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「そこの者。お前達は旅人か?」
ミサの門前で、兵士に呼び止められた二人の男たち。
一人は外套のフードを頭からかぶっているが、外套のしたからズボンが見える。
もう一人は、外套も何も着ず、そのままの格好で門前に現れた。
眉を寄せて、睨みながらも、自分達がここにいるわけを説明しなければならない。
この説明も同じ事を何度も言ってくると、だんだんと投げやりな言い方になってくる。
「お前達、この近くの町ベネゼで薔薇の刻印を持った若い女が現れたとおふれが2、3日前"にあった」
フードをしていない男が、驚いた顔をし、ここで足止めを食らった者達が聞いたことと同じ事">を尋ねてきた。
「それは本当ですか?」
「ああ、そうだ。……我が町の町長は騒動を避けるため、我が町では外から入るものに対し">て、厳しいチェック、詰問をすることになっている。ミサに入りたいのであれば、お前達にも受けて貰うが?」
若い男は、フードの男をちらっと見てから、
「分かりました。いいですよ。俺は、ここに用があるので、中に入りたいのです」
男は門番を呼びつけると、フードの男と、もう一人の連れを離れのテントへ案内させた。
ヴェリガは、男に変装したツェリアが女であることがバレやしないかとひやひやしながらも、連れて行かれたテントに入った。
怪しんではいたが、兵士にはバレはしなかった。
実は、ツェリアは完全に男になっていない。外套で見える部分だけは、男らしくさせてあるだけ。髪型だって、長い髪をフードの中にしまってあるため、フードをはずし、顔を見せることもできない。
ヴェリガ自身、ツェリアの顔色を見ることはできないが、テントという密室した場所で、何をされるのか正直言って、怖い。
体中、冷や汗が流れ、服にしみこんでいるのが、自分でも分かる。
ツェリアを男装させてから、外で待たせた方が安全なのかもしれないと、何度思ったことか。でも、外で待たせている間、もし兵士達に見つかりでもしたら―――― 一体誰がツェリアを助けるというのだ。
(これでばれたらジェイスを恨んでやる!川ではぐれたあいつが悪いんだからな!)
テントの中には、机一つに椅子が2脚しかない。ヴェリガが椅子に座り、ツェリアは立って相手を待つ。
しばらくして、男の兵士と、女性がテントに入り、兵士の方が椅子に座り、女性は、ツェリアの丁度右横に立つ。
ツェリアの体が、一瞬強張った。
「えっと、まずは、君、名前は?」
ヴェリガにペン先を突きつけ、机に肘をつき、どうでもよさそうに兵士は聞いてくる。
「ヴェリガ」
「そっちの君は?」
兵士の目線はフードをかぶったツェリアにいく。
「……」
ツェリアが一言でも話せば、女だとばれてしまう。ヴェリガは慌てて、言い訳を――今思い付いたばかりの事をまくし立てた。
「あ、この人、話すことができないんです。彼の質問も俺が答えるんで、それでいいですか?」
話さなければ分からないのだから、話をさせなければいい。
「相棒の名前は?」
「ティス」
とっさに出てきたのはヴェリガの弟の名前だ。
「ティスは、フードをなぜ脱がない?」
「顔を火傷してて、人に見られたくないからです。とても<ruby>醜<rp>《</rp><rt>みにく</rt><rp>》</rp></ruby>くて人には見せられません」<
「なるほどね。で、君達のミサの目的は?」
「長旅に疲れてね。休憩もかねて寄ろうと思ったのさ。まさかこんなに警備が厳重になっているとは思ってなかったけどな」
「次、相棒の身体検査をさせてもらう」
「なっ!?」
次はどんな質問が来るのかと、身構えていたら、違った。
ツェリアの身体検査を行うと言い出してきた。
見られてしまっては分かってしまう。―――身体検査だけはなんとしても阻止せねばならない。
「顔が醜いといったじゃないですか!そんな人に身体検査をするんですか!?」
「顔だけなんだろ?我ら兵士は口が堅い。そう簡単に口外しない。なに、ほんの少し体に刻印があるか調べるだけだ。別に問題はないだろ?ただの旅人なんだから」
ヴェリガはあせりながら、兵士に抗議をするも、軽くあしらわれた。
もう、何の言い訳も通用しない。何を言ってもあしらわれるだけだ。
ヴェリガがあせって思考回路をフル回転させるも、いい案は出てこず、その間に隣でずっと立っていた女性がツェリアの外套を掴み、フードごと取り払ってしまった。
ツェリアの長い髪、顔、体型すべてが露になる。
「!」
「女っ!男ではなかったのかっ!?」
男の兵士は驚き、女の人は外套を持ったまま目を見開いている。
その隙に、外套を奪い取り、ツェリアの手を取って、テントを出ると、テントの周りには兵士達が、大勢待機している。
隙間をどう縫って行ったって、抜け切ることは不可能に近い。
「そいつを捕まえろっ!」
テントの中から兵士の命令がとび、周囲の兵士達は、二人に剣を向け、一斉に襲い掛かってくる。
これでは、いくらヴェリガでも、追い払うことはできない。
ヴェリガは簡単に拘束されてしまい、その近くでツェリアも手を捕らわれ、体を地面に押し付けられる。
「足だ。足のどこかに刻印があるはずだ!探せ!」
「きゃあぁぁぁ!いやぁ、やめてっ」
ツェリアが叫ぶ中、兵士がツェリアの足を徐々に見ていき、太ももの正面、左足にある薔薇の印を見つけた。 捕らわれたツェリアは、ミサの外れにある砦の地下の牢にいた。
一緒に捕まったヴェリガはツェリアとは違う場所へ連れて行かれた。
同じ地下牢ではなくとも、砦までは同じ馬車だった。兵たちがツェリアを恐れて、2人を別々にしたのであろうが、あいにくツェリアには兵たちに対抗できるものは何も持っていない。
あるのは、この刻印だけ。
壁に持たれて思う相手は、考えてしまう相手は、一緒に捕まってしまった、ヴェリガの事。
「ヴェリガ……」
自分の母のように命の危険にだけはさらさせたくない。
母親と同じぐらい大切な存在の人。
死なせたく、ない。
ツェリアは膝を立て、そこに額をあてる。
暗い牢の中を見ていたくない。
何もないこの部屋を見ていると、泣きたくなってくる。
涙を流して嗚咽を殺して泣いても、状況が変わるわけでもないのに。そんなこと、分かっているのに。
手を伸ばし胸にしまってある2つの指輪を服の上から握り締めた。
これはツェリアにとってのお守り。
何が起きてもなくさないと誓った、あの日からの。
(お母さん。お父さん。お願い、ヴェリガを守って……お願い……)
ツェリアはすがるように、祈り続けた。
時間は戻り、二人が捕まった丁度その頃、ジェイスは屋敷を出て町の中をふらふらと歩いていた。
何処に行くでもなく、向かうべき場所もない。
こうやって、町をぶらつくことがジェイスは一番好きだ。
時には騒動に巻き込まれ、時には噂話を耳にする。
リロテに偶然立ち寄ったときも同じだ。
市場に行き、品物の品定めをしていると、突然の強風に煽られ、フードが落ちないように手でおさえた。そのとき、翻るスカートに見え隠れしながらも、はっきりと見てしまった。
少女の足に彫られた刻印を。
そのときの心境を思い出し、ジェイスはにやっと笑った。
祈り続けることに疲れたツェリアは眠りについていた。
その手には今だ、両親の結婚指輪が握られている。
その様子を牢の外から眺めているのは一人の少女。
少女は、ツェリアをじとっと見ていた。少女の手には鍵束が握られている。
鍵束の中から、一つの鍵を見つけ出すと、ツェリアが眠る牢の鍵穴へ差し込んだ。鍵が開いた音がする。
部屋へ入ると、ツェリアと思しき影の肩を掴みゆすった。