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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第一章 ー終わりの始まりー
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20 月下




 広間では、椿の両親が酷く怒りをぶつけていた、言うまでもなく椿への罵倒は相当なものだ。それを眺めている俺は今、気分が良い。自分がされてきた事をやり返し、そしてそれを目の前で見る事ができている。何より焔は立場が逆転した事に驚いている、今までなら自分が両親から圧力を受けていたのに、今は椿に矛先が向いている。


 おそらく今の焔は、自分がやった事の大きさに悩んでいたり、やり過ぎたとか思っていたりするかもしれない。そうなってしまうと、焔が椿を許してしまい、また焔が良くない立場になってしまう。ここで焔がやらなければならない事は、完全に『姉との差をつける』事だ。


 今の椿の心身を考えれば、『自分はやっていないのに』『どうして私が悪者』『どうすればいいの』と自問自答を続けているだろう。それでいい、人は考えれば考えるほど脆くなる、抜けそうな床を避けながら歩いているが、前をしっかり見れていない分、隙なんていくらでもできている。




「椿、貴女よくも私達に泥を!!」


「お前だけは信じていたのに、親不孝者が!!」


「ちが……ちがうの……私じゃない!!」




 もう何を言っても届かない、何をしても響かない。当時の俺のように、誰も自分を認めてくれたりしない、周りから奪った飾りだけの力ではどうにもできない。椿が奪った数年間の幸せは、俺からすれば『ニセモノ』なんだ。本当の自分がどんどん出てき始めるだろう、だからこそ俺は面白い事を思いついた。


 部屋に戻った総帥に、ある事をお願いする為にルリに遣いを頼んだ。それが通ればもっと面白い状況になる、今はそれをさらに発揮させたい俺は、椿の精神を壊しに掛かる。



「椿お姉様はご自分が優秀だと言っていましたね?」


「気安く話しかけないで、そんな話をしてる暇は無いのよ!」


「なら、今回の騒動の原因が……俺だと言えばどうする?」


「や、やっぱりアンタじゃないのよッッ!?」


「つまり、椿や私達をハメたのは貴様か養子が!」



 さっきまで椿に怒りをぶつけていたのに、俺が原因だと話せば揃いも揃って俺を責め始めた。そう、両親はまだ『椿は優秀で才能があるいい子』として認識している、何かの間違いで『騒動を起こしてしまった』だから『怒るのは親の務め』等と甘い考えをしている。


 この親の目には、もう一人の『娘』なんか映っていなかった。いつだってそうだった、金に目がくらみ、権力欲しさに我が子をキツくしつけて、自分の道具になるように操って、命令に従わず無視をするなら痛め付ける。こんなクソ見たいな親が、世の中に腐る程居る、そう思うと理不尽な教育を受けてきた子達はきっと、生きるのが嫌になり死ぬだろう。




「養子? その養子にまんまとハメられた気分はどうだ?」


「な、何ですか貴方は!? 立場を弁えなさい!!」


「知るかクソババア、今更貴様らが何をどう言おうと総帥は動かないし、聞く耳も持たない」


「く、クソババアですってぇぇえ!?!?」



 うるさい。椿の性格は母親の遺伝か、結局はあの日の放課後に集ってきた連中と同じハエだ。自分より下の者を囲んでは好き放題する、自分より上の者には媚びる、何が楽しいのか俺は理解出来なかった。睨みつけてくる椿の母の横をすり抜けて、俺の正面に立つ椿。


 今にも『殺してやる』と言わんばかりの目付き、だがそれも一瞬だけで急に態度が一変する。




日向ひなた、お爺様に今回の騒動が私では無いと話してきなさい」


「俺になんの得がある?」


「そうね、貴方を邪険にしないし、今までの仕打ちは全て水に流すわ。そして謝罪するわ」



 急に申し訳ない顔をしながら、俺に対してそんな事を告げてきた。だが、甘いな……演技が下手くそ過ぎる、そんな飾った言葉で俺が許すとでも思っているのか? 笑わせるな、俺は貴様ら空閑に恨みがある。何を許しても何を謝っても、俺は決して復讐をやめたりはしない、だから俺は椿を睨みつけながら……




「だからお前は『無能』なんだよ、椿」


「くっ!? 気安く私の名前を呼び捨てにするなッっっ!!!」



 俺を突き飛ばす椿、近くにいた黄島と焔が倒れる所を抱きとめてくれた。やはりか、椿が何かに強く反応して俺を突き飛ばした、どうやら椿は『無能』と言われるのが酷く嫌らしい。最初の頃は焔が親からチヤホヤされていて、椿が厳しく言われていたと見た。


 だから椿は焔を強く脅して暴力に走り、自分の言うことを聞くお人形として扱い、焔が歩むはずだった時間と、焔が手にしていた才能を奪って親を認めさせていた。簡単な話をすれば、今の焔は昔の椿状態って訳だな、だが焔の才能全てを奪う事はできなかった、それが演技だった訳だ。




「お前は何一つ自分の力でのし上がっちゃいない。焔から奪った時間と才能で、今まで過ごしてきた」


「うるさい…………」


「自分は糾弾され、焔は褒められ、その立場を変わって欲しかった」


「うる……さい……」


「ここにレコーダーがある、ある日のやりとりだな」



 ガチっとスイッチを入れると『次に行われるテスト、焔は私より下を維持しなさい。わかったら返事をしなさいよ、聞いているの?』と、最初から最後までのやりとりが録音されていた。再生が終わると、タイミング良くポケットに入ったスマホが小刻みに震える、誰からの通知かなんて見なくてもわかっている。


 そしてその録音を聞いていた両親は、『つ、椿……お前は私達を騙していたのか!?』『なんと言うことを……』と、本当の椿の成績は、焔より下だったことにあ然としている。しばらく無言の空気が流れる、何も言えず俯いていた椿は、静かに笑いながら焔を見る。


 すると、




 ―――アンタが悪いのよ




「アンタは褒められて、私はいつもこの人達に言われ続けてきたのよッッ!?」


「…………」


「難しい勉強も習い事も簡単にやってきた、アンタが羨ましかったの」



 同情なんかするつもりは無い、人から奪った上にそれで当主の座を手に入れようだなんて、甘い考えだ。それまで築いてきた焔の努力や時間、それらを全て無駄にさせたんだから。俺に兄弟なんて居ないからわからないが、姉だからと妹より上に立ち続けるだなんて不可能だ。


 考え方は違えど、焔に復讐したかったのだろうか。でもそれは復讐と言うよりはただの嫉妬に近い、俺とは違う、理不尽差で言えばまだ可愛いものだと思う。だが、そのせいで焔は自分の感情を押さえ込んでしまい、姉の為にと辛い思いをしてきた。


 俺は本来の復讐と無関係だが、焔に同情をしてしまった。




「お姉様……」


「もう何もかも終わりよ……」


 ………………


「ルリから総帥の伝言を預かっている。椿か両親のどちらかを屋敷から追放……と連絡が来た」




 ここからが本番だ、俺が見たいのはこの後の両親の反応だ。娘の為に自分が出るか、娘よりも『権力と金』を取るのか。大体検討は付いている、この両親は娘達を道具として見ている、自分達の都合の事しか頭に無い。最低で理不尽で人間として終わっている、コイツらも『ゴミ』同然だ。


 椿を見ながら両親は、




「椿……」


「何よ……」


「"お前が出ていきなさい"」


「そ、そんな!?」


「例えそこに居る養子がハメたとしても、どちらにせよお前が暁と付き合わなければこうならなかった。お前が出るべきだ」


「待って! 私はお母様達の命令に―――」


「―――黙れェッ!! このニセモノが!!」




 その吐き捨てた言葉を耳にした椿は、目から色を失ったようにゆっくりと後ずさる、そしてそのままフラフラしながら広間から居なくなった。さすがの焔も青田に抱きしめられながら、静かに涙を流していた。


 これで終わったと思っている両親だが、俺はまだ伝えられていない事があり、それを話す。




「さて、貴方達は『空閑を捨て』て『屋敷』から出て行ってください」


「待て、椿がもう出ていったでは無いか!?」


「えぇ。あの女は『屋敷』から出た、だから貴方達は『空閑を捨て』て屋敷から『永久追放』を選んだ訳ですよね?」


「話が、話が全く違うでは無いか!?」



 総帥は最初『椿と両親は空閑の名を捨て、屋敷から永久追放』と言っていた、だがルリは総帥に話を付けて『永久追放か一時的に屋敷から離れて頭を冷やす』かを選ばせる方面で決まっていた。


 そして両親は椿を『一時的に屋敷から出る』方を選ばせ、自分達は『空閑の名前を放棄し、屋敷から出て関わらない』を選んだ。物の見事に自分可愛さにアホ面して自爆したわけだ、滑稽だな、俺はすごく気分がいい。



「さ、出ていかないのなら強行手段に出ますが…………覚悟はできてんだろうな―――」







 ―――歩く産業廃棄物共がァッッ







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