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薔薇の刻印  作者: 柚希
3章 逃走―追う者、追われる者―
13/16

6

閉鎖サイトで掲載していたもの(未修正)です。

今後修正を予定しています。

「ツェリア!」

 扉が乱暴に開かれ、現れた二人の男の内の一人が叫んだ。

 一人は外套をかぶった青年。

 一人は傷付いた体で、青年に助けられながら立っている少年。

「ヴェ、ヴェリガ!」

「わりぃ、遅くなった」

 謝るヴェリガに、言葉が出せず代わりに首を振った。

 ヴェリガを支えるようにして立っているのは、ジェイス。外套で顔を見えにくくしているが、間違いない。

 牢屋から救ってくれたのは、ジェイスだったのだ。

「捕まえろ!」

 喜びもつかの間、ゼンが扉付近に配置していた者に命令を下した。室内室外で待機している者たちに。

 室内の者たちはにじり寄るように2人を囲むが、室外の者たちが動く気配は一向にない。

「ヴェリガ、まだ動けるか?」

「ああ」

 支えのジェイスから体を離すと少し体をふらつかせ、倒れる前に足で踏ん張り弱った体を支えた。

「来いよ。相手してやるよ」

 4人兵は剣の切っ先を相手に向ける。

 対する2人は手に何も持っていない。

 剣相手に、素手では勝てっこない。どう見ても剣を武器とする兵士の方に勝ち目がある。

 挑発的な態度に、怒りと焦り、不安を乗せて兵士が一人ヴェリガに剣を振り下ろした。

 動きからするに、相手の肩から下へ振り下ろした。

 体力の有り余っているジェイスより、気づ付いたヴェリガを選んできた。

 先に捕らえやすい方に標的にしたのだ。事実、足で踏ん張っていても、ヴェリガの体は立っているのも精一杯のように見て取れる。

「ヴェリガっ」

 振り下ろされた剣に、気づいているのかいないのか動こうとしないヴェリガに、無意識に叫んだ。

 やっと会えたというのに、目の前で切り捨てられるところを見たくない。

 ましてや、ツェリアといたことで、赤い線の痕は体に刻まれてしまったのだろう。何本もの線が体に刻まれている。

 視線を離したくても、一点で固定されてしまった顔も目も、動かない。

 恐怖と不安とで目が離せない。どんなことになろうとも、二人の姿を目に入れていたいかのように。



 からんっ。



 剣が床に落ちた音が静かな室内に聞こえた。

 ヴェリガは床の上に立っている。

「くぅっ」

 苦痛な声を上げ倒れたのは、ヴェリガに切りかかった兵士だった。

 部屋にやけに大きく聞こえた音は、剣が床に落ちる音。

「やっぱり、ツェリアが関わると、お前って強いよな」

「当たり前だ。お前に救われるのは牢屋脱走する時だけで十分。手出しするなよ」

 この会話を聞いた残りの兵士は、自分たちの能力を馬鹿にされた受け取り、怒りにまかせて呑気に会話をしているヴェリガに音もなく忍び寄り、剣を突き付けた。

 今度こそ、危ない!と思い、ツェリアが叫ぼうとした。その時―――剣がまじりあう音がした。

「危ないじゃん。ケガ人に少しは優しくしてよ」

 にこりと笑っていない笑顔を見せ、兵士の剣を剣ではじき返した。

 持っている剣は、兵士が振り下ろすまでは手になかった。そして、どう見てもヴェリガが持っているのは兵士が愛用している剣と同じものに見える。

 最初に切りかかった兵士が落としたものだとすぐに気が付いた。床に落ちたはずの剣がなくなっている。

 ジェイスの手助けなく、ヴェリガは4人もの兵士をみね打ちし、あっと言う間に床に沈ませる。

「ヴェリガ……カッコいい」

 ジェイスに助けられて部屋へ押し入ってきたのにもかかわらず、この身のこなし様は素晴らしかった。

 ツェリアには、ヴェリガの剣の扱いに長けていることに驚き、その姿に見惚れた。

 こんなに、かっこいい人の恋人が自分だとはとても信じられない。

「ヴェリ―――いっ!」

 助けにきてくれたうれしさで、まだ主がいることも忘れてヴェリガに走って行こうとした。

 それを一人の男は――この部屋で唯一残された者――許さなかった。ツェリアの腕をひねり上げ、手に持つ小ぶりの剣をツェリアの首に押し付ける。

 ツェリアの首に冷たいものが当たる。

 少しでも動いたりすれば、刃がツェリアの首を傷つける。

「ツェリア!てめぇ、ツェリアに何すんだよ!放せ!!」

「この女は、俺に協力してもらう。俺の下で働いてもらうんだ。お前たちに返してたまるか!」

「お前にツェリアは渡すもんか。俺の女を返せ」

 ヴェリガとゼンはツェリアを間にはさんで2人は睨みあった。「ゼン、いい加減にしろ。見苦しいぞ」

 静かに2人が睨みあいをする中、沈黙を保ち展開を見守っていたジェイスが止めに入った。

 ヴェリガに剣を下ろすよう、手で指示する。

 ここで、剣をまじりあわせて争いをするためにここへ来たわけではない。

 目的は、ツェリア救出だ。

 ジェイスが言わんとすることを感じ取り、ヴェリガは不服そうに剣から手を離した。

 床に剣の落ちた音が響く。

「お前、誰だ?なぜ、俺の名を知っている」

 フードをかぶった男がなぜ自分の名を、それもあまりたいして有名でもない名前を知っているのか不思議だった。

 ゼンが薔薇の刻印の使命を受けたのは先日、このツェリアが刻印の女だと騒がれた頃にこの砦にやってきた。

 前任の者が刻印を持つ者に殺されたために、国一番の最強戦士と兵士の間で評判があるゼンが任務に就くことになった。

 まだ、周囲に住む者ですら砦を仕切っているのがゼンだと知らないというのに、来たばかりの奴に自分を知っているかの様な口ぶり。

 知りあいかと考えれば、フードをかぶるような知り合いが思いつきもせず、結局誰だかさっぱりわからない。

「忘れたのか?呆れた奴」

 ジェイスはまさに呆れたように肩をすくませ、ずっとかぶり続けていたフードに手をかけた。

 一気にそれを取り払う。

「お、お前、お前はジェイス!!なんでここに!?」

 ジェイスに動揺し、ツェリアを掴んでいた手の力が弱まるが、まだ小さな剣はまだ、ツェリアの首に当たっている。

 払い落とせば、簡単に逃げ出せる。けど、首にぴったりと付いている剣が再度ツェリアの首に傷をつけられたくない。

「なんで?お前たちが俺を勝手に追い出したんだろ?殺されたように見せかけて。そんなにこの任務に就きたかったのか?」

 ジェイスが話すごとにゼンは徐々に動揺していくのが傍にいるツェリアにも分かった。

 体が小刻みに震えている。

「ツェリア。来い」

「あ、はい」

 断ることのできない口調に、無意識に返事をしていた。相手はヴェリガだった。

 ゼンが気づかぬうちにヴェリガがツェリアに近づいてきていた。

「兄さん。返してもらうぜ」

 断ってから、小ぶりの剣を持つ腕を手の横で強く叩く。

 動揺しているゼンは簡単に剣を取り落とした。その隙にツェリアは逃げ出す。

「あ、待て!」

 動揺しながらも、ツェリアを手放すことをあきらめていない様子のゼンに、今度はジェイスが拾った剣を素早くゼンに向ける。

 見事ツェリアを救出したヴェリガに視線で先に逃げるよう促した。

 ヴェリガは小さく頷くとツェリアを連れて外へ出ていく。

「逃げさせてもらうよ、ゼンたいちょ。君やっぱりこの任務は向いてないんじゃない?」

「う、うるさい!」

 部屋に二人だけとなったこの状況で、なお諦めきれず、剣を持つジェイス相手に拳を出す。

 そうなることも予想していたのか、簡単にひらりとよけると、体制を崩したゼンの背中を左手の肘で打つ。

 小さく呻きながら、ゼンは床にあっけなく崩れ落ちた。

 意識は手放さなかったものの、急所を打たれ立つこともままならない。

「どうして、お前があいつらと一緒にいるんだ」

 立ち去ろうとするジェイスを引きとめるためかのようにゼンは聞いた。

 振り向くことなく考え込むとふっと笑いを零して、部屋を立ち去りながらこう答えた。

「俺の目的のためだよ」

 目的がなんなのか、自分を退けたゼンに教えるつもりはない。

 大体、二人に協力する理由を何も話していない。ツェリアは信じ切っているけれども、ヴェリガはまだ疑っている。何がそんなに疑わしいのか全然さっぱりわからないが、いずれ彼らにも自分の目的がなんなのかを教えなければならない時がくるっだろう。

 今はその時ではないが、いずれ、そのうち言わねばならなくなる。

 その覚悟はもうできていた。二人に協力をすると決めたあの瞬間から。

 自分の過去も、あの人のことも。

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