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薔薇の刻印  作者: 柚希
3章 逃走―追う者、追われる者―
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閉鎖サイトで掲載していたもの(未修正)です。

今後修正を予定しています。

「いちゃつくのはそっちの勝手だが、いい加減俺の存在に気づけ」

 いきなりの声に驚きツェリアはヴェリガを突き飛ばした。

 どすんという音がしてヴェリガはしりもちをつく。

「いっってぇ」

 小声でつぶやくも、誰にも聞こえていない。

「ジェ、ジェイス。何か、用だった?」

 何もなかった風を装うも、声が上擦っている。

 ジェイスはぷっと小さく笑うも、ヴェリガに睨まれ、普通の顔に戻した。

 それでも、微妙に肩が揺れている。

「何だよ」

 立ち上がりながら、ヴェリガはさらに睨みつける。

「あんたたちの声でかすぎ。おかけで気づかれた」

 再度、ふっと笑い、用件を言う。

「誰に?」

 ツェリアは分からず聞き返すが、どうやらヴェリガは分かった模様で顔を厳しくする。

「今何処らへん?」

「今さっきいた家は、今しがた取り押さえられたところだな」

 二人の会話にまったくついていけないツェリアは会話に入ることができない。

 ヴェリガはジェイスに自分の外套を受け取ると、ツェリアの頭を屈ませ、自分も外套を身に着け、ジェイスに合図をする。

 ジェイスも同じく姿が見えないように黒い外套を体に纏い、体を着の影に隠し周囲を確認する。

 まだ、奴らはこちらに来ていない。

 目配せで、そのことをヴェリガに伝えると、まだとまる予定だった家からそう離れていない場所の草むらから、ツェリアと一緒に飛び出し、坂道を駆け下る。

 ジェイスが後に続く。

 ツェリアは、走りながら後ろを振り返った。

 ジェイスの肩越しに見えるのは大きな家。

 その家は今、火が放たれ、煌々と燃えだしている。

 ツェリアはそれで二人の会話を悟った。

 自分がここにいることが知られてしまったことに――。

「ツェリア、前見てろ!」

 ジェイスに言われ、慌てて前を見るも、あのお気に入りだった家が燃やされていくことに、悲しさがこみ上げてくる。

(ごめんなさい……)

 心の中で、ツェリアは謝った。

 そして、自分自身を呪いたくなった。

 自分があそこに行かなければ、家は燃やされることはなかった。

 自分がいなければ、もしかしたら両親は今でも、リロテ町で幸せに暮らしていたかもしれない。

 最後には、本当に自分で自分を殺したくなってきた。

「ツェリア、遅い!もうちょっと速く走れ!」

 ヴェリガに言われて、ツェリアは現実の世界に引き戻された。

「ご、ごめんなさいっ」

 慌てて謝るが、走るスピードなどそう簡単に上げられない。

 言っても上がらないスピードに、ヴェリガは何を思ったのか、いきなり止まるとツェリアを肩に担いだ。

 荷物を担ぐような早さで。

「――っ!?」

 悲鳴をあげようにも、その前に走り出されてしまう。

 後ろから、ジェイスが苦笑しているのが、目に映る。

 急に恥ずかしくなり、地面を見るが、なんだか気持ち悪くなってきて顔を進行方向とは逆の方に向けた。

 肩から落ちないように、両手はヴェリガの肩の上に置き、ぎゅっとつかむ。

 遠くなる家と、過ぎていく家並み、木々たちを見ていると、ヴェリガの足が止まりだした。

 後ろを走っているジェイスも同じだ。

「ジェイス、ここを出られる抜け道知ってるか?」

「いや、知らないな。俺はここに来たのは初めてでね」

「俺もなんだよなぁ。ツェリアが連れてきたんだけど……ツェリアは知ってる?」

 何か、非常事態が起きたようだ。

 話から察するに、出口を封鎖されてしまい、出られなくなったというところだろう。

 道をはずれ、草陰に隠れると、ツェリアは肩から下ろされた。

「ごめんなさい、私も知らないの。父さんに教えてもらっただけで、きたことはないの」

 しゅんとうなだれた、ツェリアにヴェリガはしまったという顔をした。

 自分はそんなこと聞かなくたって、知っていたことだ。

 ツェリアが町を出たことがないことに。

「悪い、聞いた俺が悪かったから、そう落ち込むな。な?」

 励まされて、ツェリアは頷いた。

 今は落ち込んでいる場合ではない。

 逃げ道を探し出さなければいけないのだから。

 戻ることができないことは分かっている。

 兵たちに見つからずここを出られるのは囲いを下からくぐってしまえばいい。

 リロテ町を出たときのように。

 とにかく囲いを何とか抜けることができればいいのだ。

(囲いを抜ける?)

 ツェリアは、走ってきた道のどこかにそのような場所がないか、記憶をたどる。

 家と木と、他に何かなかったろうか?

 この村だって、どこかにあるはず。

 必死で、たどっていく。

 目立たない、そのような道がありそうな場所を。

(あっ!)

 思い出した。

 確か、ヴェリガに担がれたとき、前方左側に、井戸があった。

 井戸は、中が歩けるようになっているはずだ。

 それができなくても、水に乗ってどこかに流れ着くことも可能だ。

「井戸があった」

「え?」

 ジェイスが聞き返してくる。

 ツェリアは二人に聞こえるよう、もう一度言った。

「井戸があったのよ。ヴェリガに担がれたとき、私井戸を見たわ。あれなら出られるんじゃないかしら!?」

 男二人は、目を合わせ、それしか方法はないと判断する。

「そこまで戻るぞ!」

 三人は、降りてきた坂道を草陰に隠れながら、駆け上がり始めた。 ジェイスが、ヴェリガに先に入るように言うと素直に従い、備え付けの梯子を降りていく。

 その後、に続いてツェリアに降りさせ、最後に周りを警戒しながら、ジェイスが井戸の中へ降りた。

 井戸の中は、人が一人歩けるぐらいの道が続いている。

 水の流れる向きを確認し、流れていく方へ歩いた。

 地下を走っているだけあって、辺りは暗い。

 ヴェリガと、ジェイスの持つランプを頼りに、先を急いだ。

 その間、誰も話さない。

 話せば、確実に声は反響して、誰かに聞かれる危険性があるから。

 それを分かっていて誰が声を出すというのだろう。

 延々と歩き続け、日付も時間も分からなくなってきた頃、やっと外へと出られそうな場所に着いた。

 井戸ではなく、道をそのまま歩いていけば、外に出られるところだ。

 何度も井戸の梯子らしいものは見かけた。

 そこから外へ出なかったのは、何処の井戸なのか、周りに誰がいるのか、それを知るすべはないし、第一危険すぎる。

 一番安全なのは、この地下水路の中を延々移動し続けることなのだが、それでは、三人の欲しい情報を手に入れることは難しい。

 三人の判断は、この道が途切れるまで歩き続けること。

 そして、やっとそれらしいところへ行き着いた。

 ドドドドドと水音が聞こえてくる。

 これはこの後、下へ落ちるようになっているみたいだ。

 水の落ちる先まで行くと、道の先はなかった。

 普通、水に紛れて、流れてくるものをせき止める、鉄で作られた格子はない。

 そこに以前あったという形跡だけはあるのだが、肝心のそれは見つからなかった。

 鉄の残った後を見ると、無理やり何かに壊されたような形になっている。

 どう見ても人がやるにはできそうもない大きさなので、これは水が大量に流れたときその威力に鉄が負け、壊された可能性があるが、ツェリアは、これの観察にきたのではなく、逃げるためにここまで来たのだから、ここからどうやって、下へ降りるかを考えなくてはいけない。

 ヴェリガと、ジェイスを見ると、二人は真剣に考えている。

 ツェリアも考えてみるが、これといっていい案は思い浮かばない。

「ジェイス、なんか思いついた?」

「お前は?」

「いいってわけじゃないけどさ、この岩から降りるか、もう、いっそのこと、飛び降りるか、それとも、水に紛れて滝で落とされるかだな」

「俺も似たような考えだな。一番妥当な案は水で下に行くことだと思うんだが、どうだ?」

 真剣に考えた結果、案が思いついたのか、二人で案を出し合い、話し合う。

「それしかないか?やっぱ」

「お前が、ツェリアを離さなきゃ、無事下までいけるだろ」

「そうか。じゃあ、そうするしかないか」

 話はまとまった。

 一番安全な方法をとり、水の力を借りて、滝から下へ落ちること。

 安全そうではないが、それが一番早く三人が降りられる方法だ。

「ツェリア、話聞いてたろ?」

 ツェリアを抱き上げ、水に入ったヴェリガが確認のために聞いてきた。

 何も離さず黙って聞いていたのだから、全部聞こえている。

「うん」

「なら、俺の腰、ぎゅっとつかんどけ」

「はいっ」

 ツェリアは水の中へ降ろされると、すぐに腕を回し、流されないように、離れないように腕に力を入れる。

 ヴェリガもツェリアを離さないよう、背に手を回す。

 後から入ってきたジェイスは、ヴェリガの後ろに立って、これで準備は完了だ。

 息を吸い込み、空気が漏れないように息を止めると、水の中へ入った。

 目を開き、ぼやける水の流れる先をヴェリガはじっと見る。

 ツェリアは離れないように、ヴェリガの服の中に顔をうずめる。

 水の流れ行く先は滝。

 水が下へ勢いよく落ちる場所。

 すぐにそこへ行き着くと、水と同じように、体も落ちる。

 それは、早いようでとてもゆっくりと時間ときが流れているようだった。

 ようやく水から上がれたのは、滝から十メートルも流された場所。

 落ちたばかりの付近は、水の落ちる力と、流れる威力が強く、その流れに乗るしかなく、上がろうと淵へよろうとしても、流れる水が邪魔をしてそれができない。

 体力を消耗させないためにも、水を体に預け、威力が弱まるのを待つしかなかった。

 ようやく、流れる力に対抗できるぐらいになったのは、滝からだいぶ離されてからだった。

 先にツェリアを陸にあげ、ヴェリガもその後で、陸に上がった。

「ごほっごほっ」

 水を飲んでしまい、ツェリアは咳き込む。

 その背中を、何度か叩いてやり、少しでも早く水を吐き出させてやる。

 収まってきたところで、二人は、もう一人のたび仲間を探した。

 水の行く先、来た先、そして陸の上を。

 何処を見回してもジェイスの姿が見当たらない。

「もしかして、ジェイス、はぐれちゃった?」

「かもしれねぇ」

 この水の速さだ。もうこの付近にはいないに違いない。

「確か、ベネゼを出るときに、次はミサを目指そうって言ってたよね? そこに行けば会えるんじゃないかな?」

 記憶をたどり、目的地を思い出す。

 川をたどって、ジェイスを探すより、目的の場所があるのだから、そこへ行けば会える可能性が高い。

 ミサが今の時点では分からないため、まずは人を探すことにした。

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