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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
3.北信越大会
72/402

第72話「県外」

 北信越大会まで残すところ一週間。今日は、秋大会石川県ベスト4の、明峰高校との練習試合。

「黒光って……夏甲子園出てたよね?」

「俺らとは比べ物にならないんじゃないの?」

「……いや、甲子園経験者は、セカンドの今宮、ショートの田中、センターの山口。そして、エースの新田だけだ。問題ない」

「さすが荒木……頼りになるぅ」

石川県にある、私立明峰高校、このチームを支えるのは、4番サードの荒木宗也あらき そうや。このチーム唯一の、白銀世代に数えられる男である。

「それよりも寧ろ……甲子園を経験していない一年生――4番の大滝に、ピッチャーの鷹戸、古堂……。面白いのがゴロゴロいやがる」

「暗黒世代だろ……そこまでびびるこたないって……」

鋭い眼をチームメイトに向けた荒木。

「……足元掬われるぞ。俺らが清龍に負けたのだって……代打の一年に打たれたからじゃないか」

「……」

「夏勝つために、意識を変えなければならない。この試合で勝ち、夏に勢いをつけるぞ!」

「っしゃ!」

荒木宗也……キャプテンの一声で、締まった明峰ナイン。


 対するクロ高も、練習試合の準備を終え、守備につく。

「今日は遠い所わざわざありがとうございます」

絹田監督が頭を下げるのは、河村靖国かわむら やすくに監督。朗らかな声色をした中年男だ。

「いや、夏甲子園出て、秋も鉄日といい試合をしたと聞きました。胸をかりる思いです」

「ありがとうございます」


 明峰高校の上位打線――いずれも新田の変化球の前に、バットに当てることすらできず、三者連続で三振に倒れる。

「(新田静……やはりその変化球は一級品。どうしたって攻略には時間がかかる。)次の回は荒木からか。荒木、当てられんでいい。最初の打席くらい、しっかり見ていけ」

「はい」


 続くクロ高の打撃。右腕エースの今井川いまいがわから、今宮のヒット、小林の送りバントでチャンスを作り、打席には初のクリーンナップである、3番ショートの田中。

「お願いします!」

(こいつ秋は一番バッターって聞いてたんだけどなあ)

エース今井川の137kmの直球を、田中は打ち返す。いきなりセンター越えのツーベースヒットだ。

「よっしゃ初回先制! 続け大滝ぃ!!」

(すっげえ……打順変って、役割も変わるのに、初打席からもう結果残してる……)

大滝は田中を見て笑いながら打席に立つ。そして……

(ストライクゾーンに入る内角のフォークで様子見!)

初球、いきなり厳しいところに落ちてくるフォーク。しかし、大滝はこれを見逃さない。

(内角低め……これは流すと詰まらせてしまう。だったら力強くひっぱってスイング!)

金属音が鳴り響くとともに、打球がサード荒木の頭上を越える。

(くっ……! こいつ……)

大滝のタイムリーツーベース、そして山口のヒットと伊奈の犠牲フライで、初回3点をもぎ取った。


「走れる三番打者ってうぜえな……」

「何してくるかわからん」

「……安打力のある山口が5番に下がって、大滝敬遠のリスクも高まった。中位打線も、そこそこしっかり打ちやがる……」

(クロ高……つええ)


 結局、新田からは、4番荒木以外安打を奪えなかった明峰高校。7回表ツーアウトランナー無しの場面で荒木がソロホームランを放ち、一点を返すが、それまでの間に、クロ高は既に5点を挙げていた。


 リリーフで伊東が登板し、8回を無失点でしのぐ。そして、9回には抑えの古堂が登板した。

「左右ときて……もう一度左か……横断歩道かよ……」

「それは逆だ」


 古堂は、1番バッターの先頭打者を、ストレート、シュートの二球で追い込み、最後、カットボールでゴロに仕留めてアウトにする。

「……三振に執着心があったように思うコドーが……カットボールを覚えてゴロを取るようになったか」

「……でも、投げ方にバリエーションが生まれて、さらなる武器につながるはず……。それも見越して閑谷さんは、あいつにカットボールを教えたんだろうな」

伊東と新田は、後輩投手を見ながら笑う。


 続く2番打者を、スローカーブで三振にし、迎える3番打者。古堂の失投によりヒットを打たれ、続く4番荒木を迎える。

(唯一全打席ヒット。唯一の打点。地村さんと坂東さんを足して2で割ったようなバッターだな)

古堂は、初球のカットボールで様子見する。見逃してストライク。

(コースへの投げ分けは徹底して訓練した。新田さんほどじゃないけど、そうそう甘い所には投げないよコドーは……)

金条は不敵に笑い、2球目、外角低めにスローカーブを要求。球速差に打ち崩し、ファウルとなる荒木宗也。

(……やはり……今年の1年、暗黒世代だからと言って侮るのは間違えていたのかも……しれないな)

3球目、古堂のストレートが、内角低めにばっちり決まり、荒木を三振に仕留めた。


 明峰高校 1-5 黒光高校。練習試合は、クロ高が制したのだった。




 そして、開幕した北信越大会。早速会場入りしたクロ高ナインたち。

「……緊張しますね」

大滝が大きく息を吐く。開催地は金沢――。黒光高校からバスで長時間揺られ、ここまで来た。

「初日から試合だもんなあ……無理もねえよ。対戦相手の諏訪涼成のことに関しては、しっかり調べたんだしよ」

「そうですね」

田中の言葉に、少し安心して朗らかな表情を見せた。

(1週間前の練習試合で、勝ったことが俺たちをいい意味でポジティブにしてくれている。投手陣も、調子は良さそうだし……何より……)

今宮の視線の先の鷹戸遥斗。右肩を強く回している。

「お前……肩回しすぎて壊すなよ」

「……古堂じゃないので」

「ちょっと待て! 俺肩回して壊したことない!!」

一年生投手2人のやり取りに少しだけ笑う今宮。鷹戸も復調し、スタミナ面での不安は少々残るが、登板は可能。しかも、伊東も古堂も新田も絶好調故に、継投作戦で行っても問題はなさそうだ。


 選手宣誓は、昨年の北信越大会で優勝した鉄日高校のキャプテン、黒鉄大哉。開会式を終えたところで、黒鉄大哉が話しかけてくる。

「よぉ静ちゃん」

「……」

無言で黒鉄を冷たく見ている新田。

「……今回は戦えそうもないねえ。初戦から諏訪涼成、勝っても清龍、そして控えるは新潟1位の新見台。勝ったとしても……神宮大会は、決勝戦で俺たちが構える限り確実に無理だろうけどな!」

「何おう! 黒鉄だかシロガネだか知らねえが、決勝戦で首洗って待ってろ! せいぜいやられねえことだな!」

古堂が叫んで黒鉄を煽る。

「……バカだぞ古堂」

鷹戸が冷静に古堂の背中に言う。

「まあいいや……それはこっちのセリフ……ってね!」

黒鉄が笑って踵を返していく。

「あっ! 黒鉄!! イザナにもよろしくお伝えください!!」

古堂が叫んで両手を振る。

「(あー……あれが例の……宮城の言ってたライバル投手ってやつか……)……つかお前! 黒鉄『さん』つけろ! 黒鉄さん!!」

黒鉄ががやがや遠くから叫ぶのを背後に、古堂たちも去っていくのだった。




 試合前日――宿の多目的ホールを借り、ミーティングを行う黒光高校野球部。スタメン9人に加え、ベンチ入りメンバーの9人。そして、記録員として同じくベンチに座るマネージャーの小泉彩。

「諏訪涼成高校は、割と新しい公立高校ですが、素行不良な生徒が多く、いわゆるヤンキー校です。野球部が強くなったのは、去年から。今年の夏、今の1年生たちが入った年に、活動してすらいなかった野球部は、途端に実力を伸ばし、県ベスト4に。部員はたった13人で、監督も素人だと聞きます。それでも、一瞬の爆発力は……正直言って全国トップレベル――」

小泉の言葉に、聞いていた者たちが絶句した。

「長野県1位の、諏訪涼成VS長野県2位の、苅澤高校との試合が記録されたTVの試合です」

小泉がDVDを起動し、旅館のテレビにつなげる。早速映るのは、諏訪涼成高校のエース、背番号1、木庭来彦きば くるひこだ。

「調べた限りでは、1年生にしてエース。右の軟肩投手で、ムービングファストボールを使ってきます。おそらく、彼の加入が野球部再開の決め手になったんじゃないでしょうかね? 器用な投手で、スライダー、スプリット、カーブもわずかに投げてます。ランナー出すと著しく集中力を欠きますが、1回戦から決勝戦の延長12回まで、たった一人で投げぬいてます」

「確かこの試合って、7-8のハイスコアゲームだったよな? 相当メンタルつええぞ」

「はい……ストレートは130満たないくらい。最速は140だと言ってましたね」

「……なるほど。右のコドーって感じだな」

「どういうことですか!!?」

ニブい体力馬鹿ってことだろ」

「ぐぬぬ……否定できない自分が悔しい……」


「7点入れられても替えないってことは、監督は本当に素人だろうし、チーム全体も相当このエースを信頼している。もしくは、控えのピッチャーがいないとかね」

キャッチャーの金条は言った。すぐさま伊奈が反論する。

「でもよ……8点入れる打撃力も大概じゃねえか?」

「あっ、それについて……今から説明するよ」

小泉がノートを開いて、ビデオの早送りボタンを押す。

「打順ごとに紹介していったほうがいいね。まずは1番ショート、山中究一やまなか きゅういちさん。スワ高ナインの起爆剤で、とにかく走ります」

「……ふむ。素人臭さがあるが、典型的な猿渡タイプだな」

田中が言った。

「はい、ちなみに、守備を中心に鍛えたのか、守備だけは一人前に評価されてますね」

(小泉ちゃんは一体こんな情報をどこから仕入れてるんだろう)

古堂の疑問はさておいて、小泉は話を続ける。

「2番セカンド、飯島紀明いいじま のりあきさん。こちらも、守備とバントを鍛えた節が所々に見受けられますね」

小泉の言葉に、今宮はマジマジとビデオを見つめている。

「……(こいつら……今年野球始めたばっかじゃねえのか? 髪の毛だってどう見ても高校球児のそれじゃねえ)」

金髪に、片耳ピアスまで見受けられる。眉毛は剃って無くなっている。そのせいか、厳しい判定はすべてアウトを取られている印象もある。

「続いて3番ファースト、阪本理糸さかもと りいとさんです。身長191cmの体格から放たれるアーチはすごいですね」

「バッティングに素人臭さはないし、経験者かな……」

「でも、送球とか、盗塁の指示出しはヘマしてるイメージですね」

「未経験者でも……数か月、バッティングにのみ専念していれば少々様にはなる。夏の試合と見比べてみろ。夏はただの数合わせ。しかし、大きく成長している」

絹田監督の言葉に、全員大きくうなずく。

「……素人だと思わないほうが良いですね。この1か月で大きく成長している可能性だってあります。それに、県1位で勢いがありますし。そして……キャプテンで、4番で……投手、そして内野をまとめるキャッチャー、法寺覇月ほうじ はづき。長野県の白銀世代。彼のワンマンチームと言っても過言ではありません。それくらいに存在感の大きな選手です」

「こいつが1番警戒しなきゃいけないなあ」

金条が頭を抱える。素人臭さも、どこか拙い部分も、一切ない。それどころか、一つ一つのワンプレイに、一流の風格すら漂わせている。

「打率は夏、秋合わせても7割5分。恐ろしいや」

「こんな選手が近くにいたら、素人集団が伸びているのも頷ける」

山口と今宮も、諏訪涼成の4番、法寺から漂う風格を感じ取っていた。


 小泉の説明はこのあとも続く。5番ライト、高町浩志たかまち こうじ。バランスのとれた外野手で、色々と技術もある。6番レフト、簔口教麻みのぐち きょうま。高町の方がバランスの良いアベレージヒッターなのに対し、簔口は内角に強い。

「……2人とも、試合ごとにバッティングが目覚ましく成長しています。おそらく、明日はもっと凄いバッターになっている可能性がありますよね。続く7番サードの一年生、藤正彦……。彼の入部も大きいでしょうね……」


 続く8番、敷島射矢しきしま いるや

「名前の通り、矢のようなレーザービームをしてきます。制球力もあるので……バックホームの際には警戒が必要だと思います」

小泉の説明に闘志を燃やしているのは、佐々木隆。

「多分、肩の強さだけ見込まれた奴だろ……。中学からやってきた身としては……やっぱ負けたくないですよね……」

「……とまあ……こんなところです。代打で出てくる選手は、今のところいませんが……それでも十分警戒が必要かと思いますよ」

「ご苦労だった、小泉……」

「はい!」

「よっ! うちの紅一点!」「さすが小泉ちゃん!」「最高だぜ!」「まさに才色兼備!」

(え……何この大学ラグビー部の新入生歓迎コンパみたいなノリ……)

こうしてミーティングを終えたクロ高ナイン。

「コンビニあったっけ?」「レッドブル買いに行こうぜ」

「スポーツドリンク切らしてる人いたら買ってきますけど!?」

「あ、んじゃお願いしようかな」


 試合まで――残り15時間。

ムービングファストボール……肩が柔らかい投手に現れやすい、ストレートの握りを少し変えることで、ボールが手元で微妙な変化をする変化球のこと。芯を外すことがある。

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