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天涯孤独から一転した俺は  作者: 双葉
第一章 ー終わりの始まりー
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幕間 無能と有能




 パンっ!!!

 乾いた音が部屋に響き渡る、椿に平手打ちされたほむらは少しよろけてベッドへ倒れ込む。自分が何故姉に叩かれたのか、そんな事は考えなくても分かる。


 あの教室で行われた全ての授業に使われる、教科書を焔は日向ひなたに見せてあげていた。椿の予定ではあのまま誰にも協力者が居ない状態で、日向がどんな行動に出るのかを見ていたかった。しかし、それは焔の身勝手な行動により潰されてしまい作戦は失敗した。


 放課後になると焔を連れ出し、屋敷へ戻ると部屋に押し込められて平手打ちを喰らった。




「なんて事してくれたのよアンタ!!」


「申し訳ございません……」


「あのままアイツを放置してれば、屋敷からも追い出せたのに!!」



 椿の怒りは激しく、平手打ちだけでは気が済まないでいる。何故そこまでして日向を邪険にするのか、養子として入ってきた頃は椿もここまで嫌ったりはしてなかった。こうなったきっかけは、椿と焔の両親による過剰なまでの言動だった。


 日向とは中学時代通う場所は違ったものの、急成長をし学園トップの成績を叩き出し、総帥である祖父が『立派だ、血の繋がりが無いものの屋敷の誰よりも優れている』と日向は褒められ、『その他の者はたるんでおるわ!! 今一度時期当主の座を改め直す』と宣言されてしまった。


 養子として来るまでは椿が屋敷で一番褒められていて、時期当主は2人の父親になる予定まで来ていたが、日向の功績によりそれは剥奪されてしまい、当主の座が遠のいてしまった。その日2人は母親に叱責され、『あの悪魔をなんとかしなさい!』と2人に言い付けられた。


 それ以来椿は日向に敵意をむき出しにし、何としても日向を屋敷から追い出そうと奮闘している。血の繋がりの無い日向でも、当主の意向によっては空閑のトップに成りかねない。それだけは避けなければ、2人とその両親はどうなるかわからない。



「焔、アンタ今回の事がお母様達にバレたらどうするつもりなの!?」


「その、日向君は……」


「アイツの名前を出さないでよ!!!」


「ひゃっ!?」



 パンっ!! 二度にわたり乾いた音が部屋の中で弾ける、焔は涙目になりながらもそれに耐えていく。こうしてダメージを受けて行くのは慣れていた、焔はいつも姉より下の成績で学園生活を送っていた。本当は実力も互角である筈なのに、椿の命令によりワザと成績を一つ下で維持している。


 もちろん両親に気に入られたい、自分が常に一番でありたい、それを実現させる為には妹を自分より下にしないといけない。焔は椿と違い気が弱く、強気な姉に逆らえず従うしかない、それを実行してからは『椿は優秀なのに焔、貴女は"無能"過ぎますね』と、いつも姉と比較されては精神的に苦痛を味合わされている。


 何度も考えた、いつか『消えたい』と、全てを『滅茶苦茶にしたい』と、だが自分の力では何も出来ない。その後にルリが連れて帰ってきた日向と初めて出会った、両親から聞いていた話だと『分家も下の方で血も流れていない』子だと。そんな日向がまさか総帥に気に入られてしまったことは、屋敷の人間全員が驚いた出来事だった。


 男に苦手意識を抱いていた焔だが、その時だけはこう思った、





 ―――私のヒーロー




 屋敷の人間を驚かせるくらいの実力、『この人ならもしかしたら』とずっと思っていた。ただ自分から話しかけるのは怖い、もし椿や両親に見つかるとまた何かされる。だから日向から声を掛けられるのを何年も待った、そして今日、ちょっとした奇跡が起きたおかげで、他愛の無い会話ができた。




「焔は私達の言う事を聞いていればいい、わかった?」


「…………」


「黙るの? これだから"無能"は困る」



 無能、無能、無能。

 本当はどちらが無能か比べるまでも無い、だがそれを今口にする事が出来ない。きっと日向が何かをするんじゃないかと、何となくだが予感しているからだ。焔があの教室で見た時の日向の目は、自分と似ていると感じていた。


 初めて屋敷の廊下ですれ違った日向は、どこか『虚ろな目』で直ぐにでもその場に居る人間を『殺してしまいそうな』オーラを漂わせていたから。




「何か言いなさいよ」


「私は……」


「私は? 何?」



 きっと日向が助けてくれる、そう信じて焔は椿に対して、





 ―――従います




 消えそうな声で、そう告げた。



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