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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
54/99

24 飛翔

第二章完結となります、次回は番外編をお送りします。






 あの場所から車を走らせる青田、空港に向かって真っ直ぐ突き進める中、俺は窓の外を眺めながら考えていた、イギリスへ行った後の行動についてだ。ルリを探す為には彼女の屋敷を探さねばならない、イギリスのどこに住んでいるかなんて流石に知らない、もしかしたらエーリカなら何か知っているかもしれない、到着したら一先ず話し合いの場を作って、ルリの居場所を把握せねば。


 向こうでしばらく居座るのなら、新たな新居も探さないといけない、やる事は沢山あるし暇な時間はほとんど無いだろう。しかし俺はまだ学生の身分だ、まぁ退学したから学生では無いが、年齢的にあまりうろちょろ出来ないだろう、動きやすくなる為にはあちらの学園に通うのが筋か、だが今の俺は空閑でもなければ誰の子でもない、戸籍を持たないままでは何かと不自由になる。


 正しく言えば週末までは空閑で居られるが、イギリスに着いたタイミングで、おそらく空閑の戸籍を抹消されるはずだ、忍が俺を本当に嫌っているのならだが。あちらに住む以上はどうにかしないといけない、その話も含めてエーリカに相談しようと思う、噴水広場でただの知り合いになった男に、そこまでしてくれるか分からないが、もはやなりふり構ってられないのが現状だ。


 気がつけば車は空港の玄関口に到着した、青田は先に降りて、俺が降りられるようにドアを開けてくれる、そのまま流れるように地面に足を付かせて、中に入ろうとしたが、




「お待ちください」


「何だ?」


「そちらからでは無く、あちらです日向様」


「あっち? だがあっちは……」



 青田が指さした場所を見ると、そこにはデカデカと『関係者以外立ち入り禁止』の看板が掲げられている、その隣を見たりしたが扉はそこにあるだけで、青田が言っている入口はその看板のある場所の事らしい。俺はその扉に近づきドアノブを捻るが、




「開かないが?」


「失礼します…………さぁ行きましょう」



 間を割って入るなり扉の横にあるテンキーに、パスワードを入力し『ガチャ』っと施錠が解除された音がした、あらかじめパスワードを聞いていたのだろうか、俺は何も聞いていないままだから知らなかった。


 その扉を潜り抜けて行く、人一人分くらいの細い通路を一列になって歩いていく、右側にはフェンスが立っていて、そこから見えるのは滑走路や飛行機。こういう関係者以外立ち入り禁止の場所を歩くのは、なんだか優越感に浸ってしまうものだな、一般人はまず入れない場所になるからかちょっと興奮気味だ。


 しばらく歩くと今度はただの扉があり、鍵も何も無いようで簡単に開いた、目の前には飛行機やヘリコプターが格納されている倉庫、そして管制塔が見えている、青田はその倉庫に向かって歩き出す。まじまじと飛行機を見たのは初めてだ、急いでいなければゆっくりと眺めていたくなる、つい立ち止まりそうになると青田は振り返り、



「日向様も男の子ですね」



 等と笑みを浮かべながら言ってきた、つい顔を赤く染め上げる俺は『うるさいぞ』と照れ隠しで言った、もちろん青田は悪気があって言ったわけじゃない、俺の年齢くらいなら興味を持って当然の世界だ、だが俺はそんな世界にすら興味を持たなかった、いや、持つ余裕が全くなかった。


 普通の男の子で居たら、きっともっと別の事に集中し興味を持ちそれを夢にし、その夢を掴むために走り出していくのだろう。でも俺には叶わぬ夢だ、俺は普通に生きて行く事が他より難しい立場だ、最初から安定した未来なんて俺には用意されていなかった。


 倉庫の中を歩き回ると、




「日向様! お待ちしてましたよー!」


「赤川達か、先に来ていたのか」


「はい! 旅路の準備物は全て機内に運び終わりました!」


「そうか、手伝えなくてすまない」


「いえ! 私達のお仕事ですからね! ね? 黄島さん?」


「そういうことっ」



 赤川と黄島は楽しそうにしながら、俺にそう言ってきた。2人はその後、俺達が乗る小型飛行機に乗り込んで行った、まだ少しだけ準備が残っているらしい、それと入れ替わって明と1人の男性がこちらへやって来た、白いシャツに帽子を被っているその男性は、俺に深く頭を下げてから握手を求めてきた。




「初めまして日向様、私は今回貴方をイギリスへ届ける役目を引き受けた、滝村たきむらと言います」


「こちらこそ初めまして、日向です。今回はよろしくお願いします」


「空閑……と、名乗らないのですね」


「そうですね、もうすぐ空閑では無くなりますから」



 俺より手の平が大きく、頼りがいのある厚い皮膚をした滝村さんと力強く握手をする、明は俺を見ながら『キミも緊張はするんだね』と笑っていた、俺だって人間だし緊張の一つや二つはする、ロボットでは無いし人形でもない、感情も人並みにはあるはずだ。


 文句を言ってやりたい所だが、その2人の後ろに居る椿と焔に視線がいってしまった、すると『まだ時間はありますので、後からお呼びしますよ』と滝村さんに言われ、俺は姉妹に近づいた。焔は今にも泣きそうな顔をしているが、椿はなんだかムスッとしている。




「何故そんな顔をしてるんだ」


「1人だけ旅行とかいいご身分ね」


「バカを言うなよ、俺だって行きたくないんだから」


「言われなくてもわかってるわよ…………電話くらいしなさいよね」


「あぁ、到着したら連絡する」



 それだけを言うと椿は焔の後ろに回り、グイッと背中を押して俺の前に焔を近づけさせた、『お、お姉様やめてくださいー!』と恥ずかしくしている、しばらくはコイツらの顔も見れなくなる、せっかく良い関係になれたのだが、こればかりは仕方が無い事だ、俺が決めた道であり俺がやらなければならない事だから。


 焔は顔を俯いてしまう、手をモジモジさせながら何かを言いたそうにしている、俺は『どうした?』と声を掛けてやればいいのかも知れない、でもそこで助けてしまうと本音を言わないような気がした、だから自分から口を開くまで静かに黙って待つ事にした。


 後ろに回った椿は焔を後ろから抱きしめている、顔は背中に埋もれていて見えない、焔を抱いている手に力が入っているようにも見える。




「お兄様……行かないでください」


「すまない、俺はルリを連れ戻したいんだ」


「わかっています、でも言わないと気がすまなくて」


「そうか…………椿を頼む焔」



 ゆっくりと腕を持ち上げて、そのまま焔の黒く綺麗な髪に手を乗せ、優しく、髪を引っ張らないようにゆっくり撫でる。



「わた……わたし、もっともっと強くなります、お姉様を守れるように強い焔になりますッ……!!」


「うん」


「ですから……ですから必ず絶対に!!」


「……うん」


「か……かえ……帰ってきてくださいね……おに、お兄様」


「…………わかった、どれだけ時間が掛かっても必ずお前達の元に帰る。これは…………」



 本当は血なんか繋がっていない、本当はただの他人同士、それでも家族のような関係になったのなら、皆が認めてくれるなら、この言葉を使ってもいいのだろうか。俺に使う権利があるかわからないけど、今だけは許して欲しい、コイツらを置いていかなければならない俺を、今だけは許してくれ神様。







 ―――家族との約束だからな





 この時初めて俺は、心の底から嬉しいと思った。こんなにも俺を必要としてくれたのは、ルリ以外に居ただなんて想像すらしなかった。始まりは全てが悪夢だった俺、だが始まってみればその悪夢も、少しずつ明るさが増してきた、



「日向様、そろそろお時間です」


「わかった…………じゃあな二人とも」


「ま、待ちなさい!?」


「何だよ?」



 歩き出すために前を向いたのに、椿に呼び止められもう一度振り返る、すると、









 ―――んっ!!!





 一瞬だったが、俺の頬を柔らかくて暖かい何かが押し付けられた、それがキスだと分かるまでに少しだけ時間が掛かった。その頬だけが異様に熱を持っている、どう返したらいいのか分からなかった俺は、動揺しそうになるし知らない感情が湧き上がりそうになるが、それを押し留めて一言だけ強く言い放つ。







「行ってくる!」






 俺は生まれて初めて、本当の家族に出会えた瞬間だった。




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