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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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64/408

第64話「念願」

 初球――高速シュート。打ちに切り込む球を打ち損じる。

(うっ……嘘だろ……)

一塁線ギリギリを転がる球。ファースト地村が駆け寄るが――

「ファール!」

審判の声。打球は、拾われる前に一塁線を切れた。

(あ、あぶねえ……)

(さすがに今の後にこれは振れないよな?)

次に黒鉄が投げたのは、外いっぱいのストレート。ノビに付け加え、エリアの横幅を余すことなく活用する投球にきっと手が出ない。内角を打ち損じていることもあり、外角に手が出しづらい状況でもある。しかし――

「!」

黒鉄は目を見開いた。伊奈はフルスイングで黒鉄のストレートを狙った。

「ストライク!」

結果は空振りだったが、それは十分に鉄日バッテリーを驚かせうるスイングだった。

(う、嘘だろ……タイミング合わせてきたか……)

キャッチャー迫田も少し動揺している。その動揺を察したかのように、黒鉄は笑った。

(なあに……次サークルチェンジでトドメ刺しておけば問題ない。外ギリギリ入る奴で行くぞ)

次は黒鉄からサインを送り、3球目のサークルチェンジを投げた。完全に仕留めにかかっている。しかし――

(……ボール!)

伊奈は見逃した。キャッチャーミットが鳴る。

「ボール!」

審判の声。迫田は歯を食い縛る。

(い、今のは取って欲しかった審判……。にしても……)

迫田は頭上を見上げ、伊奈の表情をしっかりと見ている。

(よく見逃したなこいつ……)

続く4球目。黒鉄が投げたのは高速スライダー。外に逃げる球で完全に仕留めにかかった。しかし――

「だりゃあ!」

伊奈は流し打ち方向にボールを流した。外に逃げていく球が、そのまま一塁側へと飛んでいく。

「地村!」

黒鉄の叫び声にファースト地村が後退するが、打球はあと少し間に合わず地面に跳ねる。

「くっ!」

そのままホームに還る今宮。伊奈も一塁ベースに飛び込む。ベースカバーに入った黒鉄と少し接触するが――

「セーフ!」

結果はセーフ。伊奈は、7回にとうとうタイムリーヒット――打点を挙げた。

「……」

クロ高ベンチは、あまりに目まぐるしく起こった出来事に、数秒間沈黙している。

「あ……やった! やったぞ伊奈!」

「……伊奈くんやったよ!」

スタンドから小豆の叫び声。隣で騒ぐ小泉。それに釣られて大歓声を挙げたクロ高スタンドの様子を見て、ベンチも同様に、今置かれている状態を知る。

「……やったぞ伊奈!」

「うおおお!!」

「ナイスバッチ!!」

クロ高全員がその打点に熱狂した。当人の伊奈は、あまりの歓声に、我を忘れ、ぼんやりとしていた。

(あれ……俺、打ったのか……。そっか……打点、挙げたんだな……)

ベンチにいた大滝らも、その手応えに大きくガッツポーズをした。

(お前を信じて……良かった)



 7回にきて、連打からの送りバント。そして流し打ちによるタイムリー。2番から5番にかけての繋ぐバッティングによる、念願の1点。タイムを取る乾監督。伝令である、背番号10の一年生右腕、宮城臨を送った。

「黒鉄さん、これがクロ高の繋ぐバッティングです。乗せるとハッ高戦のときみたくズルズルと点を取られますから、ここはいっそゲッツーでも取って仕留めちゃってくださいとのことです」

「……おっけー(監督も俺の扱いわかってきてるな……)」

黒鉄は軽く笑う。


 打席に立つ金条。二打席連続安打を放っている伊奈の後続というだけでプレッシャーはかかるが、それ以上に彼の中に『打ちたい』という心情があった。

(打ちたい……続きたい……ここまで好投してくれた新田さんのために、これから投げる鷹戸のために……ここまで繋いでくれた先輩や大滝や伊奈たちのために……)

初球ストレートを見逃す金条。徐々に目は慣れてきた。これなら行ける……と彼なりに思っていた。しかし――

(2球目は内角にサークルチェンジ。打ち頃の球で誘いましょう)

迫田のサインに黒鉄も頷き、2球目のサークルチェンジを投げた。

(あっ……内角に遅い球……。これなら!)

打ち返す金条。しかし、予想以上に内角に沈む球を上手く打ち返せず、黒鉄の右手側をにわかに跳ねていく。

(まずい……!)

打球が前に飛ぶと同時に走り出していた山口。ショートゴロに捌かれたらどちらにせよゲッツーになると思ったからだ。伊奈も、金条も、それぞれ全力で駆け抜ける。しかし――

「ふっ!」

少し体を右にずらし、右手の素手で打球を掴んだ黒鉄。そのまままっすぐホームにて構えるキャッチャー迫田に送球。3塁ランナー山口をタッチアウトにした。そして――

「地村さん!」

キャッチャー迫田の送球。その強肩ぶりを遺憾なく発揮し、打ったランナーである金条を一塁ベース上でアウトにした。


「げ、ゲッツー!!」

実況の声。

「ピッチャー黒鉄、素手で打球を捌く! キャッチャー迫田の送球もお見事! 7回にて、鉄日高校先発黒鉄、今大会始めての失点を許すも、気迫あふれる守備の連携によって後続を完全にシャットアウト!」

マウンドを降りた黒鉄に話しかけるキャッチャー迫田。

「す、すいません先輩! もっとちゃんとリードするべきでした!」

「問題ねえって、次のバッターの2球目の内角サーチェンのサイン、なかなかいいんじゃないの?」

「あ、ありがとうございます!」

一気に表情が明るくなる彼の顔を見て、単純なやつだな……と黒鉄は半ば呆れながらブルペンに戻った。



 そして来る8回。マウンドに登る鷹戸。先頭打者の四方に対し、初球、2球目と連続フォーシームで追い込み、3球目のスプリットを打たせてライトフライに倒す。

「……」

無言で息を吐く鷹戸。先頭打者を楽々捌いてもその投球は一切緩まない。二人目の本田を同様の配球で三振に仕留め、早くも2アウト。


 続く3番木口。先ほどの打席では、新田相手にレフトへのツーベースヒットを放っている。

(こいつも一年生か……このまま一安打のまま終わるのも嫌だし)

木口はバットを構え、一発を狙う。そんな木口の表情を見て、金条は内角低めにツーシームを要求。

(打ちに来たバッターの当たりを詰まらせる内角へのツーシーム! これでどうだ!)

しかし大きく外れてボールになる。

(あれ……コントロール、乱れてきた?)

2球目のスプリットも外れ、ホームベース上でバウンドする。2ボールノーストライク。

(……あれ? もしかしてノーコン)

木口はにやりと笑った。しかし、鷹戸はそれを嘲笑うかのように、ジャイロボールをど真ん中に入れた。

(あっ……え?)

木口は思わず目と口を開いた。鷹戸は強く睨んでいる。

(これ……ストライクゾーン入ってても打てるかなあ……変化球主体から直球主体に変わるんだもん……球速差すっげえ感じるんだが)

4球目、沈むジャイロボール。低めのストライクゾーンに入っていることを見た木口はバットを振り抜く――

「ぐおっ!」

重く、沈む球。独特の回転から生み出される変化に、上手くタイミングが合わせられない。転がる打球。三塁線ギリギリ――深めに守っていたサード大滝は走って打球を迎えに行く。

(畜生!)

木口は全力疾走した。サード大滝が捕球し、送球する――そして伊奈の捕球――

「セーフ!」

「くそっ!」

ファースト伊奈が悔しそうに一塁ベースを駆け抜けた直後の木口を見た。

「あぶねえ……。あっ、ところでキミ、一年だろ? よく黒鉄さんから連続で打てるぜ全くよ……」

木口の言葉に、伊奈は不思議と煽られているような感覚を覚えた。

「鷹戸! 気にすんな! こいつのヒット、まぐれだからよ!!」

伊奈は叫ぶ。鷹戸は無言で見て頷く。


 打席には4番地村。このチームで最も警戒すべきバッターである。しかし、鷹戸の眼光はギラギラとしており、強打者との対戦欲が満たされていることが火を見るよりも明らかだった。

(……鷹戸は勝負したいよな。初球内角高めにジャイロボール。ガンガン飛ばしていけ)

初球高めに浮いた球はボールとなる。地村は警戒した様子だった。

(ジャイロボール……ふむ……面白い投手だ)

2球目――――ツーシームを外角低めに入れた鷹戸。地村は見逃す。

(あの球威で、沈む回転がかけられたら打ち崩される気がした……)

見逃す方が良いと瞬間的に悟った彼。金条は口の中に溜まりに溜まった唾液を呑む。

(やっぱ回転しっかり見てるんだろうか……)


 乾監督はこの様子について黙って見ている。

「大丈夫なんすか?」

バットを持ち、次の打席の準備をしている6番打者斑鳩が乾監督に問う。

「……地村か。あいつの動体視力は群を抜いている。ジャイロボールは回転の仕方によって変化が変わる。地村にとってこれほどまでに都合がいい球はない」

乾が笑みを見せながら見つめる打席。打者の地村は1ボール1ストライクのカウント。金条が要求したのは、ツーシームジャイロ。鷹戸の肩を、ここぞとばかりに使う。

(こういう場面で本気出さなくて、いつ出すんだ?)

金条の思惑がわかっているかのように、鷹戸は頷き、ボールを投げた。

(この回転……生で見るのは始めてだが……ツーシームジャイロ!)

うねりを上げて回転するボール。そして――地村はそれを引っ張ってカットした。

(球速差があるな……面白い。そして……あと投げていないのはスプリットと沈むジャイロボールとフォーシーム)

外角に外れるフォーシーム。誘ったボール球だったが、地村はしっかりと見極めてボール。


 2ストライク2ボールの平行カウント。ここで5球目に投げたのは低めに外したスプリット。直前で急に下に落ちる球に、地村の空振りを誘う――しかし、微妙に掠ったボールは、キャッチャー金条の手元で強く跳ねる。

「ファウル!」

形式上では、地村を追い込んだクロ高バッテリー。しかし、徐々に『一度見られた球』が増えていくことに、逆に焦りも感じていた。

(一度見せた球は投げたくない……ここで片付けなければ……)

地村を完全に倒しにかかるクロ高バッテリー。低めギリギリに入るであろう沈むジャイロボールを投げた鷹戸。

(……来た)

地村はしっかりと回転を見据えた上で、まっすぐ打ち返した。

「!」

鷹戸の右肩めがけて飛ぶ打球。鷹戸は目を見開いてボールを取ろうとしたが、右肩に打球が直撃した。

「!」

「鷹戸っ!」

ブルペンから身を乗り出す古堂。鷹戸の右肩に強く当たった打球は、その勢いのまま上へと上がっていくのだった。

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