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それから10年。時が経つのは早い。訳ではないけど。早いことにした。
私たちは高校生になっていました。班公認は、親公認になり、クラス公認になり、学年公認になり、いつのまにか全学年公認になって中学校を卒業。
「はじめまして!私、久遠千夏っていうの!よろしくね!」
どこかで聞いたことある名前の気がする女の子が、私たちによく絡んでくるようになりました。
紀以ちゃんと満ちゃんが怒ってくれましたが、「きっと気のせいだよ」と私は2人に言いました。
気のせいだよ、今度こそ、仲良くなれるよ、と。
たまたま似た名前なだけで、何もないよと。
「ほんとにー?」
「いや正直難しいですね…ちょっとしたトラウマになってますね」
玉置先生はなぜか転勤先が私たちの高校だったらしく、未だに私たちの中で「すごくなんでも喋れる頼りになる先生」扱いを受けています。
「コーン子爵令嬢のチナちゃんね、が久遠千夏ちゃんと名前とノリが被ってるってことね」
「そうなんですよ……また、安治くん取られちゃうのかなと……ちょっとだけ思ってて……」
「とってないですよぉ!誤解です!」
ばたん!とドアを開けて現れたのは久遠さんでした。半泣きです。
「私が一番会いたかったのはカレンさまの方だもん!ほんとガード硬くて!しかも勘違い男達にいっぱい言い寄られて!カレンさまに話しかけられた時あんなに嬉しかったのに……裏技的だけど、アンディ王子と話してればきっといつかカレンさまとお話しできるはずって思って……」
「裏技というか荒技だね?」
「どうして直接話しかけなかったの?」
「とりまきとかがこわかった」
「仕方ない」
話を引き出す玉置先生。さらに、にっこり笑って尋ねます。
「今のは全部本当?」
「ほんとです!」
「本当ですって。私に免じて信じてくれないかしら?」
「えっ」
「以前保健室にほぼ毎日来てたかれんちゃんなら私の不思議な力はもう気づいてるでしょ?私が質問したことには本当のことしか答えられないの」
「えっ??」
あまりにも突然の異能者カミングアウト。
先生曰く、大学の頃身につけた不思議な力なんだとか。しかもこの世にはこんな感じの異能者や魔法使いはまだまだたくさんいて、先生のご友人にもそれなりにいるそうな。
───いや、それならもっと大事な質問があります。「逆ハールート」のことについてです。
私は確かに彼女が「逆ハールート」と言う言葉を口にしたことはわかっています。どうなっているんでしょう?
「逆ハールート!ほんとあれ厄介でした!もう何を話しかけても全員好意的に受け取りやがりまして!もー!話が!通じないの!」
「なるほど、強制力ね」
「きょうせいりょく……?」
「小説でよくある設定なのよ。元々のお話のところに異分子が入り込んでも元々のお話を遂行しようとする世界的な力よ。ってことはもしかして久遠ちゃんは二回目の転生かな?」
「ですです!なんか元の生きてた世界に近いところに戻って来ちゃいました!でも元の私はいなかったからパラレルワールドかもです!」
強制力のせいで「逆ハールート」に苦しめられてたから騒いでたんですね、なるほど。
そしてパラレルワールド。もうなんだかわからなくなってきました。
「平穏無事な魔法のない世界に来たと思ってたけど……世界ってよくわかんないなあ……」
「ふへへ……玉置センセってスッゴイですね……」
「あ、でも一回通用しないことがあってね、その時は質問を質問で返されちゃったのよ」
「?」
「三好田くんに、前世のことを聞いた時。『もう逃さない。邪魔をするな』的なこと言われちゃった」
「キャーヤンデレです!カレン様逃げて!」
「逃げてと言われても」
こちとら10年お付き合いしています。彼と付き合ってない期間よりも付き合ってる期間の方が長いとまで言えます。いやむしろ。
「元々ヤンデレでしたっけ……?」
「えっ?アンディ王子ですか?そうですよ?」
「初耳」
「正直取り巻きよりもアンディ様ご本人の方が怖かったまであります!」
「ひどい」
「私が近くにいることを知りながら『僕の妻になる人の友は婚約者のいるものでなければならない。どうして僕が彼女らが近づくのを許しているか、それは彼女らには別に愛する人がいるからだ。心変わりの兆候を見せたら、すぐに離れるよう手配する』とか言って!キャー!ヤンデレですよ!」
「えっ、むしろ何故私が獄中死するのをあえて見逃したのかわからなくなってきましたよ?」
「えっ?獄中死にかこつけて囲ってたんだと思ってました」
「えっ……ふつうに暗い獄中で死にましたが……」
「ええ……」
「まあまあ、その辺はご本人に聞いてみないとわからないから。秘密にしておくのも楽しいかもしれないけど」
「ひとごとだとおもってー!カレン様はセンセのかわいー初任地の児童なんですよね?!もしかしたら加害ヤンデレに化けるかもしれないんですよー!」
「あら私かれんちゃんのとこが初任っていつ言ったっけ?」
わいわい真剣に、かつ楽しそうに言い合う千夏ちゃんと先生。
それを横目に、私は今後のことへ想いを馳せていた。