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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
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12 価値観





 広場の中を探し回ってようやく明を見つけ、俺達は待たせていたリムジンに乗り込んだ、明を探すのに少し時間を使ってしまったが、1人で歩き回るのも悪くないと思えた。ずっとイリーナの件で頭を悩ませ、ルリの事で焦りを感じ、それらを1つに纏めて上手く行動できるかまで考え、正直オーバーヒート気味だった。


 ちょっとしたきっかけで、明に無理矢理だが外に連れ出され、知らない女の子に声を掛けたり、気がついたらメッセージアプリに名前が登録されていたり。こんなにも振り回されたのは生まれて初めてだった、最初は無意味だと思っていた俺だが、車に乗り込んだ後に、『たまには、歩くのもいいものだな』と考えてしまった。


 頭をクールダウンさせるならだが、平常運転の場合だとやはり屋敷の中で過ごしてしまいそうだ、昔に一回だけルリが『お庭に出ませんか?』と誘ってくれたが、当時の俺はそんな場合じゃなかった、空閑を潰す事に必死で気持ちに余裕が無かった。今でも余裕なんて無い、だが昔ほど頭が固い訳じゃない、今回は少しばかり目的があって外に出たが、特に目的無しで歩いても悪くは無いと思っている。




「どうだった養子君」


「何がだ?」


「ナンパだよナンパ」



 ニシシっと笑いながら俺に感想を求めてくる、正直に話すならよく分からなかった、恋人を作る為に行う作戦としてなら、このやり方はなんだか違う気がする。全く見知らぬ相手と仲良くなる為に話し掛け、連絡先を交換して別れる、もしかしたら連絡をしても無視されるかもしれない、交換しても直ぐに消されるかもしれない。


 小さな子供なら、急に話し掛けて遊ぶ事になるのはよくあるが、成長した同士だとそんな簡単に上手くいかない筈だ。俺が深く考え過ぎなのか、それとも好きな相手が居ないからだろうか、やっぱりわからない。




「正直意味があるのかと思った。知らない同士だし、急に仲良くだなんて無理だろ」


「じゃあ聞かせてもらうけど、養子君は何故ここに居る?」


「それはお前が」


「違う違う、何で空閑の屋敷に居るんだよって話しさ」


「ルリが引き取ったからだろ」


「その時の君は相手を疑わなかったのか?」


「それは……」




 あの時の俺は、複雑な気持ちが頭の中でグルグルと回っていた、知らないメイドに声を掛けられて、疑う事よりもこれから先どうすればいいのか、生きていくにはどうすればいいのか、頭の中はそういう事しか浮かんでいなかった。地獄のような生活から解放されたばかりで、さらに言えば幼かった俺に、ルリを疑う事なんかできやしなかった。



「要はきっかけなんだよね。ちょっとした事が次に繋がる訳さ、養子君がメイド長に拾われたのもきっかけだよ」


「きっかけか」


「だからナンパって、きっかけを無理矢理作って、ちょっとでも相手の中に残るようにする」


「便利なものだな、それで嫌われたりしないのか?」


「最初から好きになる女とか居ないって、話したばかりじゃないか。でもよく考えてみなよ、嫌うって事は記憶に残るんだよ、そこからが勝負なんじゃないの?」



 スライドしていく景色を見ながら話す明、俺はコイツとまともに話した事がない、それなのにコイツは、俺を馬鹿にせずちゃんと受け答えしてくれている。俺はずっと兄の忍のような、仲間じゃない奴は絶対に敵……のように壁を作る人間かと思っていた。


 メイド達や椿は『最低な男』とも言っていたが、こうして話せばちゃんと返してくれている、明は空閑で何を目指しているのかが気になった。兄は当主の座を狙っている、なら弟はどうなんだろうか、同じなんだろうか、権力や金で何もかも手に入れたいと考えているのだろうか




「明」


「なんだい養子君」


「お前は空閑に居て目的とかあるのか?」


「目的ねぇ……ハーレム、とか?」


「真面目に答えろ」



 おちゃらけながらそんな事を言う明、本当にただ女と遊びたいだけなら、さっきの説明なんてわざわざしない。俺は少し感じ取っている、明は兄とは違う何かを目指している事を、もしかしたらただ俺が確信を得たいだけかもしれん。


 兄と同じ当主の座か、それとも全く違う道を目指しているのか、俺のように潰したい奴が居るのか。




「真面目に、ね。まぁ養子君は口が堅そうだし、話してもいいかな」


「他言はしない、約束する」


「そっか。じゃあ話すよ、僕が目指しているモノを」



 さっきまでのおちゃらけた空気が一瞬にして変わった、明の目は鋭くなり、身体中から異質なオーラを解き放って居た。思わず飲まれそうになった、普段はどんな感じかわからないが、おちゃらけた空気を常に纏っているのだろう、それが今はピリピリとしたモノに変化している。


 総帥に近いオーラを感じる、欲望とは違う別の何か。その為なら何だってしそうな、それこそ俺が叶えたい野望のように。




「僕はね、()()。ずっとね、」




 今日、いや住んでいながら初めて俺の名を呼んだ。恐怖とは違う、なんだこの感じは、コイツからヒシヒシと何かを感じる。なんなんだ、忍とかそんなのよりもっと黒い何かを感じる、なんなんだ。






 ―――兄を潰してやろうと考えているんだよ





 まるで少し前の椿と焔のような感じだが、そんなもんじゃない、コイツから感じていたモノがようやくわかった。明から感じていたモノは、『殺してやりたい』と言ったかなりドス黒いモノだった。


 何故兄を潰したいのか、どうしてそう思っているのか、




「すまない言葉足らずだったね、僕はね、兄から命令を受けているんだよ」


「命令?」


「あぁ。イリーナ·ビルシェタインと政略結婚しろ、とね」


「なんだと!?」



 まさかイリーナ絡みだったとは思わなかった、本来ならその事を忍に聞くはずだった俺だが、こんなところでそんな情報を得られるとは……全く予想していなかった。なら、コイツはビルシェタインについて、何か知っているんじゃないのか?


 聞きたいことは少なからずある、忍に聞くよりコイツから聞いてしまえば、イリーナについてもっと知ることが出来るはずだ。



「政略結婚すれば、空閑とビルシェタインは安泰だそうだよ。そんな事で、僕は好きじゃない女と一緒とか……」






 ―――勘弁してくれよ、あの糞野郎






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