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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
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5 異端者





 朝の正門前、再開した者と初対面の者で、道を塞いでしまっていた。昨日は屋敷の中からイリーナの姿を見ていた俺、実際に直面してみると本当に小さい。小学生と言われても信じてしまいそうだが、そんな言葉すら簡単に跳ね除けてしまう程に、彼女の身体から溢れ出てくるカリスマ性は、ここに居る人間より遥かに強い。


 車の中でずっと無言だった焔は、俺の背中に隠れて挨拶すらしない。男にビビってるならまだいい、同じ女の子にビビってるのはどうなんだ? 過去に何かされたのか? 何にせよ、俺にはまだ知らない事が多々ある、それらを知る為にはイリーナに近づく必要がある。


 睨み合い……とは少し違うが、妙な空気感を先に切ったのはイリーナからだった。鼻で『ふっ』と小馬鹿にしながら、俺達の前から去る、その後を追うように車から出てきた執事は、軽くこちらに会釈をした後居なくなった。


 プライドが高い女、いや、高飛車か? どちらも少し該当しにくい奴ではある、取っ付きにくいと言うか、やはり壁を張り巡らせている。あの女が知っている事を上手く吐かせたい、そしてルリの過去に繋がる何かがあれば、ルリの事をもっと理解出来るようになる。




「俺達も行こう、遅刻なんかしたら恥ずかしいからな」


「アンタに言われなくとも行くってば」


「お姉様……口が悪いですよ……」


「いいのよこれくらい」



 先に歩き出した椿を追いかける焔、上手くやれているようで何よりだ。それよりも、ルリはイリーナと会うことを、少し拒んで居るように見える、今はやはりその事は置いておいた方がいいのかもしれん。


 俺も2人の背中を見ながら、教室へと向かった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 何というか予想はしていたのだが、イリーナは俺達のクラスに編入してきた。これがアニメや漫画なら喜ぶ所なんだろう、しかし、俺達からすれば少し厄介な出来事になる。もちろんいずれはイリーナと共闘し、空閑を潰すつもりで居るが、向こうがその気になるかが問題だ。


 まず、イリーナ自身は『空閑』自体を潰すつもりで居る、もちろんその中に俺も入っているはずだ。そうなれば掛け合ったとしても、邪険に扱われる可能性がある、そうならない為にはどうすればいいか……




「雨宮·ビルシェタイン·イリーナです、知らない人は居ないと思いますけど?」


「雨宮さん、ようこそ我がクラスへ! いやぁ鼻が高いですよ、空閑さんもいらっしゃいますし!」


「先生? あんな成り上がり企業と一緒にしないでくたさいます?」


「あ、す、すまないね……それより君の席なんだが」




 自己紹介の場で、空閑を敵として見ているアピール。もちろん周りの奴らは驚いている、日本に住んでいれば誰もが知っている空閑の力、それを怖くないと言っているのがイリーナだ。それに、椿は格下げされて空閑の力なんて無い、実際に力を持っているのは焔と、別のクラスに居る『空閑明くがあきら』くらいだろう。


 名前だけで力が無いのは俺も一緒だ、そうなればクラスの連中は、警戒する対象を変えてしまう。ビルシェタイングループの力はどれだけ影響するのか、まだわからない所だが、何か仕掛ける為にわざわざ来たんだ、様子を見ながら行動するしかないだろう。




「席は空閑日向君の所でいいかな?」


「空閑日向……あぁー、あのゴミ養子?」


「あ、雨宮さん、あまり空閑さんちを酷く言わないであげてください」


「ゴミをゴミと呼んで、何がわるいのかしら? まぁいいです」



 コイツは正直上手い、全員に自分の存在する理由をアピールしてる、普通なら空閑を否定している奴が居れば、『あの子消されるんじゃない?』『空閑の力を甘く見てる』とザワつくのだが、『ビルシェタイングループ……凄い』『世代の移り変わりを見れるかも』と、マイナスよりプラスに働いている。


 とてつもなく面倒な奴が出てきたものだ、だからこそ味方に付けたい。コイツの役回りを考えれば、復讐する為には必須アイテムかもしれない、貴重なアイテムを見逃してしまっては、俺に先は無いだろう。


 イリーナは俺の右にある席へ座る、俺はあえて挨拶をせず、目も合わさないで教壇を眺めている。左の席に座る椿は、『おチビおチビ死ね』とぶつくさと呟いてる、まさにサンドイッチな訳だが。




「空閑日向」


「……何か?」


「椿を出し抜いたそうですね?」


「僕にはなんの事だか」




 この女、俺が椿を降格させた事を知っているのか、あの浮気事件は、ニュースや雑誌に出ていたから誰でもわかる事だ。しかし、降格した事は公表していない、例えこのクラスの人間が話したとしても、イギリスに居るイリーナにまでどうやって伝わったのか。


 椿は確かに学園指定の制服じゃない、今はメイドと学生の両方をこなしている、毎回着替えるのも面倒だし、メイドを完璧にこなす事も含めて、その恰好になっている。それをわざわざ周りが言いふらしても、なんの得にもならないし、良くて椿の圧力が無くなったくらいだ。


 つまり、この学園か、または総帥等の立場が強い人間が、どこかで漏らした可能性がある。漏れた所で困りはしないが、内通者が屋敷に潜んでいたりするかも知れない。




「このイリーナに隠し事は通用しません……空閑日向の過去も全て……知っているのですよ?」


「……だから何だ?」






 ―――空閑が憎いデスカ?





 わざと語尾だけをなまらせて、挑発してくる。コイツ、俺の事を調べてきたのか? 何が目的でここに来たのか余計にわからなくなる。俺はイリーナの事を知らない、だがコイツは俺の事を知っていた、やはり空閑を潰すならそれくらいの事をやらないとダメなのか?


 だから俺は答えた、




「君のように賢い女は、初めてだよ」



 と。





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