名前を考えよう
結果から言えば私は死ななかった。流石に死因 ビンタ、原因 覗き。 では幾ら何でも格好がつかない。
自分より小さい生物で愛らしいものだからと油断していた。先程の手から水が出たことも踏まえると、ここは私の持っているであろう常識が通用しないようだ。派手に吹き飛ばされたが、痛みは全身打ち身程度で済んでいる。ここだけを見ても常識が変わっていると思うべきだろう。痛い事には変わりないけれど……。こんなことを考えてるうちに、私を吹き飛ばした妖精が私に追いついたみたいだ。
上空から飛んで、私は仰向けに寝転がっていたので、意図せず見えてしまった。見えてしまったからにはあるかないか気になったので凝視した。何を?先ほど考えていた問題である。そう、履いているかいないかだ。ちゃんと履いていた。だがこの話を引っ張ると、次は死ぬかもしれない。だからもう話題はやめておこう。そう心に誓った。
「ご、ごめんね、大丈夫?」
妖精は妖精で私を吹き飛ばしたことは反省しているようだ。
「大丈夫だよ、こっちこそごめんね」
これで終わりにしておかないと。疑問に思ったからといって即行動では命がいくらあっても足りないのだから。
立ち上がって泥と草に塗れている身体を払う。そうして改めて妖精の姿を見る。
身長は手のひら2個分ほどで、髪色は艶めいた銀色。髪型はツインアップで髪の長さは膝裏ぐらいまである。目の色は桜色。着ている服は胸元が少し空いたドレスで深紫色に少し赤みがかっている。
赤というより私の服のように血に近い色にも感じるが……。
翅は鋭利な形状で翅というよりは剣の刃を感じさせる。翅色はメタリックブラックで光を反射すらしている。半透明なのも相俟って幻想的だ。無邪気な様子とは裏腹に血が似合いそうだ。
性格としては妖精の中でもピクシーよりで見た目はヴァンパイアを彷彿とさせる。
私を吹き飛ばした力を考えるとピクシーのヴァンパイアではないかと邪推してしまうが早計が過ぎるかもしれない。何せ光の下でも特に問題がないように見えるからだ。
見つめすぎていたのか、妖精は気恥しそうにしていた。値踏みしていただけなんだけど……。
「ねぇ、あなた名前は?」
「名前?」
聞いてから気づいた。言うまで気づかなかった。自分の名前が思い出せないのだ。名前だけではない、何者であるかもだ。履歴書にはきっと何も書けないだろう。その癖、常識やサブカルチャーなどは覚えているようだ。私の驚きを他所に、悩んでいた妖精は何かを思いついたようだ。
「そうだ!あなたが付けてよ!」
よもやと思うが、目の前の妖精も記憶がないのだろうか。いくら何でも名前を忘れるなんて。
人のことは言えないのだけど。
「じゃあ、そうね」
見た目を見直し、性格と容姿から考えてみよう。
ピクシー+ヴァンパイア……んー……
「ピヴァンなんてどう?」
すると妖精の全身が光りだし、光が収まったかと思えば、焼け始めたのだ。流石に発火するほどではないが、煙は出ている。名付けられたばかりのピヴァンは不意に起きた現象に驚いていたが、やがて状況の原因に思い当たったのか。
「あんたねぇ!」
少し前までの口調と打って変わって、忌々しそうにこちらを睨みながら吐き捨てられた。えっ!?私!?と思った後に焼け始めた箇所を見て思い当たった。ピヴァンの見た目を見たときに想像したことを。
ヴァンパイアならば日に焼けるはずだと、そう、焼けていたのは日に当たっていた場所だけだったのだ。どうやら名前を付けた際に、名前と私の想像したものに押し込められてしまったようだ。
「ご、ごめん!」
「謝るより早く日除けになりなさいよ!」
言われてようやく対処方に気付く、慌てて体で影を作る。元が小さい妖精でよかった。身体が大きい生物ならこんなことはできなかっただろう。改めてピヴァンの容姿を見直すとよりヴァンパイアに近くなっていた。大きな違いは翅で蝙蝠の見た目に変化しており、歯には鋭い犬歯が見える。
全体的には艶やかさを醸し出す立ち居振る舞いになっている。とはいっても所詮デフォルメボディなのだけど。口調が変わったところを見ると、長寿で長命が私の中のヴァンパイア像のようだ。身長が変わらなかったのは妖精でもあるからだろう。機嫌は頗悪そうだ。名前を付けられたばかり、いや名前を付けられたからだろう。額には青筋を浮かべてはいるが、睨みつけられる程度で済まされてるところを見ると抑えているようだ。こいつどうしてくれようか、でもこっちから言いだしたことだし、みたいなことを考えていそうだ。大きく溜息をつき、黙っていても仕方がないと思ったようで、こちらに向き直った。
「で、何か言うことはある?」
怒りのボルテージはまるで収まっていないようだった。
「ごめんなさい、こんなことになると思わなくて」
「余計なこと考えないでよね」
「名前付けたからってこんなことになるとは思わないじゃない!」
全く、これっぽっちもこんなことが起きるとは思わなかったのだ。
「名付けってのはそれだけ重大な意味を持つんだから、気を付けてよね」
言われてみるとそうだが、そうならもう少し説明してくれてもよかったと思う。
「今気にしても仕方ないわ、あんたに任せたこと自体が間違いだったみたいだし」
仕方ないとか言いながらも、嫌味を忘れないところを見ると根には持っていそうだ。
「わかったなら、早く名前を付け直しなさい、動くこともままならないじゃない」
少し私から視線を外して私の裏にあるであろう日を睨んで言った。
「えー、このままじゃダメ?」
正直名前なんて考えなおすのは面倒だ。
「馬鹿なの? 困るのはあんたなのよ」
「え、なんで?」
別に私に困る要素は感じられない、見た目こそ変わったがお持ち帰りしたいほどの可愛さは継続している。サイズも持ち運びやすいし。
「馬鹿ね、どこに帰る気なの?」
心を読まれた!。そして同時に棲家、家がないことも思い出した。
「名付けられたおかげで記憶も少し戻ったのよ、私の役割はどうやらあんたを案内することみたい」
やっぱりピヴァンも記憶喪失だったようだ。記憶喪失のナビゲーターって役に立つのだろうか。
「本当に馬鹿なのね……、私は空を飛べるのよ。それだけでも見まわることぐらいできるわよ」
それに、と続けてピヴァンは言った。
「右も左もわからないのに一人で何とかできるの?」
確かにそれには自信がない、服を探すだけでも手間取ったのは事実だ。後最低でも食べ物と住居は確保したい。でもなー。
「名付けをし直さないんだったら寝るわよ」
「寝る? どこで?」
安全に寝れる場所があるんだったら、あやかりたいものだ。
「あんたの影に決まっているじゃないの」
おかしなことを聞くと言う目で見られた。ヴァンパイアの能力には影に隠れるというのもあったのだった。
「それに、私の場合は食事はあんたでいいわけだしね」
舌なめずりをしながら言われた。住居ついでに食料源のようだ。私だけで食住を賄うつもりのようだ。
「それだったら、私の食べ物や家はどうするのよ!」
「夜になったらちゃんと手伝ってあげるわよ」
ただ単に日中はつらいから寝るだけのようで、ちゃんと助けてはくれる気のようだ。だが私のほうはそれまで指針もなしに起きてるだけというのも困ったものだ。見渡す限りの草原のようだし野生生物がいないとも限らないのだ。そんな中この細腕でできることなんて限られている。
こうなったら……
「ピヴァン!あなたの名前はピヴァン・デイウォーカーよ!」
私は安直に日に強くした。
タイトルはまだ未定です
サブタイトルが四字熟語なのはノリです
6/7 ピヴァンの口調を古風からハーフ状態に変更しました 謎のキャラ付けでしたので……