て俺がしたいようにさせてくれている。


 クラスに入るまでには全て食べ干して、袋をクシャッと丸めてポケットへ押し込んだ。


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