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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
32/99

4 白銀





 手紙の日付けを確認するのと、ほぼ同時に屋敷の呼び鈴が鳴り響いた。俺とルリは目を合わせる、手紙が出された日は3日前、そしてイリーナが来る日は、手紙上だと明日になっている。


 もしこれが単なるラグだと言うなら、今屋敷の下に来ているのは、イリーナの可能性がある。まさかこんなにも早く会えるとは……予想できなかった、確かに俺も早く会ってみたいとは思っていた、だが、ここまで事が上手く進むのは、少し嫌な予感がする。


 我ながら動揺している、目的は違えど倒す相手は一緒、ビルシェタイン……イリーナを味方にすれば、かなり大きな一歩を踏み出せる。しかし、まだどのように誘うかは決めていない、いきなりがっついたとして、拒否されれば道が遠のいてしまう。自分でもここまで焦るとは思わなかった、手も少しだけ脂汗が滲み出てくる、まずは挨拶をしなければ。




「ルリ―――」


「―――お待ちください」


「何だ?」


「ご挨拶は明日にでも可能です、今日はやめておきましょう」


「何故だ!? 奴は下に来ているかも知れない!」


「急いては事を仕損じる……日向様、明日に致しましょう」



 珍しくルリの表情が暗い、いや、気を張っている感じがする。元主人に会うのが嫌なのか? 理由を聞こうにも、彼女の目は窓の外に向いていて、何かを話してくれるような、空気でも無かった。イリーナとルリの間で、何かあったのだろうか、今はそれを探る余裕を持てない。


 俺は少しずつ落ち着きを取り戻し、イリーナと会ってからの行動を考える事にした、奴が日本に来た理由はおそらく、『空閑を潰す』為だろう。話を聞く感じでは、相当空閑に敵意を向けているようだ、理由が本当にそれだけなら構わないが、他にも何か目的があるんじゃないだろうか。


 深読みをしてしまう、空閑と並ぶ位に大きな組織は、ビルシェタイン以外は居ないだろう。俺自身まだまだ勉強が足りていない、また書斎にでも行って、企業情報を探るのもありだし、あそこには過去の文献なども置いてある、まずは小さな事から始めるしかない。


 何気なく、窓から屋敷の下を覗き見る。スーツを来た男と、太陽の光を反射し、キラキラと輝く長い白銀の髪の少女。可能性はほぼ確信へと変わった、あの白銀の髪が『イリーナ』で間違いないだろう。





「あれが、雨宮·ビルシェタイン·イリーナか」


「はい。ビルシェタイングループ、現社長のイリーナ様です」




 俺の横に立ち、あれがイリーナであると話すルリ。俺達はイリーナが去るまで、窓から目を離すことなく、ジッと彼女の事を見ていた。俺から何かを聞けば、いつも教えてくれるルリだが、イリーナとルリの過去については、やはりまだ教えてくれない。


 この2人の間には何かある、だが先にしなくてはいけない事は、イリーナと接点を持つこと、俺に興味を持つ事だ。椿が言うには、かなり癖がある人物であり、空閑をとことん嫌っている。いくら潰す為でも、わざわざこちらに乗り込んで来るのは、他にも何か企みがあるからだ。それも知る必要がある、でないと俺も動けないし何も出来ない、今回は椿に動いてもらう事にしよう。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 翌朝、俺達はいつもの様に学園へ向かう。椿はメイド服のままだが、俺はもう見慣れてしまった、屋敷の掃除をし、庭の手入れもし、晩御飯の準備もしている椿。屋敷に住んでいる奴らは、『椿はメイドの方が良く似合う』と馬鹿にしているが、その中でも『空閑忍くがしのぶ』だけは違った。


 空閑忍は、空閑グループの支社を任されているエリートで、分家でも最上位に立つ男だ。そして椿を心から愛しているらしい、しかし、椿は『あんな男とかごめんだわ』と、苦虫を噛み潰したような表情で、俺に話してくれた。忍は仕事が出来る奴ではあるが、椿の事になればいつも必死なんだとか。


 現在は90回椿に告白をしたが、全て断られている。メイドに格下げされた時も、『僕のメイドになりなよ』と告げたのだが、それもあっさり断られていた。まぁ、ここに残る条件として、俺のメイドで居なければならないから、断られて当然なんだが。


 そして忍には弟が居る、俺達と同年代でかなりのナンパ師で、いっつも女の子のお尻を追いかけている、そいつの名は『空閑明くがあきら』だ。兄とは違ってかなりのポンコツだが、黙っていればかなりのイケメン、残念な奴って事だ。とにかく可愛い子に言いよる明は、毎日デートに出掛けるらしいが、付き合うまではいかないらしい。


 理由は知らない、青田達が言っていたが、ただ一人だけを愛す事ができない、クソ野郎とのこと。普段から近寄ってくる女の子は、お金と権力のある空閑ブランドに惹かれ、明自身には興味を持たれていないとか。


 車に揺られながら、イリーナとどんな会話をするか悩んでいると、




「日向」


「なんだ」


「イリーナと会うつもり?」


「当たり前だ」


「昨日、屋敷に来ていたわ。それも開口一番に『空閑を潰しに来ましたわ! んなあっはっはっはっは!』って」


「そうか、面白い奴だな」


「面白くも何とも無いわよッ!?」




 横に座っている椿は、足をバタバタと地団駄を踏む。流石に会話までは聞こえなかったが、イリーナは椿に対して何か言ったのだろうか、人の横でブツブツと、『何がおっぱい魔人よ』『いつか捻り潰してやる』『あんのクソチビ頭プリン野郎』と、1人でキレていた。


 椿とは因縁があるようにも聞こえる、その辺も知っておきたい部分だが、聞く前に車は学園前に到着し、俺達は降りて行く。すると、






 ―――ごきげんようみなさーん





 降りた車の後ろに、ピッタリと付けるリムジン。そこから降りてきながら、俺達に挨拶をしてきた、椿の言う通り彼女は身長が低い。だが、そのエメラルドグリーンの瞳は、冷たく、深く、そして圧力のある目だった。


 その声が聞こえた時だった、ルリは少しだけ俺の影に隠れる。なんだ? 何かあるのか本当に、だが今はしっかりと挨拶をしなければならない。




「昨日は挨拶ができず申し訳ありません、僕は空閑日向です」



 皆より少し前に出て挨拶をすると、






 ―――貴方が噂の"下等生物"でしたのね






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