第73話「諏訪涼成高校」
夕方6時。宿の近くのコンビニへと向かうクロ高の選手たち。
「コドー、コンビニの場所ちゃんと調べてきたの?」
「え? 探せば見つかるでしょ」
古堂の言葉に、金条は呆れる。
「まったく……どうするよ?」
買い出しに来たのは、一年の古堂、大滝、金条、鷹戸、伊奈、そしてマネージャーの小泉の8人である。
「えっと……近くにディスカウントショップがあるから、そこで買ってくるね。安くつくし」
一人去っていく小泉。
「さすがに一人で歩かせるのはまずいよな……なっ、大滝」
「え?」
「あっ! 俺も行く!!」
金条が行こうとするのを伊奈が引き止める。
「まあ待てや……ここはひとつ、面白いもんみたいだろ? よし、金条、鷹戸! 俺たちは行くぞ!」
「え!? コドーは!?」
「あいつはいいの。同行してもな……」
不敵に笑う伊奈を見て、鷹戸はわけがわからず一人不機嫌そうにしているのだった。
「んで、俺たちどこに行くの?」
「あ……予定通りコンビニ行くか」
大滝、古堂、小泉の三人は、ディスカウントショップへと向かって歩いていた。
「んでさ、カットボール投げたらさ、握り見て返田がスライダーと勘違いしてさ、腹に俺のカットボール直撃したんだぜ。次の日さあ……返田の奴腹壊してさ、俺のせいだとか言ってくるんだよ」
古堂が一人、半歩後ろからわいわい話している。大滝も小泉も、相槌を打ちながら、どことなく気まずい雰囲気で歩いていた。
「あはは……(こ、コドーくんいてよかったぁ……大滝くんしゃべらないし……2人だと絶対に間が持たないところだったよ)」
「なんだその面白くない話はよー」
大滝は、平然とした様子で古堂を見ていたが、前を向いて歩いていなかったため、電柱に衝突した。
「ぐあっ……」
「真司!」
「大滝くん!?」
古堂が驚く。すぐに小泉が寄ってきて、大滝のぶつけた額をさする。
「もー、明日試合なんだよ……いっぱい点取ってくれないと困るのに、ケガしたら大変なことになるんだから」
「お、おう……」
大滝は小泉の顔が近くなっていることもあって顔を赤くする。小泉もしばらくして、その距離に気付き、小泉ははっとして顔を仰け反らせた。
(ち、近かった……)
古堂も、足りない頭で2人の距離感を感じ取り、それ以降はさらに半歩下がった位置から下を向きながら歩いていた。
そんな三人の目の前に、明らかに派手な格好の不良の高校生が4名。黒地に、金のストライプが入ったジャージを着ており、頭も、プールに浸かりまくった後に見える色だったり、ジャージのストライプと同じ色だったり――背中には『SUWARYOSEI BASEBOLL TEAM』と書かれていた。
「おっ……カワイイ娘みっけ~!」
「キミ名前なんて言うの~?」
2人の不良の軽い口調に、大滝と古堂は警戒心を走らせる。それ以上に警戒しているのは、声をかけたられた小泉本人。くってかかる古堂。
「……お前……うちの野球部の最強才色兼備のマネージャー、小泉彩ちゃんに手を出したらどうなるか、わかってるんだろうな……」
「そうかぁ……サヤカちゃんねえ……」
(ばらしてどうするコドー……)(こ、コドーくん……)
大滝も小泉もあきれた様子で苦笑いした。そんな中、口を動かし続ける古堂。
「……とまあ、みなさん諏訪涼成の野球部ですよね……明日試合する者同士、ここは仲良くしましょうよ!! 俺は黒光高校野球部1年、背番号18のピッチャー、古堂黎樹っす! こいつは大滝真司!」
「あ、あ……ども」
頭を下げた大滝に対し、諏訪涼成の者たちも困惑した様子だった。
「お、俺は……藤正彦」
「お、俺は……敷島射矢」
「お、俺は……飯島紀明」
「お、俺は……簔口教麻、暇してたからよ……わりぃ」
「おお!」「みなさんレギュラー陣……」
古堂が嬉しそうにしているので、諏訪涼成の者たちもつられて笑う。そのまま、古堂はその4人を連れてどこかへ行ってしまった。
「あ、コドー……」
「……ふふっ。すごいねコドーくん。誰とでも仲良くできるんだもん」
「だな……(頭のレベルが一緒だからかな……)」
「……あ、大滝くん今、コドーくんのことバカにしてるでしょ」
「え?」
2人は急に打ち解けた様子で、店へと向かっていった。
「あの二人……もしかして付き合ってんの?」
諏訪涼成の飯島紀明が、古堂に言う。
「付き合う手前……かな」
涙目でつぶやく古堂。
「うまくやれよ……大滝……」
「コドー……」「お前……」「熱いハート持ってるじゃねえか!!」
大笑いしながらどこかへ向かう5人。こちらも打ち解けた様子だった。
伊奈と鷹戸と金条は、三人でコンビニへ向かっていた。すれ違い様に出会ったのは、4人の不良――古堂らが遭遇した者たちと同じ、諏訪涼成高校野球部。
「おっ……お前ら何ものやあ?」
突然話しかけた黒髪ソフトモヒカンの男。絡まれるのも無理はない。薄茶髪のオールバックにツーブロックを入れた伊奈と、常に目前を睨みつけている鷹戸がいるのだ。間で肩身狭そうに立っていた金条は戸惑う。
(おいおい……こいつは参ったぞ)
そんな金条を横目に、伊奈が口を開いた。
「俺らクロ高の野球部、伊奈聖也っす」
目の前の、背の高い男は納得した様子を見せた。
「ああ……一回戦で当たる……おっと……紹介が遅れた。俺は阪本理糸」
「ああ、ども」
「俺は木庭だよーん」
「俺は山中」
「……高町で~す」
(ああ、知ってる……ありがとう小泉ちゃん)
金条は目をつむって暗くなり始めている空へと顔を向けた。
「あっ! リート!!」
「おっ、シキシマ……どうした? そこの……」
諏訪涼成野球部の8人がそろった。そして、敷島射矢、飯島紀明、簔口教麻、藤正彦と共に現れたのは古堂黎樹。伊奈らは驚いている。
「うげっ!?」
「な、なんでコドー!?」
(……バカだろ)
「あっ! 伊奈たちも打ち解けたのか!!」
古堂が嬉しそうに叫ぶ。
(いや、打ち解けてねえよ!! つかなんでお前一緒にいるんだよ!!)
「突っ込みが追いつかねえ」
金条は苦笑いしている。
「……面白いやつらだ」
阪本がつぶやくところ、背後から一人の男が現れた。
「帰ってくるの遅いぞお前ら……また他校の奴らに絡んでたんじゃ――」
その男は、古堂らを見て絶句した。そしてすぐに頭を下げた。
「すみません! うちのバカ共がご迷惑を……」
「いやいや! そんな、何も悪いことされてませんし」
金条がすぐさま対応に当たる。
「あっ……俺は諏訪涼成野球部のキャプテン、法寺です」
「あっ……俺ら黒光高校の野球部の一年ですので……」
「そうか……明日はよろしくな」
「はい!(ヤンキー校のキャプテンはいい人で苦労人……さすがすごい選手だよ法寺さん)」
コンビニから帰ってきた古堂ら。大部屋にいる者たちが一気にコンビニの袋に寄ってくる。
「サンキュー」
「誰だよプリン18コも買った奴!」
「あれ? 大滝と小泉ちゃんは?」
「ディスカウントショップ行ってます! 安く済むからって!」
古堂が叫ぶ。
「あの野郎小泉ちゃんと二人きりか……」
林里は悔しそうにつぶやいた。そのとき、大滝も戻ってきた。
「戻りました! 遅くなってすいません!!」
「……! 大滝! 小泉ちゃんと二人きりどうだった?」
「えっ……二人きりって、何もないですよ!?」
そして、次の日の朝、宿を出発して、球場へと向かう。
「っしゃ、行くぞ!!」
「しゃおら!!」
全員が叫んだ。試合まで、残り3時間だ。




