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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
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13 拒絶






 まさか、明が実の兄を潰したいと思っていたとは、予想外の展開が多くて、少し頭を休めたくなる。兄からの命令により、イリーナとの政略結婚を迫まれていて、それを回避する為に忍の邪魔をして潰す気で居る。もし忍が当主になってしまうと、それを回避する事も逃げる事も出来なくなる、つまり当主にならないようにするしか無い訳だ。


 だがそれをする為の妨害作なんて無い、明がそう言っていた訳じゃないが、簡単に思いついていれば既に実行している筈だろう。詳しい事はまだわからないが、ビルシェタインと空閑のトップが話し合っていたら、早い段階で実現してしまう。


 少し気になったのは、イリーナはその事を知っているのかどうかだ、明が話していた事を告げてしまえば、こちらの情報を与えてしまい、ルリを奪われてしまう可能性がある。まだイリーナの狙いがわかっていない為、下手な行動に行動を起こせない、ビルシェタインの情報を得る為にはどうすればいい。




「今帰った」


「あ!?」


「何だ?」




 部屋に戻ると赤川が顔を赤くしながら、俺に指をさしてきた。人に指をさすなと習わなかったのだろうか、まぁ人のことを言えた義理ではないが。


 俺はソファーに深く座り込むと、両脇に赤川と黄島が座って来た。なんだ、ここはそういう店か? いや家なんだが……何故か黙ったまま俺の事をジーッと見つめてくる、何か言いたそうだが俺からは口を開かない、話す事なんて特に無いし余計な事を言いそうだから。


 帰って来た事に気がついたのか、椿や焔そしてルリと青田も部屋に入って来た、広い部屋とは言えここまで人数が増えると、圧迫感が凄いし落ち着かなくなる。




「日向様!」


「だからなんだ?」


「あ、明様とどちらへ行かれていたのですか!?」


「ちょ、赤川直接過ぎでしょ」


「これはメイドとして主の性……ゴホン、行動については知るべきなんです!」




 なんかよく分からないが、勘違いしていないかコイツら、屋敷を出る時に赤川は顔を赤くしていたし、キャーキャー言っていた事も覚えている。正面に座る椿は『あの最低野郎と一緒とか、ナンパでしょ絶対』と、鋭い目付きで睨んでくる。


 正直間違っていないが、俺は心の開き方を知る為に行動していたつもりだ、決して不埒な事を考えていた訳じゃない、明とセットで考えられてしまうのは遠慮してほしい。




「お兄様はナンパをなされたのですか!? 私が居るのにですか!?」


「ナンパなんかしていないし、今変な事を言わなかったか?」


「アンタウチの焔に何する気よ!?」


「何もしないッ!!」


「何にもしてくれないのですかっ?!」


「お前らは少し黙っていろ……」




 話がどんどんややこしくなる、興奮状態の相手に優しくしても逆上させるだけだし、困ったな……それよりも先に赤川の疑問を解かねばならないか。




「俺は明と噴水広場に行っていた、もちろんいかがわしい事じゃない」


「自分で言ってるのって怪しいだけよね」


「お前本気で殺すぞ」



 椿は『あー怖い怖い』と目を逸らしながら言う。結局事情を説明するのに一時間は軽く掛かり、『そんな……日向×明が……』と意味不明な発言をした赤川と黄島。その話の輪にルリは一切加入すること無く、ただただ傍観していただけで、今日はお開きとなった。


 ルリ以外は部屋から出ていき、2人だけになるとルリは口を開いた。




「日向様」


「どうした」


「明様と何かありましたか?」


「どうしてそう思う?」


「明様が何も無しに、日向様を外へ連れ出す事が不思議でしたので」




 珍しく変な事を言っている、アイツらの間に受けたのだろうか、だがルリの表情は暗い、理由はわからないがそんな時こそちゃんと聞かなければならない、コイツは俺が聞かないと話さない所がある。もちろん言えない事は言えないとちゃんと口に出す、話せる事はちゃんと話してくれるのがルリだ。


 だから俺は明が話していた事を、ルリに話してみようかと悩んだが、どうしようか迷ってしまった。以前までの俺なら、ルリさえ居れば他の事なんてどうにでもなれ、位にしか思っていなかったからだ。しかし、今は1人でも味方を多くつけて野望を果たさないといけない、変な迷いがあれば足元をすくわれる。




「ルリは明の事をどこまで知っているんだ?」


「それは……」


「話せない事か?」


「いえ、日向様には極力隠し事をしたくはありません。ですが、明様からどこまでお聞きになったのかわからないので」




 この様子だとルリは政略結婚の事を知っている、もしかしたら違う事かもしれないが、俺からそれを話せば色々吐き出してくれそうだ。そしてイリーナと関わりのある話しだとすれば、知らない事も話してくれるかもしれない。




「俺が知っているのは、政略結婚の事だ」


「明様が話したのですか?」


「もちろんだ。忍に命令されて、イリーナと結婚するかもしれないとな」


「そこまで日向様に話していたのですね」


「あぁ、イリーナも大変だな?」




 俺はあえて『イリーナは嫌がっている』と仮定し、ルリに対して『嫌な者同士がくっつけば、どうなるだろうな』と話した。もちろん真偽はわからないが、ルリの口を動かす為に『イリーナの事情も明から聞いた』と嘘をついた、実際は明も知らないし俺も聞いちゃいない、だが明の悪い所は世間に広まっている。


 もしかしたら、本当にイリーナは明と結婚するのを嫌がっている可能性がある、だとすれば2人にはくっついてもらった方がルリの為になるかもしれない。向こうが口を割りそうにないなら、仮説を作って動いてみるのが一番だろう、ギャンブルに等しいがやるならこれくらいするしか、他に道が無さそうだ。




「なぁルリ」


「はい」


「イリーナと明を結婚させよう」


「え……?」


「もしイリーナが嫌がっているのなら―――」



 我ながら妙案だと思うが、今は仮説でも立てないと時間ばかりが過ぎ、何も出来ずにルリが居なくなってしまう。向こうがどんな情報を握っているのかもわからないし、いつ動き出すかも読めない、指を加えてただ見ているだけで終わるのはごめんだ。


 昔のように何も出来ないままに流されて、周りの言う事しか聞けなくなり、無力の自分を殺したくなるような、あの頃と同じ世界を味わいたくなんかない。




「―――ダメです」


「……なんだと?」


「それでは忍様が当主になってしまいます、そうなれば日向様の野望が消えてしまいます」


「違う、話を最後まで―――」






 ―――いけませんッッッッッ!!!!!





 ルリは震えた声で大きく叫びながら、立ち上がり、部屋から飛び出して行った。




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