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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第三章イギリス編 ーその手を掴むためにー
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7 赤のずきん

月曜日火曜日は基本的に更新はお休みです。




 歓迎会から翌日、今日は学園までの道のりも含め、イギリスの街を案内してもらう事になった、昨夜はエーリカが衝撃的な発言をしたが、後から考えてみれば『そりゃそうか』と納得してしまった。ここイギリスで一番大きな学園、『アリスシア』は日本で俺達が通っていた学園の外国版のような所で、イギリスの名家が集結しているマンモス校だ。


 名家が集まっているのなら、イリーナが通っていてもおかしくは無い、何よりビルシェタイン家へ行かなくても、直接本人に話が聞けるのはかなりデカい訳だ。ビルシェタイン家の門を叩いても、追い返されるのが関の山だろうし、学園に行くまでは変に行動を取らないようにするしかない。向こうのフィールドに入っている俺は、日本の時と違って不利な立場にある、まぁイリーナもこうして日本に来てた事だし、そこはお互い様ってとこだろうな。


 今はモーガンさんから車を借りて街へ向かっている、青田は『国際免許証を取得していてよかったです』と、ルリ並に万能な彼女は、ステアリングを握りながらニコニコしている。助手席には案内役のエーリカ……ではなくルーナが座っている、てっきりエーリカがナビを務めてくれると思っていたが、その本人はリアシートに深く座り、スマホゲームをポチポチしている。




「お前はゲームをやり過ぎなんじゃないのか?」


「失礼だなー、私はゲーム以外の事もしてるんだよ!」


「ほー、例えば?」


「コスプレしたり!」



 あ、黄島が身体をビクッとさせて反応した。日本に居た時は黄島と赤川は2人して、アニメのイベントに参加していた、赤川はそもそもプロのイラストレーターで、黄島はコスプレ界隈でかなり有名人らしい。だが俺の面倒事に付き合わせたせいで、趣味に割く時間を完全に無くしている、赤川は副業であるイラストレーター業を、空いた時間に何とかやれているレベルだが、ちゃんとした時間をあげないと不味いだろう。




「赤川、黄島」


「はい?」


「何ですかー?」


「今日は行きたい所とかあるか?」


「行きたい所ー?」



 2人は顔を見合わせる、日本とは違って何処に何があるかなんて知らない、だから2人は今欲しい物を口々に語り出す。



「私は生地屋さんとか行きたいなぁ、こっちの素材で作る衣装とか着たいし」


「電化製品が売ってる場所に行きたいです。もう低スペックのノーパソは御免こうむります……」



 2人の意見を聞いたエーリカは『じゃあ中心部に行けば沢山あるよ』と、少しだけ興奮気味に話す。エーリカはオタクだし、2人と趣味を共有するのは良いことだろう、俺にはわからない世界だが、色々知るには良い機会だし息抜きに丁度良い。


 と、赤川はスマホの画面を光らせた時だった……




「れ、レッドちゃん!?」


「は、はい!?」


「そ、その待ち受けはひょっとして……!?」


「お、おい! 俺を乗り越えて話をするな! 手を腹から退けろ! 苦しい!」



 エーリカは赤川がスマホに設定しているキャラクターに過剰反応を示した、キャラは結構際どい露出をしていて、可愛いと言うより美人お姉さんのような感じ、赤川はスマホをエーリカに渡して見せてあげている。



「このキャラは『くずりゅーの哲学恋愛記』通称『くずてつ』の悪役お姉さんなんです!」


「あーそうかよ、いいから早くこの手を……ぐぇ」


「しかもまだ未公開のイラストじゃないですか! でもこのイラストは完成してるし……ネットにも上がっていないのに、どこで入手したんですか!?」



 ハイテンションなエーリカに対して、冷静な赤川はニコニコしながら、



「これは私が書いた没イラストなんです、私イラストレーターもしてるので」


「な……んだと……ペンネームは!?」


「ネームは『赤のずきん』ですよー」


「あ……あ……あぁ」



 死にかけの魚見たいな表情をしているエーリカ、赤川がイラストレーターだとは知らなかっただろうな、普段はメイドをしながら同人誌を書いたり、アニメの作画や劇場版の作画、俺も最初は驚いたがこれは赤川の才能なんだろう。


 本人は直接現場に行く訳じゃなく、メールやアプリを通して仕事をしている為、誰も赤川の顔を知らないらしい、サイン会も開いたことがなく、イラストレーター界隈では『赤のずきんは存在しているの?』と噂が後を絶たない。




「わ、私コミックとか全部揃えてるんだよ!?」


「ありがとうございます、嬉しいですっ」


「さ、ささ、サインください!!」


「わかりましたから、日向様を……そのー死んじゃいますよ?」


「え?」



 コイツ……本当に引きこもりかよ……

 そう思わせるくらいに馬鹿力で俺の腹を圧迫している、朝食べた物が口からリバースしそうだ。


 ようやく圧迫から解放された俺、そんな事はお構い無しに、赤川へサインを要求するエーリカ。まさかヴァンデミール家で働く事になったメイドが、自分が大ファンのイラストレーターだと分かった瞬間『赤のずきん先生!』と、ふざけたニックネームを撤回し、崇拝し始めたとか言うまでもない。


 賑やかな車中で静かに揺られているルーナ、エーリカも見習うべき所だと俺は思っていたが……よく耳を済ませてみると、



「サイン……エーリカ様ズルいよ」


「…………」



 まさかのルーナも赤のずきんファンだった。




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