13 拒絶
まさか、明が実の兄を潰したいと思っていたとは、予想外の展開が多くて、少し頭を休めたくなる。兄からの命令により、イリーナとの政略結婚を迫まれていて、それを回避する為に忍の邪魔をして潰す気で居る。もし忍が当主になってしまうと、それを回避する事も逃げる事も出来なくなる、つまり当主にならないようにするしか無い訳だ。
だがそれをする為の妨害作なんて無い、明がそう言っていた訳じゃないが、簡単に思いついていれば既に実行している筈だろう。詳しい事はまだわからないが、ビルシェタインと空閑のトップが話し合っていたら、早い段階で実現してしまう。
少し気になったのは、イリーナはその事を知っているのかどうかだ、明が話していた事を告げてしまえば、こちらの情報を与えてしまい、ルリを奪われてしまう可能性がある。まだイリーナの狙いがわかっていない為、下手な行動に行動を起こせない、ビルシェタインの情報を得る為にはどうすればいい。
「今帰った」
「あ!?」
「何だ?」
部屋に戻ると赤川が顔を赤くしながら、俺に指をさしてきた。人に指をさすなと習わなかったのだろうか、まぁ人のことを言えた義理ではないが。
俺はソファーに深く座り込むと、両脇に赤川と黄島が座って来た。なんだ、ここはそういう店か? いや家なんだが……何故か黙ったまま俺の事をジーッと見つめてくる、何か言いたそうだが俺からは口を開かない、話す事なんて特に無いし余計な事を言いそうだから。
帰って来た事に気がついたのか、椿や焔そしてルリと青田も部屋に入って来た、広い部屋とは言えここまで人数が増えると、圧迫感が凄いし落ち着かなくなる。
「日向様!」
「だからなんだ?」
「あ、明様とどちらへ行かれていたのですか!?」
「ちょ、赤川直接過ぎでしょ」
「これはメイドとして主の性……ゴホン、行動については知るべきなんです!」
なんかよく分からないが、勘違いしていないかコイツら、屋敷を出る時に赤川は顔を赤くしていたし、キャーキャー言っていた事も覚えている。正面に座る椿は『あの最低野郎と一緒とか、ナンパでしょ絶対』と、鋭い目付きで睨んでくる。
正直間違っていないが、俺は心の開き方を知る為に行動していたつもりだ、決して不埒な事を考えていた訳じゃない、明とセットで考えられてしまうのは遠慮してほしい。
「お兄様はナンパをなされたのですか!? 私が居るのにですか!?」
「ナンパなんかしていないし、今変な事を言わなかったか?」
「アンタウチの焔に何する気よ!?」
「何もしないッ!!」
「何にもしてくれないのですかっ?!」
「お前らは少し黙っていろ……」
話がどんどんややこしくなる、興奮状態の相手に優しくしても逆上させるだけだし、困ったな……それよりも先に赤川の疑問を解かねばならないか。
「俺は明と噴水広場に行っていた、もちろんいかがわしい事じゃない」
「自分で言ってるのって怪しいだけよね」
「お前本気で殺すぞ」
椿は『あー怖い怖い』と目を逸らしながら言う。結局事情を説明するのに一時間は軽く掛かり、『そんな……日向×明が……』と意味不明な発言をした赤川と黄島。その話の輪にルリは一切加入すること無く、ただただ傍観していただけで、今日はお開きとなった。
ルリ以外は部屋から出ていき、2人だけになるとルリは口を開いた。
「日向様」
「どうした」
「明様と何かありましたか?」
「どうしてそう思う?」
「明様が何も無しに、日向様を外へ連れ出す事が不思議でしたので」
珍しく変な事を言っている、アイツらの間に受けたのだろうか、だがルリの表情は暗い、理由はわからないがそんな時こそちゃんと聞かなければならない、コイツは俺が聞かないと話さない所がある。もちろん言えない事は言えないとちゃんと口に出す、話せる事はちゃんと話してくれるのがルリだ。
だから俺は明が話していた事を、ルリに話してみようかと悩んだが、どうしようか迷ってしまった。以前までの俺なら、ルリさえ居れば他の事なんてどうにでもなれ、位にしか思っていなかったからだ。しかし、今は1人でも味方を多くつけて野望を果たさないといけない、変な迷いがあれば足元をすくわれる。
「ルリは明の事をどこまで知っているんだ?」
「それは……」
「話せない事か?」
「いえ、日向様には極力隠し事をしたくはありません。ですが、明様からどこまでお聞きになったのかわからないので」
この様子だとルリは政略結婚の事を知っている、もしかしたら違う事かもしれないが、俺からそれを話せば色々吐き出してくれそうだ。そしてイリーナと関わりのある話しだとすれば、知らない事も話してくれるかもしれない。
「俺が知っているのは、政略結婚の事だ」
「明様が話したのですか?」
「もちろんだ。忍に命令されて、イリーナと結婚するかもしれないとな」
「そこまで日向様に話していたのですね」
「あぁ、イリーナも大変だな?」
俺はあえて『イリーナは嫌がっている』と仮定し、ルリに対して『嫌な者同士がくっつけば、どうなるだろうな』と話した。もちろん真偽はわからないが、ルリの口を動かす為に『イリーナの事情も明から聞いた』と嘘をついた、実際は明も知らないし俺も聞いちゃいない、だが明の悪い所は世間に広まっている。
もしかしたら、本当にイリーナは明と結婚するのを嫌がっている可能性がある、だとすれば2人にはくっついてもらった方がルリの為になるかもしれない。向こうが口を割りそうにないなら、仮説を作って動いてみるのが一番だろう、ギャンブルに等しいがやるならこれくらいするしか、他に道が無さそうだ。
「なぁルリ」
「はい」
「イリーナと明を結婚させよう」
「え……?」
「もしイリーナが嫌がっているのなら―――」
我ながら妙案だと思うが、今は仮説でも立てないと時間ばかりが過ぎ、何も出来ずにルリが居なくなってしまう。向こうがどんな情報を握っているのかもわからないし、いつ動き出すかも読めない、指を加えてただ見ているだけで終わるのはごめんだ。
昔のように何も出来ないままに流されて、周りの言う事しか聞けなくなり、無力の自分を殺したくなるような、あの頃と同じ世界を味わいたくなんかない。
「―――ダメです」
「……なんだと?」
「それでは忍様が当主になってしまいます、そうなれば日向様の野望が消えてしまいます」
「違う、話を最後まで―――」
―――いけませんッッッッッ!!!!!
ルリは震えた声で大きく叫びながら、立ち上がり、部屋から飛び出して行った。




