13 消えたファイル
監視をルリに任せて書斎に来た俺は、『企業関連』と書かれた厚いファイルを棚から取り出した。実際に見るのはこれが初めてだったりする、中学までは部屋に引きこもっていたせいもあるが、俺の中で企業に関する事なんて微塵も興味が無かった。
ペラペラと捲っていくとテレビや新聞、そして雑誌とかで見た事ある名前がビッシリと記載されている。企業名の横には、去年までの業績や社長の名前もある。おそらくその中に『アカツキ』に繋がる何かがあるはずだ、そう思いながら次から次へとファイルを手にし、何も無ければテーブルに置き、また次のファイルへと手を伸ばす。
ここにあるファイルだけで何百冊と保存されている、もちろんファイルだけじゃなく、新聞も古いのから新しいのまで置かれている。情報戦と言っても過言では無い、企業と企業が仲良く手を取り合って……とか建前だ。まぁ、さっきも言ったが微塵も興味が無いから、どうでもいいのだが『空閑』を潰せる要因が一つでもあるなら、少しだけ興味を持つかもしれないな。
「ん? 何かおかしいな……」
今手にしているファイルは12冊目のはず、テーブルに置いてある分も数えたが間違いない。だが手に持っているファイルの背文字には『企業関連ファイル13』と、書かれている。見過ごしか? 俺はもう一度本棚へ視線を動かし、次のファイルである背文字を見る。
―――企業関連ファイル14
1から11まではテーブルにある、そして手にあるのは13。ファイルを引っ張り出す時に落とした訳でも無い、棚の奥に倒れ込んでいる訳でも無い。これは……
「持ち出されているのか」
ここにある全ての書物は、持ち出し禁止等はされていない。読みたいなら屋敷内限定で持ち出す事は許されている、さらに、図書館の様に持ち出す際に借りた人の名前やタイトルを書く必要も無い為、誰がいつ借りてるのかがわからない。
それが新聞やただの書簡ならいい、今この場に無いのは『企業関連ファイル』だ。メイドもここの管理をしに来る義務も無い、誰が持っていったのか検討は着いているが、証拠も無しに動けない。
「困ったな………何だこれ」
何気なくファイルを裏返すと、小さな正方形型の金属が貼り付けられている、それもよく見ていないと見落とす位の小さなサイズだ。このファイルだけじゃない、他のファイルや新聞にも同じ物が貼り付けられていた。
この辺りはサッパリな俺、ルリなら何か知っているかもしれない。俺は他のファイルを棚に戻して、今手にしている分だけを持って部屋へ戻った。
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部屋に帰ると、
「日向様、今黄島から伝言を頂きました」
「何だ? バレたのか?」
「いえ、それが……」
「ん?」
何だか凄く言いづらそうな表情をしている、深刻な事態とかじゃないなら良いんだが、ルリがこんな顔をするのは結構レアだ。現場でトラブルとかならよくある事だし、黄島が体調でも崩したのだろうか。
ルリは意を決したのか、咳払いを一つしてから口を開く。つい身構えてしまう俺、なんだ? 本気で気になってきたぞ。
「そのままを伝えますと……」
「あ、あぁ」
「黄島が『うはぁあ! コスプレしてバレないってすごおおお!!!』だそうです」
「…………」
おそらく『すごおおお!!!』の後に『笑』が入ってる、絶対に入ってる。そう言えば俺に従うメイドはルリを覗いて、めちゃくちゃ癖の強い連中だった事を忘れていた。まぁバレてないならよかったが、もうちょっと真面目にと言うか真剣に取り組んで欲しい。
いや、これでも真剣にやっているんだろうけど、空気を完全にぶち壊してるんじゃ意味無いような。考えるのはよそう、アレでもコスプレのプロなんだ、やる事はキッチリやるだろう。
「日向様?」
「いや、すまない。君がそんな声を出せた事にもビックリしただけだ」
「申し訳ございません」
「いやいい。それよりこれは何か知りたい」
少し張り詰めた糸が緩んだ所で、俺は書斎から持ち出したファイルをルリに手渡した。ルリは『企業の業績等が載ったファイルですが?』と返してきた、俺はルリが持ったままのファイルを裏返し、小さな金属に指をさしながら『これだ』と話す。
「これはICチップです」
「何となくそれはわかったんだが、何故こんなものが?」
「屋敷外へ持ち出されても、追跡が出来るようにする為です」
簡単に説明するなら、このチップは位置情報を教えてくれる機械。屋敷にあるメインコンピューターから接続すれば、そのファイルの居場所がわかる代物らしい。だが設定上屋敷内では効果が無く、屋敷外に持ち出された場合のみ発動する仕組みなんだとか。
俺は書斎から一冊だけ持ち出されている事をルリに話した、すると『ではメインコンピューター室へ行きましょう』と言いながら立ち上がる。椿達の姿が映る画面を見ても、今は特に動きは無い。俺はルリの後に付いてメインコンピューター室へ向かう事にした、もし持ち出していれば場所がすぐに分かる。
もし持ち出した人間が椿なら……
「隠さなきゃいけないモノが、その中にある訳か」
部屋を出ながら、チラッとパソコンの画面を見る。笑顔で黄島にメイクされていく椿がそこに居る、その笑顔がぶっ壊れるのはこれからだ。




