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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第二章 ―イギリスからの来訪者―
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3 訪問者




 部屋にルリを呼び出し、ビルシェタイン家について、俺はルリから説明を受けていた。空閑とビルシェタイン家は、深い関係があると椿から聞いていたが、実際の所はどうなのかが気になっていた。


 手紙の差出人である『雨宮·ビルシェタイン·イリーナ』は、イギリスと日本人のハーフで、父親がイギリス人で母親が日本人。ルリの説明では『父親の血が一番濃い』との事、つまり見た目は日本人ぽくないって事だ。まず雨宮家は、そこまで大きな企業では無く、元々は呉服店を営んでいた。


 古くから伝わる技法や素材等を生かし、その道が長い職人達は常に切磋琢磨し、雨宮呉服を日本に広めようと日々奮闘していたそうだ。しかし、今の日本はほとんどが機械化し、ローコストでありながら量産出来る時代になっている。生産性が高い企業と、時間を費やしながらコストも半端では無い小さな老舗だと、どちらが一番売れるのかと言えば前者だろう。


 そう言った古き良き伝統を貫く為に、色々と犠牲にしてきた物は数しれない。生き残るには、一つの会社として運営していく他ないはずだ、生産性を高める需要としては他社との協力にある。




「雨宮呉服は今でこそ名を上げていますが、数年前までは廃業寸前だったのです」


「それを救ったのが、ビルシェタイン家か」


「その通りです。ビルシェタイン家は、海外はもちろん日本にまで参入してきた、上級企業です」


「そのビルシェタイン家は何をしてるんだ?」


「先程も言いましたが、ビルシェタインは公爵家です」



 その昔、ビルシェタインは一つの国を統治していた。格式があり、古い伝統を今も尚受け継いでいて、ビルシェタイン無くしてはこの国在らず、とまで言われている。現在はファッション関係を主軸に、世界でも知らない者は居ないらしい。


 しかし、俺はそういうのには興味が無かった、前にも言ったが企業云々に目を向けていなかったからな、だからこそ今回はその辺も進んでみようと思っている。ルリの説明は俺にわかりやすく、簡単にだが話を続けてくれている。


 雨宮家が廃業寸前を迎える直前、店に当時ビルシェタインの息子だった、イリーナの父親が来店し、そこで働く母親に一目惚れしたのが始まりなんだそうだ。最初の頃はお客と店員として接していたが、日に日にやってくる彼に生地や道具、作業の工程を説明している内に、母親も心を開いていく。


 もっともビルシェタインと雨宮には共通点があった、衣服を扱う仕事と古きを重んじている所、そして取り寄せている生地はビルシェタインと同じ物。そうと知ると父親は雨宮を『素晴らしい!』と褒めていた、その後廃業寸前だった呉服店は、ビルシェタインが出資した事により回避され、さらにはグループへ加入。当時の2人はそれだけでは足りなくなり、結婚をして今のイリーナが産まれた。




「まぁ、雨宮とビルシェタインの事はわかった。空閑とあっちの関係ってのは?」


「ビルシェタインが日本へ参入した頃、空閑は既にイギリス等に手を入れ始めていました」



 当時の空閑は、建設事業や電気事業等から広めていったのが始まりで、今ではネジ一本から生活に関する物、自動車にまで辿り着いた。その中にはもちろん生地を生産する工場などもあり、それをイギリスに建設する予定だった。


 しかし、それを止めたのがビルシェタイン家だ。当時の総帥は環境保護に厳しい国だとは知らず、生産する際に出てくる汚染物質等の軽減に協力をし無かった。普通に考えれば誰でもわかる事だが、昔の総帥は企業を拡大させる事しか頭に無く、ビルシェタインは工場建設を却下した。


 ビルシェタインは、観光客を引き寄せる為の工場誘致をする予定だったが、総帥の行動と言動に怒りを覚え、一時誘致を取り止めたらしい。しかし、月日は流れていくにつれて、空閑グループは巨大な組織になり、空閑ブランドを取り入れて欲しいと、イギリスの各企業はビルシェタインに申し出た。空閑ブランドを誘致すれば、かなりの利益が発生する、そうすればビルシェタインも安泰では? と言われてしまった。


 それを否定してしまえば、ビルシェタインを悪く思われてしまい、それこそ雨宮と同じ一途を辿る事になる。結局ビルシェタインは、空閑グループの建設を条件付きで認め、今の状況になったそうだ。




「簡単に話せば、頭が固いジジイ共の喧嘩か」


「日向様、少しお言葉を……」


「わかっている、それよりルリはイリーナを知っているのか?」


「はい。まだイギリスに居た頃ですが、イリーナ様のメイドをしていました」


「イリーナのメイドをか?」


「丁度その頃は、研修生でしたので」



 空閑グループは条件付きでイギリスへ参入したが、その条件とは『各企業への出資』だった。最初に出資したのがメイド養成所で、そこの研修生だったルリは、最終試験としてイリーナのメイドとして、お世話をしていたそうだ。本来は1年間務めなければならないが、ルリの事情により半年程で役目を終え、成績もトップクラスとなり、卒業は早かったらしい。


 残りの半年間はイギリスで住み、その後は何らかの繋がりで総帥と出会い、日本へやって来たそうだ。その何らかの理由ってのが気になるが、『まだ話せませんので、御容赦ください』と言われてしまった。




「説明ありがとう、もういい。下がれ」


「わかりました」


「ん……? 待て、これはいつ出されたものだ?」


「はい?」



 手紙が入っていた便箋の裏に、今日の日付けが書かれている。しかし、出された日付けは書かれていない。普段から手紙を書いて出すことをしないし、今の時代はスマホがある、そのせいで切手を貼って出すくらいしかわからない。


 ルリはその便箋を手に取り、表を見たあと切手に押された印を指さした。それと同時に、屋敷のチャイムが鳴り響いた。




「この便箋は―――」






 キーンコーン……キーンコーン。





 ―――3日前に出された物です






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