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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
40/402

第40話「二年生」

 雨は先ほどよりも強く降り注いでいる。雨天コールドになってもおかしくはない天気だ。しかし、この場面で……クロ高先発新田静は、思いもよらないピンチを迎えていた。

「リュウナイスバッチ!!」

そう叫ぶのは、ホームに帰ってきた荒牧鉄平。そんな彼の笑顔を見て、二塁ベースに佇む仙田竜平も笑う。

「お前もよく還ったっつの。キャッチャーがブロック上手かったら刺されてたぞ」


 具体的に何が起きたかと言うと、新田が投げた低めのスライダーを打ち返した仙田。打球がセンター山口の頭上を越え、その間に仙田は二塁ベースへと走る。ホームを狙う荒牧を止めようと、バックホームの送球をした山口だったが、荒牧は、キャッチャー金条のブロックを見事にかわしてホームイン。7回裏ツーアウトの状況で、勝ち越しの1点を加えたところだった。

「……」

俯く金条。マウンドに立つ新田が、タイムを主審に求めた。

「に、新田さん……」

「どうしたんだ金条。さっきからおかしいぞ」

――さっきからって、いつだよ。そう思う金条。確かに、いつ点を入れられるかわからない状況に怯えてはいたが、そんなに……明らかに強い負荷がかかっている投手の目からも、自分がおかしく見えていたのか、と金条は思っていた。

「別に大丈夫です……」

「大丈夫じゃねえ。俺がそう思ってる」

金条の言葉を、新田が強く跳ね返した。

「……負けたら終わりだってこと、お前はわかってると思う。だからって強く責任を背負いすぎるなよ」

「……何も別にそんなことは」

バッテリー二人の様子に、内野陣も集まってきた。不満そうなのは、打席に立つ高月広嗣。

(んだよ……強豪らしくこういうところは抜かりねえな。俺にあと二点加えられるのがそんなに気に食わねえか?)


 クロ高のタイムの時間、キャッチャーの金条に対し、ピッチャーの新田が言い放った。

「今日俺の調子は良いと言っても、打たれているのはやっぱり俺のせいだ。まだまだだよ俺も。白銀世代相手だからって、ポンポン打たれてちゃあわけねえ」

「……俺らだってそうだ。いくら『金に近い』と呼ばれる高月が相手だからって、上位打線任されている俺らがこの様じゃどうしようもない」

と言うのは田中。

「遊、この回、高月絶対抑える。次の回打ってくれよ、頼むぜ」

「ああ、もちろんだ。だから金条も泥船に乗ったつもりで」

「少しも安心できませんね、それだと」

大滝が苦笑いして田中に突っ込んだ。金条の顔にもほころびが見えたところで、新田がまた彼に告げた。

「いいか、後藤陸はおそらく県内最強キャッチャー。彼と劣っていることを気にしたって仕方ないだろ? ましてやお前はまだ一年生。暗黒世代と言われていようが、まだまだ抜かすチャンスがあるんだからさ」

「……はい」

金条の返事に、にっこりと爽やかに笑う新田。

「っしゃ締まってくぞ!!」

外野手にも聞こえるように叫んだ新田。クールな印象とはまた違っている。



 「締まってく……か。俺にホームラン打たれていたやつが何言ってるんだ?」

高月がそう不敵に笑うが、金条は無表情のまま、言い放つ。

「あれは俺のせいです。あんたじゃ純粋に新田さんには勝てない」

初球のストレート。さすがに読めなかったのか空振りする。

「どういうこったい……。雨の中直球とはやるじゃねえか」

高月が呟く。2球目のスライダーをファウルにする。三塁線を切れていくとは言え、スタンドに叩き込むそのパワーには、戦慄せざるをえない。

「おらおら……ちゃんと勝負してこいよ」

「……」

金条は3球目に、内角ギリギリのシュートを投げさせた。

「ふんっ!!」

空振り三振――――新田の予想以上にキレる変化球に目が追いつかなかった高月。バットをホームベースに叩きつけると、打席を去る。

(や、やった……さすが新田さん!!)

このピンチをしのぎ切ったクロ高バッテリー。


 そして来る8回。

「田中、今宮、山口……お前らは二年生――取り分け白銀世代と呼ばれているわけだが、お前らはそのことを気にしたことがあるか?」

絹田監督に突然呼び止められた田中ら上位打線。

「……い、いえ」と田中。

「でもまあ、よく聞くんで」と今宮。

「自分なんてまだまだ」と山口。

「まあいい。相手の白銀世代は、白銀世代と呼ばれるなりの覚悟ってのを持ってる。お前らにそれがないようじゃあ、敵には勝てぬぞ」

「はい!」

今宮と山口が大きな声で返事をした。

「……どうした田中?」

ショート田中遊は俯いたまま黙っている。本日無安打、雨が降っているとは言えど、小さな守備のミスまでしている――

「……(俺には覚悟ってのが無かったのか。そうだよな……)」

口を尖らせ言葉に困っている様子だった彼に、新田が軽く肩を叩く。

「……今更気にするタマかよ。元々ムラのあるやつだっただろうがよ」

「……そ、そうだよな」

新田にいわれ、田中は力強く拳を握り、バットに手を伸ばす。

「んじゃ、クロ高の切り込み隊長、田中遊……行ってまいります」

「すぐ戻ってくんじゃねえぞ」と新田が言うのに対し

「おうよ、あと、絶対還せよな!」と笑って後続たちに告げるのだった。



 スイッチはせず、高月広嗣がマウンドに立つ。打席に立つ田中に、挑発的な目線を向けた。

「うるぁ!!」

直球のシュートを見逃す――ボールだ。2球目、カーブにタイミングをしっかり合わせるも、三塁線を切れていく。

(ん……キレるな)

3球目の直球は低めに外れたボール。4球目は高め真ん中のシュート。見逃す田中。追い込まれる。

(まあいいさ……絶対に出塁するからよっ!)

5球目のカーブは、わずかに低め外れていたが、田中は姿勢を低くしてピッチャー返しを打ち返す。高月のミットの下……股下を通り抜けていくボール。

(んなっ!!)

ショート荒牧が打球を素手で拾い上げるが、足場が悪く、バランスを崩して一歩、二歩、送球のタイミングが遅れる。その間に走り抜けた田中が一塁ベースにヘッドスライディングした。

「セーフ!!」

「つ、土味マズっ!!」

スライディングから立ち上がった田中は、身体の全面一帯を土色に染め上げて、笑いながら立ち上がった。

「さすがだぜ遊……やっぱお前、シビれるわ」

今宮がそう笑って打席に立つ。続く今宮、送りバントかと思われたが、三塁線ギリギリ転がすセーフティバントだった。サード射場が拾おうと走るが、間に合わない。今宮、田中の俊足ランナーを前にどちらもアウトにできず、ノーアウト1.2塁というピンチを招く。

「高月、大丈夫なのか?」

「あ?」

キャッチャー後藤がタイムを取り、高月に近づく。

「1点取られるぞ」

「わかってる、取らせやしねえよ」

「やっぱダメだ。寺田と交代するべきだ」

「何でだ!!?」

「……お前、さっき三振取られたことまだ気にしてるだろ!! あと打球取り損ねたことが重なって、お前のピッチングが乱れてきている」

「んなこと関係あるか」

「いや、あるな。お前はバッティングもピッチングも一流だが、どちらとも影響されやすい。どちらかが良ければもう片方も良くなる。でも、どちらかが悪ければもう片方も悪くなる」

「今更言ったって仕方ねえだろ」

「前から言ってた」

後藤の言葉に、何も言い返せない高月。打席に立つ山口は、糸目を二人に向けて不敵に笑っている。

「とりあえず、俺がまずいと思ったら寺田とスイッチだ。いいな!」

「ったりめえだ」


 高月が投げる。二塁走者田中は、少しの遠慮も無く盗塁。何とかセーフとなり、ランナー1.3塁となる。

「今宮が走るかもしれねえ、気をつけろよ!」

後藤にそう言われ、高月も頷く。

(普通に犠牲フライでの1点があり得る場面になってしまった……こういう場面、クロ高なら迷いなく……)

高めのカーブを打ち上げた山口。外野――センター仙田のミットに落下する。後藤が構える。田中がにやりと笑いながら腰を低く落とした。

「アウト!!」

仙田の捕球、山口のアウトの合図と共に、田中が三塁ベースから出発した。仙田の送球。ノーバウンドでキャッチャーミットに帰ってくる打球だったが、ブロックの間もなく、田中がホームベースを踏んでいた。

「っしゃああ!!! これがクロ高の上位打線ダぁ!!!」

雨の中、田中が叫んだ。全身泥だらけのままベンチに戻ってくる。

「さ、最高です田中先輩っ!!」

古堂も思わずハイタッチを求める。ニヤケ面でそれに答えると、ゆっくりとベンチに座った。

「……こっから一気に攻めてこうぜ!!」

そして叫ぶ。田中の声に同調して、古堂たちも声援を送る。


 打席にでは、澄まし顔の後藤。1点を取られたのは仕方ないと割り切っていた。

「やけにうるさいじゃん?」

「それだけ期待されてる――ってことじゃないですかね?(二年生がつないでくれた分だ。絶対に……さらに点取ってやる!!)」

大滝は強い決意のもと、後藤からのささやきに笑って返した。

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