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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
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11 瞳の色





 俺の身体に乗っかったままの女の子は、ゆっくりと上体を起こして、第一声が『フルコン取れなかったじゃん!』だった。一瞬何の事だかわからなかったが、彼女が手にしていたスマホを見て、直ぐにゲームの事だと理解した。普段ゲームなんかしないから、そんな単語を言われてもさっぱりだ。


 今はそんなことより早くどいてくれないと、チラチラと彼女の下着が見えてるし、周りから変な目で見られてしまう。明はクスクス笑いながら、ただただ傍観しているだけで、助けようとはしない。何の為に一緒に居るのかわからなくなった、何かあったら助ける的な事を言ってなかったか? 聞き間違いだろうか、とにかくこの状態から抜け出さなくてわ。




「悪いがどいてくれ」


「え、あぁ! ごめんね!」



 ヒョイっと身軽に俺から離れ、俺が立ち上がろうとすると、彼女は手を差し出して来た、さっきのように倒れてしまったら意味が無い、あまり力を入れないように極力自力で立ち上がった。




「はぁ……また最初からやり直しかぁ」


「さっきからフルコン? だとか言ってるがゲームか?」


「およ!? 気になります?」


「ゲームは普段しないからわからないが、君が言っている単語が気になる」



 赤ブチ色メガネをクイッと人差し指で持ち上げる、パーカーを着ているがチャックをしていない為、アニメイラストがプリントされたシャツが丸見えだ。いわゆるオタク女子ってやつなんだろう、だが気になったのは瞳の色が濃い赤色をしている事。


 彼女は日本人じゃないのか、でもカタコトでも無いし違和感は一切感じない、ハーフとかなら分かるがそれっぽく無い。色々考えていると彼女はゲームについて語り始める、『私がやっていたのはリズムゲームって奴ですね!』と、力説し始めた。気がつけば明の奴は俺達から離れ、他の女の子に話し掛けていた、完全に目的を忘れられているような……




「ちょっと聞いてます?」


「あ、あぁすまない」


「もう一度話しますよ? このリズムゲームは『アイドルクライシスター』と言いまして、世界ダウンロード数ナンバーワンなんです」


「ほぉ」


「画面の上部から流れてくる譜面を、リズムに合わせて叩くゲームなんです。これがまた奥が深くて―――」




 熱弁を開始された挙げ句、『どうせならインスコしてください!』と、またよくわからん単語で話されて流されるがままゲームをダウンロード。俺のホーム画面にキャラクターの顔が表示されていた、そこをタッチすればゲームのタイトルコールが流れ、ゲームが始まった。


 本来とは目的が一気にそれている、いいのかこれで、本当にこれで彼女と打ち解けているのか? はっきり言って、彼女の趣味をオススメされてるだけのようだが、ニコニコしながら説明している顔を見ると、途中で話の腰を折るのも良くないと思い、気が済むまで付き合う事にした。


 そして辺りも暗くなり夕飯時になると、彼女はベンチから立ち上がり、スマホをポケットへしまった。




「いやぁ、つい熱が入っちゃったよー」


「そのようだな」


「さてー、そろそろ戻らないと怒られちゃうから」


「そうか、変な感じだが引き止めてすまなかった」


「んー? あははっ! 良いんだよー? こうしてゲームを語り合う仲間が出来たわけだし?」


「ほとんど君が話していたがな……」



 あれから結構な時間話していたが、一切疲れを見せなかった彼女、話している時の表情はキラキラしていて、世の中にはこんな女も居るのかと、感心してしまったくらいだ。しかし、ゲームをダウンロードしたがやる時間は無い、だが消すのも彼女に悪い気がする、とりあえず残しておいて本当にやらないなら消そう。


 わざわざレクチャーしてもらった訳だし、息抜きをする時にやってみるのもアリだろう、中々奥が深いゲームって事は理解した。まだゲームの感覚は理解できないが、こういうのも勉強なんだろう、色々経験するなら丁度いい。




「そうだ! 君名前は?」


「名を聞く時は先に名乗るのが『日本人』の流儀だぞ?」


「あれれ、私が日本人じゃないってバレてた?」


「瞳の色でな、カラーコンタクトだったなら謝るところだが、君がそういうならそういう事なんだろ?」


「正解! ぱんぱかぱーーーーん!」




 一々オーバーリアクションな彼女、両手を大きく広げて変な効果音を叫ぶ。見ていて飽きない奴は初めてだが、ちょっと……いやかなりうるさい、このままでは埒が明かない、俺から名乗ることにしよう。




「はぁ……俺の名前は、空閑日向だ」


「くが……ひなた? くがってどこかで聞いたよーなー……」


「苗字なんて、日本に来れば同じ奴くらい一杯居るだろ?」



 俺はあえてそう答えた、一々空閑グループの空閑だとか言いたくない、その内滅ぶ名前なんだからな。というか俺がその苗字が好きじゃないだけなんだが、理由なんて話さなくてもわかるだろう。


 空閑の名は影響力が強い、名乗るだけで相手は萎縮する。そんな力でビビらせても、何にも面白くないしメリットなんか無い。




「それもそうだねっ、私は『エーリカ·ヴァンデミール』だよ、ヨロシクね!」


「まぁ、もう会わないだろうがな」


「そうかなー、よく日本には来るからまた会うかも? 何なら連絡先交換しよ! それがいいよ絶対に!」



 彼女、エーリカは俺のスマホを取り上げると、メッセージアプリを起動し、慣れた手つきで番号を入力していく。完了したのか俺にスマホを手渡して来た、アプリ内にある『フレンド』の中に彼女のアカウントが入っていた、ほとんど使わないアプリだからか、エーリカ以外のアカウントは存在していない。


 屋敷に居れば必ず交代で部屋にメイドが居るし、外にいる時もスマホはあまり使わない、これを機会に少しスマホの使い方も勉強するとしよう。







 ―――お嬢様あああああああ!!!







 広場の入り口付近から誰かの叫び声が聞こえた、こちらに向かって走ってきてるような気がする。




「うわ、もう来ちゃった。じゃあヒナ君! またね!」


「ヒナってまさか俺の事か?」


「ニックネームってやつだよん!! さよならあああ!」



 手をブンブン振りながら、エーリカは広場から走り去った。その後を追うように、エーリカの関係者だろうか、俺の目の前を猛スピードで走り抜けて行った。




「今確か、お嬢様とか言っていたな……」



 どこかのお嬢様なのかわからないが、俺はとにかく明を探す為に広場の中を歩き回る事にした。





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