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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第一章 ー終わりの始まりー
20/99

18 下克上




 昨日撮影した写真は、青田によって上手く加工されて黄島の手に渡った。計画は大きな修正をすることも無く、予定通り放課後に実行される。ルリは椿の専属メイドに『1日休暇』を取るように話し、上手く引き離す事に成功した。赤川は椿に『今日だけ私がお側に仕えます』と話すと、適当な返事で返された。


 そんな事には興味が無いと言った感じだが、こちらとしては都合がいい。変に疑われてしまえば計画は全て崩れてしまう、そして焔は今日だけ『姉の言いなりの状態』で過ごす。さすがに今までの事もあり、上手くできるのか聞いたが『演技』だと思えば、仕事の延長の様で逆に力が入るらしい。


 あとは放課後を待つだけだ、黄島から連絡が入れば、雑誌記者が動いたと言う合図になる。今のご時世、スキャンダルとなれば1日でその出来事は世間に広まる、上手くいくかはその時にならないと俺にもわからない。


 俺達は悟られない様に、普段通り車に乗り込み学園へ向かって走り出した。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 朝のホームルーム、俺は以前ボロボロにされた教科書から新品の物に変わり、ようやくまともに授業が受けられる事に少しホッとした。チラッと椿の座る席を見る、真面目そうな顔つきで担任の話を聞いているが、実際の実力は焔以下で成績なんてお飾りだ。俺の知らないところで、焔を牽制して学年順位を維持しようとしている。


 性根が腐った女だ、引き受けている仕事の半分以上は椿からのおこぼれだったり、回してもらったりで何一つ自分の力で掴んだものでは無い。


 今朝のホームルームで、担任から『来週はテストがあります』と話していた。おそらく、ここでも焔に言い寄る可能性がある、ここは一度どんな風に言われているのか、聞いておきたい所だ。ホームルームが終わると、椿はスっと立ち上がり焔に近づいてきた。




「焔、話があるから来なさい」


「は……はい」




 返事をした焔は立ち上がり、椿の後ろをついて行く。俺の席を横切る瞬間、椿と目が合った。小さく俺に聞こえるように『腐った目で私を見るな』と言ってきた、無論俺はまだ猫を被り続ける為に、黙ったまま目を逸らす。椿のあとに焔が横切る瞬間、筆箱に忍ばせていた小さなレコーダーを焔に握らせた。


 これで録音できれば、スキャンダルと合わせて絶大な効果が得られる。何故今まで焔はレコーダーを使ったり、脅されている事を誰にも言わなかったのか。行動していれば少しは違った世界だったかもしれない、だが焔は行動に移すことが出来なかった。


 両親からの圧力、椿からの暴力。これらのストレスが蓄積した精神は、焔の行動力を完全に縛ってしまい、何かをしようとすれば蘇ってくる恐怖心。反感を買うのが怖くて本心を自分で閉じ込めてしまう、だが、今の焔は俺によって全てが解き放たれている、きっかけはなんでもいい。動く体と答える心さえあれば、返り討ちにする事は可能だ。




「どう転ぶか、見物だな……」



 クスッとつい微笑んでしまった、周りの奴らは怪訝そうな表情をしながら、コソコソと話し込んでいる。いいさ、今はいくらでも馬鹿にしていろ、貴様らが次笑う相手が変わる瞬間を俺が見届けてやる。


 しばらくして2人がクラスに戻って来た、椿は満足げのある表情に対して、焔は『演技』で暗い顔をしていた。そして俺に近づき、わからないようにレコーダーを手渡して来た。受け取るとそれを筆箱にしまい、授業が始まるのを静かに待った。


 授業が始まると皆静かに話を聞いている、俺ももちろんその1人だが、隣に座る椿は違っていた。誰にも見えないようにスマホを弄っている、時々笑みを浮かばせたりしていて。相手は『暁昌磨あかつきしょうま』で間違いはないだろう、優等生を偽っているつもりだろうが、なりきれていない、化けの皮が剥がれ掛けている。


 そして、全ての授業が終わり運命の放課後がやってきた。今日は別行動でルリが居ない為、1人で下校する事になっている。焔と一緒では怪しまれる事もありそれは避け、どうやって帰るか悩んでいると。




「ついに1人で帰宅か?」


「メイドにも嫌われるとか、終わってるよね」



 同じクラスメイトの連中だ、この様子だと椿を慕っている下衆な人間共だろう。昇降口でスマホを弄っている所を見つけ、わざわざ話しかけて来たようだ。椿に上手く洗脳されてるようだが、ただ悪口を言うだけの人形だと色々脆い。


 歩いて帰るか、車を呼ぶにしてもメイド達は出払っているし、どうするか。無視して一人で悩んでいると、そいつらはイラッとしたのかさらに挑発を仕掛けてきた。




「僕はある企業の御曹司でね。君は確か空閑の血が入っていない、ただの成り上がり君と聞いている」


「確か椿様がお声を掛けてくれなければ、野垂れ死にしていたとか?」


「貧乏人と同じクラスとは、僕達は不幸だ」



 ハエが喧しい、殺虫剤があるなら吹き付けてやりたい気分だが、それをするにはまだ早い。コイツらを確実に落とすには、まず大将の首を狩る必要がある、ここでいくら俺が吠えてもただの負け犬の遠吠え……程度にしか捉えられない。そんなのは面白くない、地べたに這いつくばって、頭を擦り、泣き声で謝らせないと気が済まない。


 好き勝手言っている奴らを無視し続け、スマホに視線を落としていると、





 ―――無視すんなよ底辺がッッ!!!




 俺が手にしていたスマホが弾かれ、鈍い金属音を奏でながら地面に落下し滑り転がる。ケースをしていないスマホは傷まみれになり、画面も蜘蛛の巣状にひび割れてしまった。落ちた衝撃で壊れたのかわからないが、画面は真っ暗になったままだった。


 スマホを拾い上げようと歩き出すと、その目の前にそいつらは立ちふさがる。俺は無表情のまま立ち尽くす、人差し指を地面に向けて何かを合図して来た。




「お前は僕達より下だ、こうべを垂れろ」


「断る」


「なんだと?」



 拒絶すると怒りがピークに達したのか、そいつは俺に腕を伸ばしてきた。いつの日か父親に胸ぐらを掴まれ突き飛ばされ、後頭部を強く打ち付けて気を失った事を思い出した。あの時の記憶がフラッシュバックした瞬間、俺はその手を取り抵抗しようと…………したが、俺より先にその手首を掴む腕が横切った。




「暴力はいけません」


「ルリ、仕事はどうした」


「日向様にご連絡差し上げましたが繋がらないので、心配になりそのままこちらへ」


「そうか、すまない。俺の『不注意』でスマホを落としてしまってな、彼らが拾ってくれる所だったんだ」



 俺の発言にそいつらは驚いていた、明らかに胸ぐらを掴む手が目の前にあるのに俺はフォローした、今この場で問題にでもされたら非常に面倒な事になる。伸ばされた手も『肩に虫が付いていたから』と、ルリでもわかる嘘をついてその場を落ち着かせた。


 そいつらはまだ開いた口が塞がらない状態だが、落ちたスマホをルリが回収し、その場を去ろうと歩き出すと。




「何だよお前、何のつもりだよ!」



 1人の男子が俺の背中目掛けて言葉を吐き捨てる、するとルリは立ち止まり、ゆっくりと彼らに振り返ると、





 ―――日向様の寛大なるお心に感謝を




 それを伝えると車の後部座席の扉を開けて、一緒に乗り込んだ。車が走り出すと、運転する黄島から写真の事について話を聞いた。あの写真はかなりの評価があり、すぐさま動き出したらしい、早ければ明日にでも週刊誌や新聞、酷ければテレビの特番になる可能性がある。


 明日が楽しみだよ、なぁ? 空閑椿―――




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