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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
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第5話 「打たれ強さ」

 1年生のベンチ入りをかけた秋江工業高校との練習試合。先発鷹戸が三回まで無失点に抑えると言う活躍を見せた。伊奈や金条などがヒットを打つも、チャンスを活かしきれず、無得点。4回からリリーフ登板した小豆空也は、守備に助けられながらも、この回を無失点に抑えた。

そして、4回ウラ。打席に立つのは、先ほどの打席ではしっかりと奥田のスライダーを捉えた大滝。

「おい、奥田! あいつは大滝進一の弟だ! 打つぞ!」

一塁を守る大坂から奥田への言葉が飛ぶ。

(マジかよ……黄金世代の血が通ってんのかよ。本当にこんな1年がいる世代が暗黒世代なのか……)

奥田は厚めの唇を噛みしめ、ボールを握る。見据える先は、大滝真司。

(関係無い……俺は抑える! ここを抑えなきゃ、江戸川を助けることなんてできない!)

内角に抉り込むスライダー。大滝は見逃してストライク。気合いの籠った投球に、大滝ものけぞる。捕球するキャッチャー、溝口みぞぐちもにやりと笑う。

(いいぞ奥田……何も引くこたねえんだ。こいつらは暗黒世代だぜ)

出したサインに頷いてもらえて笑う溝口。

(こいつは無理にコースを打ち分けようとする。だったら打ち分けづらいところに投げてやろうぜ)

奥田は振りかぶって投げた。それは……低めの内角。――兄、大滝進一が得意とするコースのひとつである。

響く音。当たった打球は高く昇る。

(入るんじゃねえか……)

センターは走って打球を追う。スタンドの数m前で、センターのミットの中に収まった。センターフライである。

「ああっ! 惜しい!!」

古堂らベンチからは期待が打ってかわって落胆の声が漏れた。大滝は悔しそうな表情を浮かべながら戻ってくる。

(内角はそうなるのか。兄進一とは違うなあ)

絹田監督の視線を向けられ、俯く大滝。

(畜生……あの当たりじゃダメだろ)

「惜しかったな大滝! どんまい!」

すれ違う伊奈が肩を叩く。しかし、大滝は一言も返さない。そして、打席に立つ伊奈。

(こいつは先の打席で打ってる……低めしっかり攻めてこう)

奥田がスライダーを投げた。初球からガンガン振る伊奈。もう一球も厳しいところに攻めてストライクを取る。

(カウント取り急いでるなバッテリー)

伊奈は端から見るよりもずっと冷静だった。それ故、三球目のボール球はしっかり見逃し、続く四球目。甘く入った低めのストレートをしっかり捉えた。打球は高くはならなかったが、二遊間を抜けた打球はヒットとなる。

「うしっ! 続け続け!」


「伊奈が打つと盛り上がるな」

「いいぞ聖也!」

古堂も小豆も盛り上がる。

(投手陣も彼のバッティングを見て盛り上がっている。いい打者じゃないか)

絹田監督は伊奈を大きく評価した。続く五番宮地、六番金条もそれぞれ凡退に終わった。結局またしてもチャンスを活かせずにこの回の攻撃を終えたのだった。


 5回表、先頭打者は大坂大磨だ。

(鷹戸の球を外野まで運ぶパワーがある。高く浮くのは厳禁だな)

金条は低めにミットを構える。スライダーを要求した。

(初球大事に……鷹戸だって初球から振られてる)

小豆の投球はボールとなる。二球目外角少々はずしたカーブ。慎重に攻めるリードを取る金条。小豆の投球――

(うりゃ!!!)

指先に強い力がかかり、すばやい回転がかかる。山なりを描いて大坂に向かっていく。今日一番のボールが金条に向かって投げられた。

(よしっ、良い球だ――)

際どいところ、外したと思ったら少々入っている――そんなような絶妙な投球だった。しかし。

「お疲れさん」

ギリギリストライクゾーンに入ったボールを見事に芯で打ち返した。

空高く飛ぶ打球を見上げながら一塁ベース向かってゆっくり歩く大坂。

(え……)

金条も、小豆も、ベンチにいるものたちも、高く空を見上げる。センターへと飛んだ打球。追う手も届かぬスタンドへと入ってしまったのだった。

「なっ……」

ホームランだ。秋江工業4番、白銀世代の大坂大磨は小豆の本日最高の球をスタンドへと運んだのだった。現在1ー0。秋江工業先制点である。


「タイムお願いします」

審判にそう告げ、小豆の元に走っていく金条。

「大丈夫か? あれは仕方ない。山張ってたんだろ」

「でも……今日一番の……」

「小豆、あれで満足してもらったら困る。お前ならもっといい球を投げられる」

「わかった」

小豆の目に闘志がたぎる。


 それでも、事はそう上手くは運ばなかった。続く五番にツーベースヒットを浴び、六番にもタイムリーツーベースを打たれた。2ー0。リードが広がり、未だにチャンスが続く秋江工業。未だノーアウトである。

「打たせていこうぜ空也!」

伊奈が小豆に向かって叫ぶ。

(ヤバイ………よな。まだノーアウト、僕らに得点はない、どうすれば)

やはり大坂に打たれたことによるダメージは大きかった。七番バッターにも打球を外野に運ばれた。レフト佐々木が捕球するも、三塁へと進塁されてしまう。

ワンアウト三塁。ピンチには変わり無い。

(わ、ワンアウト……)

小豆の表情にいくらか余裕が見えてきた。八番バッター相手に投げた一球目はストレート。見逃しによるストライクのカウント。二球目、カーブによる球速差を利用して空振りを誘う。

(よしっ、追い込んだ……)

三球目、スライダー。外に逃げる一球。打ち上げる。またもレフト佐々木が捕球。タッチアップで走り出す三塁走者。

「バックホーム!」

ショート林里が叫ぶ。ベンチにいた古堂も叫んだ。

(レーザービーム……だよな!)

佐々木は思考する間もなく、バックホームした。矢のようにピンポイントで飛んでいくボールが金条のミットに収まった。

(げっ!)

急いで三塁ベースに戻る。更なる追加点は防いだ。


「良い肩をしているな」と、絹田監督が呟く。

(クロ高去年の黄金世代、成田和志さんを彷彿とさせる強肩ぶり。制球力もなかなかだな。後半要注意……と)

ベンチにいた大坂が顎をさすっている。このプレイが小豆の気持ちに余裕を生み、9番奥田を三振に抑えた。古堂は、ここでブルペンへと向かう。

「小豆」

「は、はい!」

絹田に呼ばれた小豆。何を言われるのかと肩を震えさせている。

「大坂は白銀世代だ。むしろそのあと、良く一点に抑えたな」

監督は俯く小豆に落ち着いた口調で言ったのだった。

「ラスト1回。抑えきれ」「はい!」

途切れかけていた小豆の集中力は首の皮1枚のところで繋がっていた。それを再び甦らせたのは、絹田監督からの激であった。

「っしゃあ! ラスト1イニング頑張ってくぞ空也!」

伊奈に声をかけられ、小豆はマウンドにたって大きな声を上げた。

「っしゃあ! 絶対抑えてやるっ!」

そして、一番バッター、二番バッター二人を打ち取り、迎える三番バッター。セカンド宮地のエラーによって出塁を許す。4番バッター大坂との勝負を再び迎えた小豆。

(低めだ。いっそフォアボールでも構わない……)

金条がミットを構える。少し外れてボール。二球目は高めにストライク。大坂はスライダーを見逃した。

(変化量が落ちてるな……体力切れも近いんだろう)

大坂がヘルメットをかぶり直して小豆を見据える。彼は大坂など眼中に捉えていない。

(金条が投げたところに……!)

小豆の投げた三球目。スライダーだ。低め真ん中。大坂はバットを振り抜いた。

「二遊間!」

小豆のすぐ横、そして林里と宮地の間をすり抜けていった打球。センターがダッシュして打球に追い付くも、ヒットを打たせてしまった。

「気にすんな小豆! 次打ち取ればいい!」

「ああ!」

五番バッター。高めのストレートを鈍い当たり。サード大滝のダイビングキャッチ。砂が舞う。目を奪われるベンチ。誰かの「ベースカバー!」という声よりも早く三塁に向かって走り出す小豆。三塁に走ってくる走者よりも早くベースを踏み、大滝からの送球を受け取った。

「アウト!」

「!!」

「空也!」

小豆は本日最後のイニングを無失点に抑えきり、マウンドを降りた。


 ブルペンで控え捕手に投球を取ってもらう古堂。6回が終わり、いよいよ自分の出番が近づく。

「よし、良い感じだ! 燃えてきたぜ! 早く俺たちの攻撃終わらねえかな!!」

「アホか! 俺たちは今一点追いかけてるんだよ! 点無いと負けるぞ!」

古堂がアップを終えてベンチに戻る。七番バッターが打ち取られた直後だった。八番バッターも凡退に終わり、九番古堂の打席となる。

「あいつは新田さんの内角カーブをバットに当てる程度の実力しかない」

「それてすごいの?」「まぐれだろ? あの超投球バカが打てるわけ――」

「ストライク! バッターアウト!」

投球バカは三振に倒れ、6回ウラ、黒光高校の攻撃は終わった。


 そして7回。古堂黎樹、マウンドに立つ。

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