5 牽制
空閑姉妹登場により、教室の空気は一気に凍り付く。俺が名乗った時より、遥かに力のあるたたずまい、そして美貌。姉妹である2人は、雑誌やテレビに出る程のモデルで頭も良く運動能力も高い、そんな2人を知らない今の若者はまず居ない。
それに『空閑』の一族ってだけで、破壊力は充分過ぎるのに、より目立つテレビでの活動等もこなしている。姉の『空閑椿』はトップモデルで、毎日撮影やテレビに出演し、世界からも注目されている。性格はキビキビとしていて言葉遣いが少々荒い、そんなギャップが世界の若い男子層でかなり人気となっている。
妹の『空閑焔』は姉と同じくトップモデルとして活動、性格は姉とは真逆でオドオドしている。しかし仕事になるとまるで別人の様に性格が変わる、これは業界でも噂されていて、二重人格ではないかと言われている。そして何より男が苦手とあって、家族以外の男には話しかけたりしない。
そんな二人がこのクラスに来るとは少し誤算だった、だがこれも運命ってやつなんだろう、どの道全員を潰すのだから順番とかどうでもいい。俺としてもまずは味方を付けなければならないからな、なるべくボロを出さないようにしばらくは素直に言う事を聞いておこう。
担任が教室へ来るまで姉妹は、質問攻めやサインをねだられていた、そして、ある一部は俺をチラチラ見ながら『ニセモノって?』と、姉に聞いていたりした。椿は薄気味悪い笑顔をしながら周りに『あれは養子、ゴミも同然だから』と言いふらしていた、何も力を発揮させないように封じる作戦かもしれない。
アイツは俺が跡取りになるかもしれないと警戒している、まず、権力争いには参加できないことは、本家も分家も知っている。しかし、総帥が判断した場合は、それを覆すことが出来る。つまり、気に入らせないように阻止しているのが、あの女のやり方だ、妹はよくわからんが、姉の背中に毎日隠れるように俺を見てくる。
「さぁて、どうしようかな」
入学式も近づいている中、俺は誰を味方につけるか、どうやって味方につけるかを考えていた。
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入学式は無事に終わり、俺は昇降口で帰っていく生徒を見ながらルリを待っていた。どんなやり方で広めたのかわからないが、帰っていく一部の生徒は俺を見る度に、
『あれが空閑の成り上がりだって』
『空閑さんのお姉さんが当主に頭下げたらしいわよ』
『それが無かったら今頃ホームレスって奴だろ? さすがは養子だよな』
わざと聞こえるように言っている、どこに行ってもこれだと、普通の心を持ってるやつは辛いだろう。だが俺は違う、今見てきたコイツも、聞こえるように話すアイツも、俺はどん底へ突き落とすと決めたから。
だから何にも痛くも痒くもない、言いたいやつは言っておけ、自分達の立場が今は上だから吠えているだけのクソ虫野郎なだけだ。さすがは椿だ、アイツの言う事なら皆信用するのだろう、コイツらはあの女の術中にまんまとハマっている、今は椿の独壇場って訳か。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
「構わないよ、人間観察にはちょうど良かった」
「あまり、お気になさらぬように」
「そう見えるのか?」
「少しだけです」
ルリにだけ心を許している、だから一番落ち着ける。彼女は俺のやる事に協力してくれている、何故ルリは空閑のメイドなのに俺のやる事を止めないのか。初めて会ったあの日、総帥に話をする時に俺を見て『才能がある』と言っていた、何か深い事情を知っているのか聞いた事もある、だが何も話してくれず一言だけ俺にこう言った、
『全てを変えてください』
それだけだ、それだけしか話してくれない。ルリも空閑に何かあったから協力してくれているのだろうか、でも今はそれを考えている暇はない。とにかく許せない奴らを全員叩き潰す、どんな手を使ってでも絶対にだ。
ルリと車に乗り込み、屋敷に向かって走り出した。学園から遠くは無く、クラスに居る全員の名前などの情報が書かれた、プリントを見ていれば屋敷に着いた。出迎えてくれるのは、ルリを尊敬し信頼している数人のメイドのみ、他とは見るからに待遇が違うのは血が違うからだろうな。
「俺は部屋に行く、ルリはさらに関係している人間とあの姉妹と何か繋がりがある奴を洗い出してくれ」
「承知致しました、行きますよ皆さん」
ルリは他のメイドを引き連れて、屋敷へ入っていった、俺には俺のやる事がある。それは姉妹である焔の方だ、アイツは家族以外の男にビビっているらしいが、養子の俺だとどうなるのか気になってしまった。もし養子でも話が出来るならこれはチャンスになる、あの姉の弱点が聞けるかもしれない。
俺は一度部屋に戻り、カバンをデスクに置いて、彼女達の部屋へ向かう。姉妹揃って同部屋だから椿が居てもおかしくないが、どうだろうか。扉の前までやってきた俺は躊躇せずノックした、だが返事がない。
「留守か、出直すか」
引き返そうとしたが、
―――ニセモノが何歩き回っているのよ
面倒な方が先に帰っていたみたいだ。