第98話「戦力」
一回戦を終えたチームのほとんどが、その日のニュースや新聞などのメディアに釘付けになっていた。
「明徳の茅場、鉄日の黒鉄は完封勝利。まあこんなのはいつも通りだから大丈夫だとして……」
――暗黒世代大活躍。このニュースに誰もが目を離せなくなっていた。
「たまたまかもしれないけど、確実に無視できない存在だと思うぜ俺は」
黒鉄はストレッチをしながら宮城に言った。
「当たり前じゃないですか。うちも木口とか泉中もいるし、そういうチームじゃないですか」
「けどよ、そのニュースになってるチームが明らかに違うのは、『暗黒世代の存在感』だ。俺らはなんやかんやで結局、俺が投げぬいて勝つ、四方が打つ、地村が返す、斑鳩が守備で良いプレイを見せる、って感じで、木口や泉中、ましてやお前も、確実に全国レベルのプレイができているのに霞んじまってる。でも名豊は違う。藤間が三振に取られた直後に、全員が繋いであの2年の代打の逆転ホームランを演出した。桐陽に至っては松下の好投を守備アシストするだけじゃなく、スリーベースヒットで突破口を開いた塚岸、強肩で盗塁を刺し、なおかつ住友の球を初球からスクイズ成功させて勝利を呼び込んだ村松。暗黒世代がゲームを引っ張ってやがった」
「その点で言えば、龍宮のエース4番も、暗黒世代か。彼もゲームを引っ張る存在と言えますね」
「だろ? 『暗黒世代が確実に戦力になる』を超えて、『暗黒世代無しで勝ちあがれない』チームが出てきてるんだよ。これは、夏……何なら秋ですらありえなかったことだぜ」
各チームが騒然とする中で行われた二回戦、さらに観客やほかチームたちの度肝を抜いた試合を演出したのは、龍宮高校VS花丸大宮のカードだった。
「……白銀世代、せいぜい俺の才能の糧になりやがれ!!」
鷲尾が投げる直球に、誰も対応できない花丸大宮打線。元々堅守から流れを徐々に引っ張っていくチームだったので、監督もチームメイトも誰も焦ってはいなかった。しかし、2回裏、打席にエースで4番の鷲尾が立つと、その様子はがらりと変わった。
(あれ、どの変化球を投げても打たれる気がする……やばいな)
花丸大宮のエース渡は鷲尾と目を合わせて思わず身震いした。そして、これが武者震いなのだと言い聞かせ、投げた初球のスライダー。
(福井のあのピッチャーのスライダーよかマシか)
鷲尾は平然と打ち返した。それは即座にスタンドに入り、ソロホームランとなる。続く5番鉛野にもライト方向に長打を打たれ、花丸大宮ベンチは、間違いなく焦っていた。
「あの4番と5番、暗黒世代なんじゃねえの?」
「4番って、ピッチャーじゃねえか。あのピッチャーすごくいい投手だけどまだ二年なのか?」
「……堅守が持ち味の渡を中心とした花丸大宮ナインも、ここまでか」
結局、鷲尾の球を打ってホームを踏んだものはおらず、0-3で、龍宮高校が完封勝利を果たした。
「ワシオすげえよお前!!」
「まあ、最後はお前が難しいセンターフライ取ってくれたってのもあるかもな」
鷲尾に右手を差し出され返す鉛野。
「次は知廉だね。そのまま順当にいけば明徳か名豊だ」
「勝てるといいな」
「勝つんだよ……」
二回戦も終了し、チームは残り8つとなった。
そして、準々決勝。この日は、クロ高の今宮、新田、田中、山口の4人が試合を見に来ていた。
「……見ておきたいのは、名豊VS明徳。大牧VS桐陽だ」
「とか言ってるけど、これ、龍宮VS知廉学園だぜ?」
今宮は田中に指摘され、取り乱すこともなくこういった。
「まあ、もう一つくらい見たってバチ当たらねえって」
(そういう問題なのかな)
山口は薄ら笑いを浮かべていた。新田はその横で冷静に分析していた。
「知廉のエース、知念瑛太は本格派。キャッチャーの堤も、完全な守備型だけど、そのリードと強肩、動きの俊敏さは白銀世代の中でもトップレベルに達してる。クリーンナップは全員打てるし……。龍宮はまあ、こないだ襲撃してきた暗黒世代トリオと、3番の白銀世代、岸田鳴が要注意だな」
新田はこういったが、蓋を開けてみれば一方的なゲームとなった。
「井崎ッ! 3打席連続三振ッ!」
クリーンナップで3番打者の井崎中が、龍宮高校エース鷲尾の球に1球も当てることができないまま3度目の打席を去った。
「……ふぅ……」
次の打者を見て大きく息を吐く鷲尾。相手は4番の大笛だ。
(こいつは俺を2度も抑えた……暗黒世代のくせに……やりやがるッ!!!)
ツーシームを使い、大笛のバットの芯をうまく外させた鷲尾。ショート黒田が上手く捌いてアウトにした。
「……おかしい、白銀世代のクリーンナップたちが、たかだか一人の暗黒世代にここまでやられるなんて!!?」
ベンチで騒ぐ知廉学園。しかし、それを嘲笑うかのように、鷲尾は次の打者である嶋一徹さえも三振に切って取ったのだった。
「……才能にひれ伏せ。現実に跪け。俺が最強だ」
9回表を凌ぎ切り、被安打3で投球を終えた鷲尾。既に2点取っていた龍宮高校の勝利となった。
明徳高校VS名豊高校の強豪対決も盛り上がっていた。明徳高校のエース茅場の変則投球の前に、名豊の4番藤間ですらきりきり舞いとなり、9回まで被安打0でやってきた。ここで、爽実戦で大活躍だった代打の丹具蓮が打席に立つが、持ち前の勝負強さも生かされず、センターフライに倒れたのだった。
逆に、明徳高校は、4番三好と5番知多の大量打点により、6点を入れ、6-0の大差で圧勝したのだった。
「クソッ……。この負けは悔しいな」
「これまでと全く種類の違うピッチャーだったってのもあるけど……」
名豊高校は、明徳のエース茅場を評価しつつ、グラウンドを去っていった。
桐陽高校VS大牧高校の試合が始まろうとしていた中、桐陽高校の暗黒世代である村松吉乃と塚岸球平が会話をしていた。
「……エース川島さんの攻略は骨が折れると思うけど、球平と松下さんしかうちには打てる人いそうもないから頼むよ」
「ああ。わかった」
「あとは……」
そういって大牧ベンチを見た瞬間、村松は絶句した。
「はっ、なんだあのデカいピッチャー」
2m近くあるであろう体躯の持ち主が、ピッチャー用グラブを持ちながらキャッチャーに投球練習を行っていた。
「ナイス田中!」
「いえ……」
少し気弱な様子こそ感じられたが、あんなに体の大きなピッチャーが繰り出すストレートは、角度もあり、そうそう打てるようなものでもないと感じられた。
「……神宮大会のときにはあんなのいなかったはずだが」
エースの松下も彼を凝視していた。
「大変っす先輩! あのデカい10番が今日の先発らしいです!!」
「……くっそマジかよ!!」
大牧高校10番を背負う男の名は田中優馬。神宮大会の時は背番号18だった二年生の暗黒世代であった。
「宗篤さん温存して大丈夫なんですか、監督」
「問題ないべ。どうせ優馬のことなんぞ誰も研究しとらん」
田中は不安そうに監督に聞いたが、監督はあっけらかんとした様子で田中をマウンドに送りだした。
こちらもまた一方的なゲームだった。無研究というのもあるが、大牧の先発田中が繰り出すストレートとスプリット、そして縦に割れるカーブを打てる者はなかなかおらず、逆に松下の速球は、白銀世代の栗原や春沢などがしっかりと研究していたために打たれ、3-1で大牧高校が桐陽高校を下したのだった。
「桐陽高校はちとやべえと思ったぜ。だって暗黒世代を戦力計算に入れてるチームだもんな」
今回投げなかったエースの川島が笑った。田中は苦笑いしている。
「……でも、相手もそういう戦力を積み上げていることをちゃんと調べておかない辺り、ザルなんだよ」
「なんだあの10番……2年だってか?」
「やっぱり……暗黒世代が台頭してきているな……」
今宮と田中は絶句した様子だ。
「今回、本当にちゃんと見に来て良かったよ。うちの2年生たちにも見せてやりたい試合がいっぱいだ」
新田は嬉しそうに笑っていた。
鉄日高校もしっかりと地力を出して勝ち上がり、残るは4校になった。龍宮高校、明徳高校、大牧高校、鉄日高校の4校だ。
春の甲子園大会は、早くも残り3戦となっていたのである。その中で、観客たちの脳裏に焼き付く試合のほとんどに暗黒世代が必ずいることを、熱狂している者たちはまだ、気づいてはいなかったのである――――




