ほむらちゃんの恋愛劇場 EXTRAモード
私は今、メイド室にあるソファーでうつ伏せになり、先程発言した事を反省しています。あんなお嬢様らしくない発言をし、その場の空気を一瞬にして凍り付かせた私は、空閑の娘として最悪な事をしてしまいました。もし相手が本当にお兄様だったら、間違いなくドン引きされていますし、嫌われて距離を取られる事間違いなしです。
どうして私はたかが練習で緊張しているのか、相手は同じ性別なのに顔を真っ赤にしているのか、正直、訳がわかりません。このままでは全てが台無しになってしまいます、せっかく付き合ってもらっているのに、赤川さんや黄島さんに失礼過ぎます。もちろん私は至って真面目にしています、でもいざ始まると上手くいきません、どうすれば良いのでしょうか。
「焔お嬢様、私達はいつまでもお付き合いしますから、落ち込まないでください」
「赤川さん……」
「そうそう! 何度も何度も練習すれば、きっと上手くいきますから!」
「黄島さん……!」
お2人は笑顔で私に手を差し出してきます、その手を掴まない理由はありませんが、今はどうしても立ち直れそうに……とため息を吐いた瞬間でした、メイド室の扉が開き誰かが帰ってきました。
「お、青田お疲れ様ー」
「お疲れ様です黄島さん、赤川さん。そこでうつ伏せになっているのは、焔お嬢様でしたか」
「あ、青田さん……」
私は起き上がり、挨拶をする。青田さんは私が元気を無くしているのに気が付き、何があったのかを、赤川さん達が代わりに話してくれました。話の内容を理解すると、青田さんは少し考える動作をします、赤川さんと黄島さんも一緒に悩んでくれていて、私はと言うと……ため息を吐くばかりで何も思い付きません。
しばらく悩む事一時間後、青田さんが口を開きました。
「もういっその事、日向様に当たって砕ければよいのでは?」
「青田ぁ……砕けちゃダメでしょ」
「なら、メイド長に助言を頂くとか」
「まぁ……確かにメイド長は、日向様と常に一緒だし……」
「る、ルリさんに聞くだなんて……私には無理です!」
考えても見てください、ルリさんはお兄様を屋敷に連れてこられた本人。親同然のようにお兄様を可愛がり、時々見せる視線は慈愛に満ちています。もはや、お兄様のお母様と言っても過言ではありません、そんな人を相手に『お兄様に恋している』とか言える訳がありません!
ルリさんは大人で美人でクールで、女としての最強武器であるあの胸が大きくて、隙のない立ち振る舞いで…………挙げればキリがないくらいに完璧女性。そんな方なら色々と経験はありそうですが、やはり聞くことはできないです。
「ですが、私共にも限界が……」
「青田、貴女が持ってる機械かなんかでさ、ほら日向様洗脳できない?」
「我が主になんて事させるつもりですか……黄島さんはもう少し、よく考えて発言してください」
はぁ、確かにお兄様を洗脳すれば、この恋も100パーセント叶うのでしょう。でもお兄様にそんな事したくないですし、それで叶ったとしても嬉しくないと思います。ちゃんと想いを伝えて、しっかりとした返事をお兄様から聞きたい。
と、私は青田さんと黄島さんの会話に、少し引っかかる事がありました。黄島さんは青田さんに『洗脳できない?』と質問しました、そしてその問いに対して青田さんは『我が主になんて事をさせるつもり』と言いました、それってつまり……もしかして、洗脳自体はできるって訳ですよね?
「あの青田さん」
「はい焔お嬢様」
「洗脳はできるのですか?」
「ほら黄島さんのせいで……」
「わ、私?」
「出来るか出来ないのか答えてください!」
思わず大きな声で言ってしまいました、3人ともビックリしたのか、身体を大きく揺らし、青田さんは『は、はい。その、出来なくは無いです』と慌てながら答えてくれました。そう、出来ない訳じゃないと言ったのです、ならその洗脳を上手く利用すれば、私はもしかしたら。
でもでも迷ってしまいます、それが本当に正解なのか、それとも間違っているのか。恋愛初心者である私が、いきなりチートを使って、絶対に成功させようとしている事が正解なのか。頭の中で天使の私と悪魔の私が戦っています、激しい乱戦を繰り広げています、勝ったのは―――
―――私を洗脳してくだひゃいッッッッッ!!!!
もう叫び声に近い声量で、青田さんに勢い良く頭を下げ、後半噛んでしまい恥ずかしいですが、頭の中で見事勝利したのは悪魔の私でした。もちろん3人はポカーンとしています、私だってワケわからなくなっています、自分でも何言ってるんだろうと思ってます。
それでもお兄様の事を愛してしまった、結末がどうなろうと、必ずこの思いだけは伝えたい。だからこそ私を洗脳してもらって、緊張を無くせば余裕でいけるはずです。待っていてください、お兄様!!!




