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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
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10 ナンパ師の実力

今週から土日も更新しますが、平日の月曜日火曜日が代わりに休みとなります、ご注意ください。




 時間は夕方頃、屋敷からしばらく走っていたリムジンが停車する。着いた場所は都市部でも一番人が行き交う街で、周りを見渡せば若いカップルから会社員などで一杯、俺は普段こんな所に来たりしないせいか、居心地があまり良くない。


 あきらは車から降りると直ぐに噴水広場へ向かう、それを後からゆっくりと歩いて付いて行く、どうして俺はこんな所に来たのか、今頃なら部屋でビルシェタインについて調べているくらいだろう。だが予定は一気にこの男のせいで狂った、コイツは俺に何をしようと言うのか、全く予想がつかない。


 噴水広場に入ればあちらこちらにカップルが居る、そして女の子だけの集団が、噴水近くで座っているのを見つけた。明は『養子君、見ていろよ?』と、俺の背中を叩くと走って女グループへ突撃していった、仲間だと思われたくない俺は、近くのベンチに座り明を見守る。




「やぁやぁ!」


「はい?」



 明はグループの内の1人に話し掛ける、その女の子の友達だろうか、『え、知り合い?』『何何彼氏〜?』と茶化しているが、女の子は首を全力で横に振っている。馴れ馴れしく明はその横に座り込み、ニヤニヤしながら話を続ける。




「僕さ、ビビッときたんだよね」


「は、はぁ」


「めちゃくちゃ可愛いし、スタイルも抜群、僕の超好み」


「あ、はぁ……」




 女の子はかなり明に不信感を抱いている、表情も固いし苦笑い、それでも関係無く明はベラベラと口説いていく、ナンパってこんな感じにやるんだろうか、経験と言うか興味が無い俺には理解出来ない。外から見ていればただの怪しい男だし、最悪警察に通報されかねない勢いだ、どう考えても失敗してるようにしか見えないな。


 だが、明は諦めずに話し続ける、時間が経つ事に女の子も満更じゃなさそうな表情に変わっていく、時々耳打ちをしているが、何を話しているかまではわからない。そして、口説き初めて30分、明と女の子は手を振りあった後こちらへ戻って来た。




「待たせたな養子君」


「なんだ、失敗したのか?」


「失敗? ナンパに失敗なんて無いさ」


「は? ナンパって彼女を作るのが目的なんじゃないのか?」


「彼女? あは、あはははは!」




 ん? 俺は何か笑うような事を話したか? ナンパって彼女が欲しいからやるんじゃないのか? 明は腹を抱えて笑っている、ちょっとイラッとしたが知らない事なんだし、明に当たるのもおかしいと思い、理由を聞くことにした。




「養子君、いきなり『俺と付き合え!』とか言って付いてくる女が居るか?」


「わからん、経験が無いからな」


「だろうなー、そもそもそれで『付き合います』とか言う女は尻軽すぎだろ。何か目的がある訳だしな、だから友達から始めるんだよ」


「友達……」


「簡単に説明するなら、遊んでくれるか聞いただけだよ。僕だって阿呆じゃない、初対面で付き合えとか言えないし、相手も俺も中身なんか知らないからね」



 説明は良くわかるが、初対面でいきなり話し掛けて仲良くなるものなのか? 学校じゃあるまいし、普通に考えれば相手も怖がるはずだ。だが明はそんな風にさせなかった、コイツには心を開かせる話術でも会得してるのだろうか、明はスマホの画面を俺に見せてくる、『ちゃんと連絡先交換したからね』とニコニコしながら言ってくる。


 女グループは広場から去っていくが、その時に明と話していた子が手を振ってきた。明はもちろん振り返していた、俺は明の事を良く知っていない、知ろうとは思わなかったからだ、だが今回ので少しだけ見る目が変わった。コイツから話術を教われば、イリーナやルリから何か喋らせる事が出来るかもしれないと。




「明」


「なんだい、養子君」


「俺にもコツを教えてくれないか、女の子の心の開き方を」


「なんだ? お前もこっちの道に来るか?」


「それは断る」


「君は心の中身を見せないねぇ……まぁいいけど」



 ベンチから立ち上がると、明は俺に『じゃあどの子がいい?』と広場を見渡しながら言ってくる、その言い方だと誤解を生みそうだが、教えてくれるならそんな事も言ってられないか。俺もよく目を凝らして周りを見る、この時間はカップルの方が多く、1人で歩いている女の子を見つけるのが大変だが、



「じゃあ、あの子にしよう」


「ほー、金髪メガネちゃんか。しかもオタクシャツを着てるな、でもスタイルヤバいな。じゃとりあえず話しかけてみなよ」


「話し掛けるって普通にか?」


「あぁ。一緒に居てやるから大丈夫だって」



 下手したら通報とかされそうだな、まぁその時は明に投げて俺は帰るがな。ゆっくりとその女の子に近づいていく、その子は両耳にイヤホンをしていて、スマホを見ながら画面をペシペシ両手親指で叩いてる。


 なんか時々悔しそうな顔をしたり、笑ったりと百面相を浮かべている、邪魔しちゃ悪いかもしれんがさっさと終わらせたい。




「あ、あのさ」


「あーもう……またミス……」


「すまない、少し良いか?」


「ちょ!? 何でここでラグるの!?」


「…………」




 全然話が聞こえていない、俺はどうするか悩んでいると、女の子は歩きながらスマホを見ている為、数歩先の空き缶に気がついていない、俺は咄嗟に身体が動き、




「危ないッッッ!!!」


「ひゃわああああっ!?」



 その子の腕を掴み、俺の方へ引き寄せるが、ちょっと力を入れ過ぎたせいで、勢いよく背中から地面へ叩きつけられた。俺の身体の上に乗っかってしまった女の子は、強く目を瞑っている、そしてなんとも言えない柔らかさと、女の子特有の香りが、鼻の穴を通り抜け頭に刺激を与える。


 空閑明と居ると、ろくな事が起きない事を今知った。




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