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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
39/99

9 可能性




 ―――忍、空閑忍くがしのぶ


 ビルシェタインの事について詳しい人間は、屋敷内でもかなり限定されている、そしてその中の1人が『空閑忍』のようだ。椿の口からそいつの名前を聞いた瞬間、俺は部屋から飛び出していく、支社を任されているのなら、深い事情まで知っているかもしれない。


 盲点だった、総帥以外でグループに関わりがある人間が、こんなに近く居た事を。奴から色々聞き出せば、イリーナを倒す手掛かりが掴める筈、ルリの奪還、イリーナの母親死亡、空閑を潰す目的。それらが一致する理由を、忍が知っているなら、ルリを失わないで済む。


 俺は忍が屋敷に居れば、必ず一度は現れる場所へ向かう。廊下を走り階段を駆け下りて行く途中、赤川と黄島とすれ違うが、俺は無視して突き進む。話しかけられた気がしたが、構っている暇は無い、とにかく真実を知りたい。




「はぁ、はぁ!!」



 客間までダッシュで来たが、そこに忍は居なかった。その代わりに奴の弟、『空閑明くがあきら』がソファーで寝転がって居た。ここに居ないのなら、忍はまだ会社に居るって訳なんだろう、少し早とちりだったようだ。


 このまま部屋に戻るのもアレだ、一応話し掛けた方がいいだろうか、コイツとはあまり話した事がないんだが……




「帰っていたんだな明」


「んー? なんだ養子君じゃないか」



 寝転がって雑誌を見ていた明は、身体を起き上がらせてこちらに振り向いた。髪は金髪で、制服をワザと着崩し、毎日女の子を見つければナンパする変な奴。実際に目撃した訳じゃないが、メイド達や椿の話を聞いていると、相当酷いらしい。成績は普通だが、忍と比べると天と地の差だ、コイツは権力より金でモノを言わすタイプだ。


 黙っていればイケメンなんだろうが、喋ればただのナルシスト。これもメイド達の受け売りだ、本当はどうなのか全くもって知らない、コイツは女以外に興味は無さそうだし、ビルシェタインについては期待できないな。




「忍お兄様を知らないか?」


「兄さんかい? 今頃仕事じゃないかなー、それより可愛い女の子知らない?」


「生憎とそういうのは疎くてな、他を当たってくれ」


「残念だなぁ、君も女の子と遊んだ方がいいよ」


「そうかもしれないが、興味が無くてな」


「いやぁ損してる。人生の9割損してる」



 立ち上がるとゆっくりと近づいて来た、そして俺の肩に腕を乗せ、『女の子って奴はね? 遊ばないと心を開かないんだよ、わかる?』と急に語り始める、ウザイしなんか馴れ馴れしい。そもそも俺は女と遊び呆けてる暇なんて無い、コイツは何も考えずに普段過ごしているかもしれん、だが俺はそんな事に時間を割く余裕は無い。


 と言うかコイツから香水だか何だかわからないが、その匂いのせいで頭が痛い、さっさと部屋に戻りたいんだが、話を聞くまで離してくれなさそうだ。




「わからないな、それより残り1割はなんだ?」


「1割かい? 9割が遊びなら1割は寝る?」


「お前はあんまり寝ていないのか? 効率が悪いな」


「女の子と遊ぶのに効率とか無い無い、いかに楽しませるかだよ」


「そうか、もういいか?」



 肩を組まれた腕を払い除け、俺は明に『部屋に戻りたいんだが』と付け加えて話す。忍に用事があるのにこんな奴に出会うとは幸先が悪いな、また奴が帰って来たらここに訪れる事にしよう、それまで色々と調べ物をしたいし。


 と、考え事に耽っていると……




「おっと、まだ帰さないよ。今から僕と街へ出かけないか?」


「お前は人の話を聞いているか? 部屋に戻りたいんだ俺は」


「いやだから帰さないよって、僕は言ってるんだ」


「しつこい野郎だな、ナンパもそんな感じか?」


「女の子にはもっと優しいよ僕は、兄さんは知らないけど、僕は君に可能性を感じるんだ」




 思わず『何?』と聞き返してしまった、コイツは俺の何に可能性を感じたのか、つい気になってしまった。忍は俺を『下等生物』扱いしているが、コイツは至って普通だ、ただ何を考えてるのかがわからん、急に街へ出かけようだなんて言い出すし、何が狙いなんだ?


 明は制服のジャケットを羽織ると、俺の背中を強く押し始める、無理矢理にでも外へ連れ出すつもりなんだろう。このままではコイツの思い通り、無駄に時間を消費させられてしまう。




「おい、押すな!」


「君は『ナンパ師』の才能を感じるんだ!」


「ふざけるな! そんな意味わからん才能なんざないわ!!」


「良いから良いから!!」


「やめ……やめろッッ!! 離せ!」




 結局無理矢理背中を押され、『絶対に離さない』と言わんばかりに腕を掴まれ、俺は屋敷の外へ連れ出された。途中『日向様が明様に誘拐されてる!?』と、赤川が顔を赤くしながら反対方向へ走り出した、何故助けないのか、何故顔を赤くしていたのかわからない。


 どうせこれ以上暴れても一緒だろう、少しだけ付き合ったら帰る、絶対に帰る。こんな奴と一緒に居れば悪影響しかない、俺の評価に響く事間違いない、適当にあしらってさっさと終わらせてやる。




「少しだけだぞ、直ぐに帰るからな」


「あーっはっはっは!! いやぁ養子君面白いねぇ!」


「貴様覚えていろよ……」



 いつの間にか用意されていたリムジンに乗り込み、俺達は都市部を目指して走り出した。変な事にならなければいいが、もしもの時はコイツを放置して帰る、そうしよう。




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