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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第一章 ー終わりの始まりー
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幕間 2人の生き方

次回更新は月曜日です。土日は基本的にお休みです、すみません。




 椿は両親に屋敷から出て行くように言われ、頭が真っ白になったまま、庭にあるベンチに座る。まさか親が子を突き放すとは想像していなかった、本当はあんなにも自分達の事しか頭に無くて、血の繋がった娘を道具としか見てなくて、役に立たなければ簡単に捨ててしまう。


 中学に入ってすぐの頃、椿は親に褒めてもらいたくて必死に勉強をしてきた。この時は親に強要された訳じゃなく、自分の意思で行動していた。でもそれを簡単に上を行く妹の焔が居た、椿のように必死に勉強をしていた訳じゃない、学校から帰宅しても机にかじりついたりしていない、それなのに焔は椿より遥かに上の成績を残し、両親に褒められていた。


 多少の誤差でも1位と2位だったら、前者を褒めるだろう。そして、総帥が次期当主を選ぶタイミングがやってきた、その日以来両親達は焔にプレッシャーを与え始める。今までマイペースでやってきた焔に、『もっと真剣に取り組みなさい』『そんなんでは当主になれないぞ』と、毎日厳しい声で圧力を与えていく。日に日に焔の表情は陰りを見せ始める、それでも成績はトップで揺るがない。


 だが心は間違いなく、死んでいる。それでも焔は自分の才能を開花させ両親を頷かせていた、心底喜んでいた。椿は思った、『私にもそうやって褒めてよ……』と心で呟いていた。焔より一番努力をして何とか取った2位、短期間ちょっと詰めただけで取った1位の焔。


 出来ることなら、その立場を交換して欲しいと思った、きっと焔の立場になれば、ずっと褒めてくれるし輝けるに違いないと思い、椿は苦肉の策に出る。ある日の晩に焔を屋敷の外に呼び出し、ある言葉を口にした。




『焔、貴女が一番を取り続けると、お母様達が屋敷から追放されてしまうの』


『え? どういう事なんですか?』


『総帥は貴女を嫌ってる、このままじゃダメなの。だから、次のテストはワザと評価を落としなさい』


『え?! でも……』


『いいから!! 私の言う事聞きなさい!』




 その日以来、焔の成績はいつも2位になり、椿は1位を取り続ける事が出来た。無茶な勉強をしなくても、焔より下にならないように勉強していれば、楽に1位が取れるくらいにまで上手くいった。両親も椿を褒めたり、総帥からは次期当主に選んでも良いとまで言わせた。


 モデルの仕事も始めたり、雑誌の表紙に選ばれたりして順風満帆な生活をしてきた。しかし焔はそういかない、親から『椿を超えられないの?』『お前にはがっかりだ』『貴女のような子は娘じゃない』『才能はニセモノだったわけだな』と、椿でも耐えられないくらいの罵倒を、毎日言われ続けていた。両親達の部屋に毎晩呼ばれては罵倒、隣の部屋にまでよく聞こえてくる。


 でもそれが終わった後、部屋に戻ってくる焔の顔は、悲しい顔なんてしていなかった。いつも『また怒られちゃいました』や『お姉様とお母様達の為だから』と、自我を保ちながら、椿の嘘を信じて苦痛に耐えていた。だから椿も『そうよ、私達の為なの』といつも返す、自分でもわかっていた、本当は焔が傷付くところなんて見たくないと、血の繋がった双子でこんなやり取りなんてしたくないと。


 それでも椿は自分を選び続けた、そして感覚が麻痺して最初についた嘘は、本当の事と思ってしまい、焔が叱られているのを見ても、何とも思わなくなってしまった。もう当たり前の光景なんだと、そう自己暗示してしまった。


 そして、あの日日向が養子として屋敷にやって来た。引きこもってばかり居て、ほとんど顔を合わせたりしなかったが、しばらくの月日が流れた後、日向が中学で成績トップに躍り出たと屋敷内で噂になった。その前までは椿の凄さが話題になっていたのだが、そんな事は無かったかのように日向の話が持ち上がった。


 空閑の血を引いて居ないため、当主争いには参加できないはずだが、総帥は『優秀者としてならば、例外を認める』と発言した。両親は焦りを見せ始め、『あの養子を追い出せ』『手段はなんだっていい』と、椿や焔に命令したが、焔は家族以外の男とは距離を取っている為不可能。


 こうして椿は日向に対して敵意を向け、高校生活初日に嫌がらせを行った。教科書をボロボロにしたり、クラスで仲良くなった連中を『空閑』の名を使って操り、日向に嫌がらせをするように命じた。だがここで誤算が起きた、あの焔が日向と話をし、さらには助けてしまっていた。


 焔にとって日向は家族とカウントしていた、それだけは本当に予想外の展開だった。もちろん椿はその日の事を焔に強く当たる、その時は『従います』と椿に告げていたのに、焔の目はいつもの悲しい目じゃなく、しっかりと強い眼差しで椿を見ていた。





「ニセモノ…………か」




 1人ベンチに座り、親に言われた言葉を口にしていた椿。今までの生活が全部嘘で塗り固められているなら、どうすれば本物で塗り固める事ができるだろうか。嘘から目覚めた椿は、後悔と焔に対しての申し訳なさで頭が一杯になる。嘘で手に入れた幸せは、本当に幸せだったのか、その裏で焔はずっと辛くて痛い数年間を味わって来た。


 本当は椿がそうなってたはずだった、焔のように耐えられたかはわからない、焔の幸せを奪ったのは間違いなく椿で、双子を不幸にさせたのは両親。





「ごめん……ね……焔」




 思わず零れた謝罪の言葉、本当は2人で仲良く学校生活をしたり、楽しく仕事をしたりしたかった。いつも服を一緒に合わせたり、たまに被ったりして幸せな生活がしたかった。そんな事を思いながら、椿はベンチから立ち上がる。


 もう屋敷には戻れない、もう焔の顔も見ることは無い、これからどうすればいいのかもわからない、自分がしてしまった罪の償い方を知らない。




「さよなら……焔……ごめんね」




 ―――待ってください!!!



 歩いて立ち去ろうとした椿を、後ろから大きな声で呼び止める。椿はゆっくりと振り返ると、




「お待ちになってください……お姉様」



 普段は声も小さく引っ込みがちな焔、そんな女の子が姉を呼び止める為に、出せるだけの声量を使い椿を制止する。




「何よ……私はもう行くわ。よかったじゃない、また幸せな生活ができるのだから」


「違います」


「数年間迷惑掛けたわね、お母様達も貴女を褒めてくれるだろうし、当主の座も近いじゃない?」


「違います……」


「私見たいな姉なんか、居なくなった方がいいわよね。もう捨てられたから、姉でも無いわよね……あははっ」




 ―――そうじゃありませんッッッ!!!



 椿がビックリする程の声で、初めて姉を黙らせる焔。そしてゆっくりと椿に近づいていく、同じくらいの身長、同じくらいに肌の色は似ている。そんな双子はずっと両親に苦しめられてきた、当主争いに巻き込まれてから全てが狂い始めたあの日から、2人はニセモノの人生を歩いてきた。


 そんな2人が今は本物の言葉と、本物の気持ちで向かい合っていた。




「当主の座とか、1位だとか私には必要ないです……」


「才能があるから言えるんじゃない、馬鹿にしたいなら私が消えてから―――」


「―――才能なんて要らないですッッ!! お姉様が居れば、幸せがそこにあるならそれで良いです」


「嘘よ……そんなの嘘!!」


「嘘じゃないです……!! あんな生活でも、お姉様が幸せになるなら、あんな命令でも嬉しかったです……!」




 焔は椿の服を強く両手でギュッと握る、目から涙を流しながら椿へ訴える、例え自分が苦しくても椿がそれで幸せなら、自分は役に立ててると、輝く姉が見れるならと、その為なら自分を犠牲にするくらい構わないと。


 まだ椿が権力等にこだわっていたら、焔はきっと去る椿を呼び止めたりしなかっただろう。だが椿から漏れた謝罪と、両親が吐き捨てた言葉を聞いて、どっちが大事かを考えれば答えなんて直ぐに出てきた。




「お姉様……もう一度、やり直しませんか……?」


「やり直すって……私はもう……」


「日向君……いえ、お兄様に感謝しないと、ダメです」


「……アイツに?」

 


 肝心な事をまだ焔は椿に伝えていない、完全に追放されたのは、不幸な椿では無く、最悪な両親の方だと。



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