1 空閑
第二章スタートです。まだまだ応援よろしくお願いします。
椿と焔の両親が屋敷を去り、そして俺が空閑を復讐する事を話してから、一週間程が経過した朝、椿は今日の『空閑集会』にて、正式的に当主争いから外され、身分も屋敷内では一番下に格付けされた。あの日、椿と焔がしっかりと話し合いをしなければ、この処罰に不満を持っていたはずだ。
しかしそれが無いという事は、自分が焔にしてきた事の罪深さを、反省しているとちゃんと示した証拠だ。椿の浮気を捏造した事についてだが、あの後『お前への仕返しだ』と椿に話した。もちろんかなり不服そうな顔をしていたが、それには焔も加担していたとして、特に何も言われたりしていない。
今朝は椿の処罰についてと、次期当主の有力候補者紹介だけで終わった。その後は朝食を取り、双子とメイド達を部屋に呼び出し、次の行動指針を決める事にした。俺の復讐はまだまだ終わらない、むしろスタートラインに立ったくらいだ、空閑と言ってもあの両親が、どれだけの人間と付き合いがあったのか知らない。
だが、最終的には全てを滅ぼすつもりだ。空閑と言う一族を根絶やしにしなければ、俺は満足できない。その為にはどうすればいいのか、皆と話し合う事にしたが、まずは決めなければ行けないことがある。
部屋に集まると、俺は深くソファーに座り、椿を見ながらある事を口にする。
「椿」
「偉そうよ」
「椿お姉様」
「キモイ」
「今すぐ殺すぞ貴様」
腕を組み足を組む椿、いくら気持ちを入れ替えても、性格までは変わらないようだ。それでも少し前までと比べて、まだ物腰は柔らかくなった気がする、ピリピリしたような、常にイライラしたような雰囲気は感じられない。
焔と仲良く過ごせているからか、それとも開き直っているからか、その辺はわからないが話しやすくなっているのは間違いないだろう。
「嘘よ、で何?」
「お前の待遇だが、俺のメイドになれと言ったな?」
「嫌よ、何で復讐する奴のメイドにならなきゃいけないわけ?」
「それも理由がある」
「どんな理由よ」
今の世間では、『空閑椿は浮気をした、それなのに謝罪も無いし、各企業へ迷惑を掛けた』と噂が後を絶たない。このまま学園へ登校すればどうなるか、今までは慕っていた相手も敵になるし、俺がやられたように、精神的なダメージを与えてくる奴も少なからず出てくる。そうなると椿自身が疲弊していく、自分は大丈夫だと口では言っても、心は激しいダメージを負ってしまい、最後には完全に潰れてしまう。
それだと復讐する為の計画が、上手くいかなくなる。そこで椿をメイドとしてそばに置けば、周りの反応はまた違ったモノに変わる。あんなにも俺を『虫けら』扱いしていたあの女が、まさかその虫けらのメイドになっているなんて……と。どれだけの効果が見られるかわからないが、やってみる価値はある、それにメイドとしてなら色々と行動させやすいのもある。
「お前が今普通に登校すれば、酷い目に合う。それを回避する為だ」
「アンタのメイドになる事が最善って訳?」
「そうだ。あとは色々と動かしやすいからな」
「はぁ、確かにもう私は屋敷でも一番下だし、何の力も無いけれど……」
深くため息を吐きながら、椿は少し悩んでいる。まぁ悩んだところでこいつに選ぶ道は二つ、メイドとして働くか、この屋敷を去るか。椿が去れば空閑の酷い噂と、各企業へのダメージを消す事ができるだろう、だが、住む場所も無くなるし金も無くなる、そして指を刺されながら笑われる人生を送る事になる。
だがメイドを選べば、世間の評価は面白いモノになる、それも悲観的な事ばかりじゃない。
「むしろメイドを選べば、周りは見る目を変えるぞ」
「見る目が変わる? 何でよ」
「日向様……それは」
「良い、そうすれば色々と見えてくるモノもある」
ルリは心配そうに俺を見てくる、それはそのはずだ。周りは椿を『可哀想だ』と思うからだ、『ただの養子のメイドにされたんだ』と。そうなればまた矛先が俺に向く、椿の噂が『浮気者』から『メイドにされた残念な奴』に切り替わるはずだ。
噂さ自体はどちらも長く続かないが、メイドになる事で誠意を見せたとして、悪くない方向へ転がる。
「アンタ、本当にそれでいい訳?」
「俺は別に構わない、復讐の邪魔にならなければな」
「空閑を復讐するって本気なの?」
「本気だ」
「空閑は世界でも強い支配権がある、不可能に決まってるじゃない」
急に立ち上がると、俺の前に一歩出てくるなり強く言い放つ。空閑は世界にまで企業を発展させた巨大な組織、たった1人では確かに無理だろう、だが今は違う、ルリが居てメイド3人が居て、焔が居る。少数精鋭と言えば聞こえは良いかも知れない、だが俺は必ず倒せると思っている、その為には興味が無かった事にも、興味を持とうと少し前から考えていた。
この屋敷で居れば、その興味が無かったモノを手に入れる事ができる。そしてそれを武器にすれば、空閑を絶対に滅ぼす事ができる、だから俺は言った。
「当主になれば、不可能は可能になるだろ」
「あ、アンタ本気で言ってんの!?」
「総帥は『血の繋がりは無くとも、優秀ならば例外がある』と話していたろ?」
「だからって……あぁもう! めちゃくちゃ過ぎじゃない!!」
そうだ、俺は最初からめちゃくちゃな奴だ。死んだ両親に恨みを持ち、それに関わる人間全員を苦しめないと気が済まない。そう思っていれば、ルリに拾われてこの屋敷にやって来た、俺はこれをラッキーと思う以外の答えは無かった。
きっかけ何て何でもいい、俺と言う人間が生きる為に選んだ道が、復讐しか無くてそれ以外考えられなかったから。空閑にやられたなら空閑の力で潰す、目には目をって奴だ、当主になれば一気に野望は進み、終わりが近づくはずだ。
「だから協力しろ、椿」
「お姉様……焔はお兄様に付いて行きます」
「ほ、焔まで」
「お兄様は私達を救ってくれました、だから私はお兄様に協力します」
「あぁぁあ! もうっっっ!!」
―――わかったわよメイドになるわよッッッッッ!!!
屋敷の外まで聞こえるような声で、椿はメイドになると言った。これで走り出せる、この屋敷に来るまでの俺とは違う、何もかもが一転して戦える状況にまで成長した。いつか必ずあの両親が居る墓に行き、俺は奴らに言わなければならない事がある。
無能だったのは『貴様ら』だったなと。




