6 味方
空閑姉妹の双子の姉は、俺を見つけるなりコバエの湧く生ゴミを見るような目付きで話しかけてきた。空閑家でも一番性格が悪い『椿』は、次期当主の座を手に入れる為に総帥の前では良い子を演じている、腹の中じゃ何を考えているのかは読めないが、どんな手を使ってでも頂点へ辿り着くつもりだろう。
俺は考えた、一番最初にドン底へ突き落とすべきはクソモデルだなと。ルリには昔から彼女たちの動きなどを監視していたようで、特に椿の行動に関して詳しいのは空閑家の中でも恐らくルリだった。
今は俺に専属として付いている為、別のメイドが椿のお世話をしている。スケジュール管理もメイドが一任しているのもあって、そのメイドを味方に付ければかなりの力になるはずだ。しかし、簡単に口を割るわけじゃないだろうがそこは上手くやるしかないな、とりあえずこの生き恥とよく似たチャラ女から離れるか。
「これは椿お姉様、お仕事は終わった見たいですね」
「誰が喋って良いと許可した? 一般人以下の癖に気安く口を開くな害虫」
「申し訳ございません……」
本当に口が悪い奴だな、簡単に弱点をさらけ出さないだろうが、必ずひれ伏せるくらいの、いや……泣きながら許しを乞う姿になるくらいのダメージを追わせてやる。俺が謝罪をすると気色悪い笑みを浮かべながら、人差し指をクイクイっと下へ振る。
とんだ悪趣味だ、俺に土下座をさせて謝らせるつもりだ。だが拒否すればどうなるか、いやあえてコイツの命令を今は聞き入れた方が後が面白いかもしれん。ならば、
「申し訳ございません……ぐっ!?」
「あははは!! 無様無様無様アアァァ!!」
思い切り足の裏で顔を床に擦り付けられる、どうやら自分がお姫様気分で居るようだ。お姫様というか女王様か? どちらにせよコイツには全く似合わないし、ただ自分の価値観がとてつもなく他より高いのだと勘違いしているのだろう。
しばらくして飽きたのか後頭部から重みが無くなる、俺はゆっくりと体を浮かせて正座の状態になる。椿は『これからは身分に気をつけなさいよ、害虫』とだけ吐き捨てて、部屋へ戻って行った。
俺は立ち上がると、
「あは、ははは。面白い……」
怒りよりも笑いが先に出てきてしまう、あんなクソメスをこれから地獄へ突き落とすことが出来るだなんて、なんて面白いのだろう。俺を生んだ母親も、俺を痛めつけた両親も、空閑に関わる全員を俺が捻り潰す。
その為には行動をしないといけないが、さっきから誰かがこちらを見てきている。チラッ後ろを確認すると、
「ルリ、居たなら出てきてくれないか」
「申し訳ございません、会話の途中に入るのは良くないかと」
「まぁいい、それより何かわかったか?」
「はい、詳しくはお部屋で」
俺とルリは部屋へ戻る、今に見ていろ椿。まずは貴様からだ。
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部屋に戻ると、複数のメイドがパソコンを持ち寄ってキーボードを弾いていた。俺が部屋へ入って来たのを見ると立ち上がり頭を下げる、ルリがしっかり指導したのかわからないが、屋敷でルリを含めたここに居るメイド達だけは俺を良くしてくれている。
普通なら専属以外のメイドは、個人に力を入れたりはしないのだが、ここに居るメイドは少し特殊な性格をしていたり、出生が特殊だったりと聞けば聞くほどに面白いメンツだ。それ故に俺が養子として来た時に、過剰なまでに甘やかしに部屋まで来ていたが、当時の俺はそれを拒否し数年間ご飯を持ってきたり、洗濯物を持ってきたりだけの関係だった。
が、中学で成績も習い事もトップになった俺は、一つの区切りとして彼女たちに話しかけたり、屋敷の事を聞くと『やっと、やっと会話ができました!』と泣きながら抱きつかれた記憶がある。それ以来ルリのお手伝いとして、俺の計画に参加している。
彼女たちはメイドの中でも『使えない奴』として屋敷に認知され、クビにされかけていた所をルリが『わたくしの手伝いをしなさい』と救いの声を掛けたのが始まりだ、そしてその手伝いの一環で『見返してやる為に屋敷の中を変えよう』と頼んだ。
ルリを含めた4人のメイドが、今居る俺の協力者であり味方だ。変わった趣味を持った奴らだが、腕は確かだし気が利いている。恐らく椿が適当なことを言いふらしたり言ったりして、クビに追い込もうとしたようだが、ルリは総帥に気に入られているのか、頼めば簡単に承認してくれたらしい。椿はそこが気にくわないのだろう、一介のメイドが当主のお気に入りとか孫からすれば腹立つだろうからな。
「日向様! こちら緑茶です!」
「あぁ、ありがとう」
「日向様、今日の椿様達の動きをプリントしました」
「ありがとう、助かる」
行動力もずば抜けてる、ルリの指示があってこそだろうが、それでも彼女たちの潜在能力は計り知れない。
「なるほど『才能』だな」
「何か?」
「いや。それより焔についてはどうなんだ?」
将を射んと欲すればまず馬を射よ、とはよく言われている。まずは焔を味方に付ける方向で動こう、改めてアイツの性格とか趣味とか色々調べないといけない。
「はい、焔様のプロフィールをモニターに出します」
さぁ、始めるぞ―――