21 眠の龍、目覚め
一夜明け、総帥の死は瞬く間に世界中へ情報が流れ、空閑のトップがこの世から消えた事を悲しむ声や、今後の活動はどうなるのかと悲鳴が、あらゆるメディアを通じて俺達の耳に入った。世界に展開している巨大な組織の基盤は、今まさにぬかるみに変わっていき始めているが、忍がトップを引き継ぐ事が確定し、空閑企業の幹部達は『経済自体に問題は無い』として、引き続き今まで通りの経営を継続する事を発表した。
空閑代表として各支社等に『新たな時代の幕開けだ』と声明文を出し、前総帥より素晴らしい世界へ導いて行くと高らかに大宣言を発令した、忍は誰よりも貪欲に力を欲し、誰にも屈さない為に力を振りかざすことに迷いは無い。ビルシェタインとの関係も解消し、敵として叩き潰しにかかる事も世界へ発信した、今後の動きによってはビルシェタインの経営を完全に封殺するつもりで居るだろう。
そして、俺達は忍に屋敷から出て行くように言われている、週末まで3日程あるが明日には去るつもりで居る、空閑としての効力がある間に、やらなければならない事がある、その1つ目がイリーナがルリに行った事の言及だ、ルリは間違いなくイリーナに騙されている、どのように騙されたかを知る為には、本人に聞くしかないと思っている。
椿にイリーナを呼び出してもらい、放課後に学園テラスに来るように伝えてもらった、今回は明も含めて話をするつもりだ、少しでも質疑が出来る人間が俺は欲しかった。しかし、イリーナの性格を考えれば隠したりはしないはずだが、保険も兼ねての人数補填だ、基本的に質問をするのは俺だけになる。
それよりもビックリした事が起きた、ホームルームが始まると担任はある事を口にした、『今日で空閑君はこの学園を去ります』とクラスの皆に説明をしていた、周りは『まだ入学して少しだよね?』『ほら、当主様が亡くなった事と関係があるんだよ』と勝手な推測が飛び回る。
忍は早速学園側に俺を退学する様に指示をしたようだ、それも多額の金を積んでまでだ、学園側は企業の繋がりを命にしている為、企業の令嬢や御曹司となると簡単に叱ったり、体罰などをすることが出来ない、そこで忍は莫大な金を学園側に叩きつけ、さらには運営を飛躍的に良くする為にと、色々な企業と話をつけると申し出た。
この内容全部は青田達が仕掛けた、レコーダーによる産物で忍の会話が手に取るようにわかった、典型的な『力を手に入れたらムカつく奴を排除する』と言う餓鬼の発想だった、明が聞いた時には呆れてモノも言えなかった。
放課後になると俺達はテラスへやって来た、先にイリーナとその執事『ディート·ヴェルデ』が席に着いていた、俺達は座ること無く立ったまま彼女に話しかける、余裕そうな表情で紅茶を啜っているのが癪だが。
「久しぶりだなイリーナ」
「あら、お久しぶりです空閑日向さん。いえ、もうすぐ空閑では無くなるのでしたね」
「そんな事はどうでもいい……貴様、ルリになにを吹っ掛けたんだ?」
「吹っ掛けてなんていません、大切な話をディートにさせただけですよ」
「大切な話ってのは何だ? 話せよ、お前の願いは叶ったんだから、それくらいサービスしてくれてもいいだろ」
「ま、退学祝いとして話してあげても良いです」
紅茶が入ったカップをソーサーに乗せる、ディートはそのカップを手に取りカーゴへ回収した。コイツらはずっと余裕ぶっている、空閑が脅威では無くなった途端これか、それともこうなる事を予測していたのか、まだ読めないがルリの動機を作った奴らだ、やり方を一々時間をかけて選んだりはしないだろう。
「メルリの実家は、昔王家だったと言うことを知っていますか?」
「いや、初耳だな」
「メルリはいわゆるお姫様なんです、そのお姫様がメイドになる為に、城を黙って出て行ったとしたら、どうなります?」
「わからんな、どうなるんだ?」
「もちろん捕まえる為に追い掛けます、その役割を今回私達が引き受けたという訳です。納得しましたか?」
もし本当にそうだとしても、イリーナが動く理由にならない、ルリは昔イリーナとずっと一緒に居ると約束をしていたが、それを守れずそのまま離れ離れになった。その約束を果たさせる為にその役を受けたとしても、なんだかしっくり来ない、コイツが自分へのメリット無しで動くとも思えない、むしろ連れて帰れる保証なんて無かった訳だし、更に言えば明と政略結婚にまで発展する可能性もあった、どう考えてもデメリットの方が多かった筈だ。
だがイリーナはその役を受けた、その裏にはおそらく大きな見返りがあると俺は踏んでいる。
「もうそんな茶番はよそうか、雨宮·ビルシェタイン·イリーナ」
「茶番……?」
「俺も甘く見られたもんだな、ルリを失った俺が絶望するとでも思ってるのか?」
「……何が言いたいのですか」
「そこの執事、貴様ルリに何を話した?」
「お嬢様の命令が無い限りご回答できま―――」
―――あんま御託ばっか言ってると殺すぞ
「っ!?」
椿や焔は俺から目を逸らす、殺意に充ちたオーラを身体中から湧き出している俺は、本当に今すぐコイツの首を叩き斬る自信がある、俺から大事な物をうばった罪は万死に値する。人生で二度も大事な物を奪われたんだ、舐められたままでは終わらせない、必ず吐くまで逃がすつもりは無い。
すると明は俺を手で制し、一歩前へ出てくる。
「調べはついてるよ、あの話し合いの場にメルリと執事君だけ居なかったからね。さっさと話さないと、日向君に酷いことされるかもね?」
「お……お嬢様」
「……メルリのお母様が体調を崩して倒れた、長くは生きられないかもしれない。そうディートに話すよう伝えたのです」
「その話は本当なのか?」
「えぇ、本当です。『長くは生きられないかも』は嘘ですけどね」
家族の事情までは知らないが、ルリに取ってかなり大切な事なら焦りもするし、悩んだり迷ったりしたのだろう、だが本当はルリを城に連れ戻す為の工作だとしたら、それはルリの自由を奪った上に、私利私欲の為にルリを利用しアイツの気持ちを踏みにじったんだ。
やっぱり権力を持つ野郎はクズだ、我が身の為にここまでするとはな、そうか……ルリは本心で居なくなった訳じゃないんだな、なら俺がやる事は絞られた、コイツらが権力や金を使うなら、俺もそれを見に付ければいい。目には目を歯には歯を……
「…………」
「どうかしましたか? 日向さん?」
「……ふ、ふふ……あは、あはははッッッッ!!!!!」
「な、何ですか一体!?」
「いやぁ……お前面白いね、本当に殺したくなったよ」
「ひ、日向様、いけません」
「冗談だよ、話はわかった。もう俺達は行く」
―――次は俺の番だ
強く睨みつけた後、テラスから俺達は出て行く。もう二度とこの学園には来ないだろう、そしてルリを取り戻す為に俺は―――イギリスへ行く。




