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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
3.北信越大会
86/402

第86話「プレッシャー」

 最終回表、クロ高ベンチ前。絹田監督が円陣を組ませる。

「今宮、小林、田中……お前ら三人のバッティング次第で十分に逆転が可能だ。最終回……どんな形でもいいから出塁しろ。つなげ。強烈なスイングでプレッシャーをかけろ。鋭い打球で守備の隙を狙え」

「はい!」

大きな声で返事をする先頭打者の今宮。そのまま打席へと向かう。

(鋭い打球を単純に打っても、岩澤に捌かれたらそこまでだ。だったら……)

打席に立ち、バントの構えをする今宮。

(せ、セーフティ?)

クロ高ベンチや絹田までもが驚く。岩澤は思わずボールを投げる手首を強く返し、地面にストレートを叩きつけた。

「ボール!」

バント封じとして走るも、ボールは大島のミットの中に収まっている。

「焦るなよ、岩澤」

大島はなだめる。だが、胸中は穏やかではない。

(今宮っていえば……白銀世代の中でもトップクラスのバント職人。黄金世代と一緒に甲子園を経験してるやつじゃねえか……警戒しなきゃならねえだろうがよ)

次はカーブを投げさせる大島。もう一度バントの構えをする今宮。サードとファースト、そして投げた直後の岩澤が同時にホームに向かって走り出す。

「ふん!」

ボールがバットに当たった――今宮はバットを強く振っていた。

「ば、バスター!?」

岩澤は打球に食らいつくかのようにジャンプした。投げた直後のフィールディングだとは思えない反応の速さだった。しかし――

「弾いた!」

(くそっ!)

ピッチャーミットに当たって変な回転がかかった打球は、サード信楽を越えるかのように、その後ろへと落ちていく。今宮は猛ダッシュで、ベースに戻るファースト丸田よりも早くベースに到達しようとしていた。

(!!)

しかし、打球の落下際を見て目を見開いた。ショート芳賀山が、しっかりと打球をノーバウンドで拾いあげていた。

「あ、アウト!!」

審判もそのプレイに思わず判断をためらった。

「ぐっ……」

今宮は悔しそうに下唇をかみしめてベンチに戻る。二番打者の小林は、そんな今宮の打席を去る姿に、緊張を覚えた。

(今宮でも通用しなかったのかよ……)

芳賀山のスーパープレイが、清龍高校の勢いを乗せている反面、岩澤や芳賀山には、確実にプレッシャーを与えていた。

(バント職人の今宮がバスターとか読めるかよ……芳賀山がいなかったらやばかったぞ畜生)

(これがクロ高か……勝つ機会を虎視眈々と窺う感じがいじらしいぜ)


 二番打者の小林が打席に立つ。初球のシンカー、二球目のストレートをボールにする岩澤。

(やる気があるとはいえ、疲労は確実にある。付け入るスキはある!)

小林は、三球目のスライダーをしっかりと打ち返す。サード信楽がショートバウンドを拾い上げる。

(やった!)

小林はそれでもあきらめずに走る。信楽は、そんな彼を目視しつつ送球した。丸田は体を目いっぱい伸ばす。

(捕る!)

小林が駆け抜ける。審判の判定は――

「セーフ! セーフ!!」

水平に伸びる腕。丸田は気づく。自分の左かかとが浮いていることに。

「……し、しまった……」

言葉を失う丸田の後ろで、嬉しそうな小林。

(やっと……やっと出塁できた……)



 ランナーを背負った岩澤。1アウト1塁の場面で、打席には三番打者の田中遊。本日3安打の巧打者だ。

(やってやるさ……俺は……俺は……3番打者なんだよ!!)

初球のストレートをばっちり真ん中低めに決める岩澤。ストライク。しかし、直後に感じた圧力に、思わず仰け反る。

(田中遊……か)

二球目のカーブはボール。1ストライク1ボールとなる。

「田中! 長打は狙わなくていい! 低く鋭いの!!」

「打ってください!!」

「小林に続けえ!!」

クロ高ベンチはこれまでにないくらい大声で声援を送る。

(思い出せ……この秋のトレーニングを。悔しい思いをしたことを……)

田中は思い返す。鉄日戦、ホームに向かう途中で黒鉄に差されたことを。その日の悔しさをバネに、長打が打てる選手になりたくて、必死で筋トレをしたことを。

(俺なら……俺なら打てるんだッ!)

外に逃げるシュートがぎりぎり外に入ってストライクとなる。岩澤は大島からの返球を受け取ると、ランナー小林を目で牽制する。そして視線を前に戻して大きく息を吐いた。

(こういう場面は大好きなんだよなッ!)

岩澤はストレートをインいっぱいに決める。田中は全力でバットを振りぬいた。

「!」

大島はしっかりボールをキャッチした。そして、瞬間前を見て目を見開く。セカンド久我山が大声でボールを呼んでいたのがわかった。

(クソッ!)

大島がセカンドへ送球する。それよりも早く、小林がスライディングして二塁ベースに足を入れた。

「セーフ!」

立ち上がる小林。田中は悔しそうな顔をしながらも、どこか手ごたえを感じた様子でキャッチャー大島に言った。

「次のバッターはもっと警戒が必要だぜ?」

大島も固唾を呑む。それは岩澤も同じだった。小林の盗塁により、得点圏にランナーを置いたクロ高チーム。ここで打席には4番大滝。

(このバッターの得点圏打率は異常だ……。田中の目的はあわよくばエンドラン……チャンスの場面を作って俺たちにプレッシャーをかけることだったのか?)

大島の分析は正直なところ、深読みではあったが、実際に置かれている状況を言えば、一発で逆転が有り得る場面。1ヒットで同点に追いつかれる場面である。

(打たれたくはないな……)

大島は俯く。リードを練る。どこなら打たれないかを考える。しかし、結局いい答えは見つからない。

(次の回岩澤から……芳賀山や丸田にも回る。バタバタせずにどっしり構えよう)

半ば開き直るかのように出した答えは、アウトハイへのカーブ。

(お前のコントロールなら、ここに初っ端から決められるだろ?)

大島のサインに、岩澤は今までにないくらいに笑った。

(ちょっとでもコントロールミスったらぱかーんだぜ?)

大島が手を動かして外野を扇動する。荒濱、宇井、丹生は後退し、長打ケアをする。

(シングルオッケーってか……この野郎舐めやがって……)

大滝は不敵に笑った。ベンチの古堂も気に入らないと言った表情だ。

(まるで俺から打つ気満々じゃねえか……)

岩澤の右腕から投げられたカーブは大きく弧を描き、大滝のバットをかすめることなく大島のミットに収まった。

(9回まで投げてこのキレ……すごい、岩澤亜音、すごすぎる……)


 疲れを感じさせない岩澤は二球目、ストレートを全力投球する。

(こいつはストレートを本気で振ってくる!)

大島の練られたリードの中で、岩澤の本気のストレート。そして大滝のフルスイング。外角低めの球だ。

(もらった!)

大滝は長打を確信した顔だった。しかし、対する大島も、何かを確信した顔をしていた。

高く飛んでいく打球。徐々に後退するセンター。バックネットに右手がついた。

(ここを越えたら逆転負け……でも、絶対に大島さんと岩澤さんの力で、センターフライにしてるはずなんだよ!)

落ちてくる打球。走りながら大滝は願う。

(あと一伸び……あと……1mでもいい……せめてバックネットに当たれ!!)

(俺は捕る!)

荒濱はジャンプした。バックネット直撃と思われた打球は荒濱のミットに当たる。

(くっ!)

前に弾いた球が緩く落ちていく。

(拾える!!)

そのまま前に滑り込むように走り出した。ボールはしっかりミットの中に入っている。

「アウト!!」

(や、やった……)

その審判の声は、走っている大滝にとっては、敗北宣告だった。

(んな……)

コース上で崩れる小林。全力疾走の疲労もあるが、それ以上に、周囲の勝利のムードに充てられていた。完投を果たした岩澤の元に集う内野陣。大島が顔のプロテクターを外してキャッチャーミットで胸を叩く。

「ありがとう岩澤」

「こっちのセリフだぜ」

互いをたたえ合うバッテリーの間に入ってくる内野陣。

「最高だぜ岩澤!」とサード信楽。

「……ヒヤヒヤさせんなよな!」とセカンド久我山。

「ふぅ……」と一息つかせて笑顔になるファースト丸田。

「荒濱もナイスだったよなあ」とショート芳賀山。

外野手たちも走って駆け寄ってくる。一際嬉しそうな顔をしているセンター荒濱に、宇井と丹生がそれぞれ両脇からやってきて讃えていた。



 沈む雰囲気のクロ高ベンチ。絹田監督もかける言葉がない。

(誰もが全力を注いでいた。勝つに相当するヒット数、点数も稼いだはずだった。でも届かなったか……)

今宮がベンチから出て、ランナー小林と大滝に声をかける。

「仕方ねえよ。振り返りは後。整列だ……」

全員が整列する。途中降板して満足のいかなかった新田。丸田をブロックできなかった金条。勝ち越しランナーを刺すことができなかった伊奈。最後の打席でアウトになってしまった今宮。センターフライに倒れた大滝。三振になってしまった田中。ヒットを打てなかった佐々木。打点を稼げなかった山口。最後に失策出塁するも還れなかった小林。復調できず四球を連発してしまった鷹戸。勝ち越し点を与えてしまった古堂。それぞれがそれぞれに悔しい部分を抱いていた。

「俺たちには夏もある……全国のつええ奴らはやっぱり強いけど、それでも勝てるよう練習するしかねえんだよ――」

今宮の言葉に、全員が強く頷いた。


黒光高校 5-6 清龍高校

清龍高校ベスト4進出。黒光高校二回戦敗退――



「二回戦突破! クロ高強かったなあ……」

控室に戻ってきた清龍高校の面々。巽屋監督が全員を集めてミーティングをする。

「今回の勝因は……芳賀山や丸田、岩澤が上手くチャンスや貯金を作ってくれたところから、下位打線が粘り強く綻びを叩き続けたからだろう。強敵だったが、チーム全体でつかんだ勝利だ。次の新見台との試合も全力を注ぐぞ」

「はい!」

(やっぱり仙さんが上手く今宮さんの打球を捌いた時点で、大きく流れをかっさらっていった感があったなあ。岩澤さんのフィールディングも相変わらず完璧だったし、やっぱりうちの白銀世代は凄い……)

マネージャーの平塚も笑う。


 ミーティングが終わって控室を出たところで、クロ高と出会う岩澤ら。

「お疲れ様。今日はありがとうな」

岩澤の言葉に反応する新田と古堂。

「俺らはこれで夏にかけるしか無くなっちまった。まあ、頑張ってくれや」

「当たり前だぜ。新見台も鉄日も倒して、お前らが強かったってこと証明してきてやんよ」

岩澤が満面の笑みを浮かべた。

「あ、あと……コドーだっけ? 君もいいポテンシャル持ってるから、頑張れよ」

「は、はい!!」

清龍高校エースの岩澤に思ってもないことを言われ、思わず大声で答えてしまう古堂。


 黒光高校――敗退こそしたものの、この敗北を踏まえ、必ず強くなる。そう感じさせるような顔つきの彼らに、岩澤らは笑った。

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