‐父親‐
この老人が俺を旦那様と呼ばれる男のもとまで連れて行くというのだが。
旦那様?ここの家主のことか?
どんな人なんだろう?
俺は食われたりしないか等と嫌な予想を抱きつつ老人に抱かれ長い廊下を移動してわかったが。
ここは物凄く広いお屋敷のようだ、それもやはり窓から外を見た感じ明らかに生えている木々などの植物は見たことがない物ばかりで明らかに日本では無い。
あの声に聞けば答えてくれるのだろうか?えっと、こんな感じか?
頭の中で問いかけるように言葉を浮かべる。
ここはどこだ?
それに応えるかのように返答が頭に響いてくる。
《この地名はインフォリア国内のアルクァッド領内になります》
よし!!こうすれば鑑定や質問に返答があるのか!一つ勉強になったな!
でも…本当の本当に異世界にきたんだな…
そんな事を思っていたら、率直に言って他よりも豪華で堅牢そうな両扉の前に着いた。
ほかのドアよりなんかすっごいな…
老人はその威圧感のある大きな二つの扉をノックした。
ッコッコッコ
すると中から返事がくる。
「おぉ!カインズか!?入れ!」
中の男の声が此方まで響く、何故だろうまるで地響きのような魂が揺さぶられている感覚だ。
「(どんな奴なんだ…さすがに怖くなってきた…そしてこの老人はカインズって言うのか)」
ガチャ ギギッ キィーー
ドアが重々しい音を響きかせながら開き、中に入った。
老人が俺を抱えなながら背筋を伸ばし礼儀良く頭を下げる。
「失礼します旦那様、坊ちゃまがお目覚めになられたのでお連れしました」
中には予想通り、立って窓から外を見ていた旦那様と呼ばれる男が居た。
その男は整った顎髭を生やし、全体的に体はがっちりとしており顔立ちはすこし目元は鋭くきついが優しそうな顔をしている。
服は長い黒地に茶色と金色の模様の入ったレザーのロングコートを羽織り、中には襟の部分だけ真っ白なスカーフが付いており、その上からワインレッドのようなまるで血を染み込ませた色のベストを着て。
下には艶のある高級そうなレザーの真っ黒いズボンをはいていた。
そして何より俺が気になったのが、その両目である、カラコンでも入れてるのかな?と疑うほどに真っ赤だがそんな安っぽい物じゃないと一目でわかるくらいに透き通っていて、底が知れない程の威圧感を宿し見入ってしまうような深紅なのだ。
そして、その深紅の眼でこっちを見つめながら静かに。
「うむ、カインズよご苦労だった!さっそくわが子をを抱かせてくれるか!?」
あぁ、俺が吸血鬼に生まれ変わったんなら親も吸血鬼だよね…そーだよねー…でもハーフなら母親が人間か?
取り敢えずこっちの話は伝わらないから聞くことに専念しよう。
などと抱かれながら今更な事を考えて居ると。
「愛しの息子、ソーマ!」
男は此方を見つめ、その風貌からは考えられないような優しく暖かい眼差しを俺に向けた。
あぁ、ふつう父親ってこんな感じなんだろうか?
自分は両親の事はほぼ知らないし親らしいことなんかされたこともない、だからこんな愛おしそうに見つめられるただけで初めてで恥かしいと言うか照れる。
おい!てか何でこの人は俺の名前を知ってるんだ!?
《此方の方があなたの父親に該当する方だからです》
いや!だからって仮にも転生したんだろ!?なんで前世の名前まで知ってるんだ!?
《貴方が生まれ、名前をお決めになる際に自らソーマと喋ったそうです、ですからそのまま此方の方がソーマと付けられたようです》
なるほど…まともに喋れないのに名前言ったのか俺…
あ、確かになんかボーッとしてるときに聞かれた気がして言った気が…
だけど湊真じゃなくソーマか、わるくないな!
横文字の名前に意外と抵抗はなく飲み込めた。
「ソーマ…お前は俺と母親であるセレスの宝だ。だがきっとお前にはこの先、様々な苦難が待っているだろう。親として申し訳なく思う…だが安心しろ!お前は何があっても必ず俺がこの身に懸けて護るからな」
暖かくもどこか哀しさを含んだ表情で父親にあたる男は俺にそう言う。
母親?もしかして俺が抱かれた金髪の女の人かな?ここにはいないのかな?
そして今度は父親の吸血鬼が老人の方を向き口を開いた。
「カインズよ…以前報告にあった幹部連中や他の種族に密かな動きがあるようだが、もし万が一にも私に何かあった時はこの、息子のソーマを頼む…俺からの唯一の頼みだ…」
懇願するような苦しいかの様な表情のまま父親はそう言いながら頭を下げた。
「承りました、私の全ては旦那様に拾って頂いたあの時より旦那様の物です。旦那様…いえ王よ、この私の全てに賭けましてソーマ坊っちゃんを御守りします。お任せ下さいませ…」
老人もそれに承ったと答え、頭を深く下げた。
「あぁ、お前がそう言ってくれると安心するぞ。だがまだあの時の事を言うのかカインズよ?もう気にするでない」
「そのようなこと出来ません!!」
カインズは少し声を荒げた。
「あの頃…自分の力を傲り、飢えた獣のようだった自分を正し導いて下さいましたのは他ならぬグラド様で御座います!!旦那様にお会いしてなければ今の私はございません…ですので恩人でありますあなた様のご子息も私にも代えることの出来ない程の宝です」
昔に父親とこのカインズは何かあったのだろう、えらく俺の父親を慕っているようだ。
「おぉ…カインズ…そこまで言ってくれるか、俺は幸せ者だな。お前のような忠臣に恵まれているのだからな、重ね重ね感謝するぞカインズよ」
取りあえず俺の父親はこの国の王様…なのかな?
なら少しは楽な人生おくれるのか?
「いえ、滅相もございません旦那様これからも旦那様や奥様そして坊っちゃんと精一杯お仕えさせて頂きます」
「あぁ、頼むぞカインズ。それと後でセレスの部屋にもソーマを連れていってあげてくれ、疲れて寝込んでしまってるかも知れないが喜ぶだろう」
「はい、畏まりました旦那様」
お!やっと母親に会えるのか!元の所では母親はろくでもなかったけどこっちの母親はいい人だと良いな!
俺は良い母親像を浮かばせながら心踊らせていた。