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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
0.プロローグ
4/402

第4話「投手と野手」

 ベンチに戻ってきた大滝。監督が一言。

「捉えられそうか?」

「無理ではないと思っています」

「そうか」

このまま2回表の守備へと移る。マウンドに立つ鷹戸の目の前の、右打席に立つのは白銀世代の大坂大磨。

(白銀世代か……油断せずに一球一球厳しいところに攻めるぞ)

まずは胸元にツーシーム。凡打に仕留められれば上等。空振りやファウルを誘えれば御の字だ。金条がミットを構える。鷹戸は振りかぶって投げる。うねりを上げて飛んでいくボール。

(手元で少し変化するツーシーム…長打はさすがに無理だろ……)

そう思っていた矢先――大振りして打球を跳ね返す大坂。

(やべっ!?)

飛んでいく打球は、三塁線を切れていった。ファウルである。

(あぶねえ……あわや二塁打じゃねえか)

少し動揺の残る金条。それでも鷹戸は表情ひとつ変えずに二球目を投げる。

「ボール!」

外に外れるストレート。

(厳しすぎたか……?)

次は低めのジャイロボール。リードしたところよりも少し低めに飛んで来る投球。

「ボール! ツー!」

もともとコントロールに甘い部分のある鷹戸に取って、厳しいところに投げ込ませる金条のリードはストレスの貯まるものだった。

(何にビビってんだよ金条……俺が簡単に打たれるとおもってんのか!?)

強い気持ちを込めて投げた鷹戸のボールは、金条が構えたところよりもさらに高いところへ。高めにはずしてスリーボール。後ろに反らすのは防いだ金条だったが、ワンストライクスリーボールと、バッテリーに不利なカウントである。

(ほれみろ……もう弱点を露呈し始めてやがる)

大坂はこの状況になって歯を見せた。鷹戸を煽るかのように向けられたその顔つきを彼が無視できるわけもなく、彼の五球目は、金条が構えたところとは全く別のところへ飛んでいった。

(バカ! 内角はさっき打たれたろ!?)

初球ファールとは言えど、外野に運ばれてしまっていた内角。この打者、大坂相手に内角を投げるのは危険だと考えていた金条は、敢えて外中心に攻めていた。しかし、煽られた鷹戸は内角へと勝負を挑んでしまったのである。

「ボール! フォアボール!」

金条の予想に反して厳しすぎるまでの内角へと投げ込まれたボールはボール球となり、結果フォアボール。白銀世代の大坂相手に結果敬遠という形になってしまっていた。

(長打に行かれそうだったことを考えればマシか)

金条は幾らか安心しているようだった。大坂も一塁ベースから鷹戸を見ている。

(コントロールが苦手だなこいつ。エリアの中の高め、ど真ん中、低めの3箇所しか確実に入れられない。横方向の変化球も無いみたいだし、次の打席では打てる……最も、あのキャッチャーのリード次第だが)

続いてのバッター。低めに構えた金条だったが、鷹戸の投球は浮き、ど真ん中のツーシームを相手は初球から打ってきた。

(フォアボール後の初球の甘いところは狙われるっ!)

一塁へと飛んでいく打球。一二塁間を抜けると思われた打球は、ファースト、伊奈聖也いな せいやが身を乗り出して止めた。

「伊奈!」

セカンドの呼ぶ声に反応し、直ぐ様セカンドへ送球し、また、ファーストへと返ってきたボールを、一塁ベースを踏みながら捕球した。

「一気にゲッツー!」

沸き立つクロ高ベンチ。

「後ろもいるんだ! フォアボール気にすんなよ!」

伊奈のプレイを見た絹田監督は大きく頷く。

(良いプレイだ。一気に雰囲気を変えたな)

直後の六番打者を何事もなかったかのように三振に仕留め、2回表の守備を終えた鷹戸。

 「ナイスピッチだったぜ鷹戸」

「フォアボール出してもよく抑えたな」

周りは褒めるが、鷹戸は全くもって気にくわない。もう次のことを考えている。

(次の回のバッターどうやって抑えるかな)

 この回の攻撃は、先ほどファーストライナーを捌いてみせた4番、伊奈聖也からだった。先ほどファインプレーを見せていることもあり、ここでの活躍に期待がかかる。

「おねがいしゃす!」

サイドにブロックを入れたオールバックのヘアをヘルメットで隠し、礼をする。奥田は初球、ストレートを投げた。

(来たっ)

伊奈はその球を全力で振り抜いた。身長180㎝の体格から振り抜かれた打球は、センター前へのヒットとなる。

「うっしゃあ!!」

声を上げ、喜びを露にする伊奈。続いての五番バッターの送りバントで進塁し、チャンスを作る。ここで、六番キャッチャー、金条春利の打席がやってきた。

「ここしっかり打ってこー」

ベンチから声を上げてもり立てる古堂。鷹戸がいいピッチングをしているため、少々彼の顔色に焦りが見えてきた。

(早く7回来てくれよ……)

金条は奥田のスライダーに全くタイミングが合わず、早くもツーストライクと、追い込まれてしまう。左手でメガネを抑え、逸る気持ちを落ち着かせる。

(大丈夫だ……配球を読むのは苦手じゃない。だからやれる!)

奥田が投げてきたのは、外にノビるストレート。

(読み通りっ!)

当たった。二遊間を抜けた。

「いいぞ金条!」「やった!」

センターが、バックホーム態勢を取っていたため、伊奈の生還は叶わなかったが、ワンアウト一.三塁のまたとないチャンスである。

ここを活かしたいクロ高打線だったが、下位打線は見事に抑えられ、結局得点には至らなかった。

「伊奈良く打ったな」金条が伊奈を褒めた。

「中学のときのうちのエースもサイドスローだったんでな。それよりお前もやべえな」

「俺は読みがたまたま当たっただけさ」

伊奈の誉め言葉に、金条は表情ひとつ変えずに答えた。プロテクターを装着して、三回の守備に備える。

「このチャンス、ものにしたかったな」

大滝が悔しそうに言う。そこに、鷹戸が一言。

「無失点に抑えられるのは精々俺が投げてる間ぐらいだろ。4回以降は守備も気にしろよ大滝」

意味深で、自尊心に溢れた彼の発言だったが、宣言通りといわんばかりに、下位打線3人を三振に切って取った。結局、鷹戸は4番大坂にフォアボールでの出塁を許すも、他をノーヒットに抑える活躍ぶりを見せ、一切の疲れを見せることなくマウンドを降りた。

「あのジャイロボール何なんだよ……球威もえげつねえし。何よりストレートが速い」

秋江工業のピッチャー奥田はぶつくさとマウンドに登っていく。自分は3安打も許しているのに、クロ高のピッチャーは被安打0。自分も打てなかったことにも悔しさを滲ませていた。

(俺の強みは…サイドスローのコントロールとスライダー。球速と球威では敵わねえが、この二つの武器で俺はこいつらを抑える!)

三回ウラ。クロ高は代打を出したが、結局凡退。続く一番、林里と二番、佐々木の二人は三振に抑えられた。

「あのスライダー、どうも打てないぜ……」

「俺バントすらできるか危ういんだけど」

未だ上位打線がヒット0と言う状況。そしてピッチャーが交代し、サイドスローの右腕、小豆空也がリリーフ登板した。彼は球速126kmしか出ないものの、カーブとスライダーを少し投げることができる変化球主体の投手だ。

「落ち着いていこうぜ空也!」

「あ、ああ!」

伊奈に声をかけられ、力なく返事をする小豆。鷹戸の凄いピッチングを見た後でもあったため、プレッシャーを感じていた。心臓に手を当てると、鼓動が早くなっているのがわかった。大人しい性格の彼――体躯も大きくはない中性的な男だ。

(落ち着け……聖也だって打ったんだ。俺だって抑えるぞ)

投げられた一球目は、一番バッターのバットをうまくすり抜ける。キャッチャーミットを鳴らす白球の音。

(うし)

続いて投げられた、下に外したカーブ。相手の先頭打者はこれを打ち転がす。グラウンドの白い土の上を転がる白い球。サード大滝のグラブの中に収まる。ふんっ、と肩を振り抜き送球し、ファーストへとボールが届く。まずは1アウト。

「ナイス小豆!」

ベンチからも声援が沸く。

「意外に良い球投げるなあ、小豆くん」

古堂は額の汗を拭きながら、小豆の投球を見ている。その間にも相手の打者が詰まらされた打球がショート林里によって捌かれ、ツーアウトになっていた。

「全然ダメだろ」

辛口でコメントするのは、先ほどまで投げていた鷹戸遥斗。

「どーしてだよ」

古堂が少し食って掛かる。小豆をぞんざいに扱ったことに対しての怒りでないことは薄々感じていて、そんな自分に情けなくなった。

「球速ないから変化球主体。そんな甘いもんじゃねえよ。実際変化量も多いかと言われたら微妙。あれがピッチャーやってられるのが不思議なぐらいだ。そんなに俺らの世代って雑魚ばっかかよ」

悔しいが鷹戸の発言は的を得ていた。実際に、今打席に立つ三番バッターはファウルで粘り、徐々に変化球に慣れ始めていた。

(ここで役に立つのはストレート、完全に変化球に慣れたところを厳しく内角にぶちこんでやろう!)

金条は完全に打ち取ったつもりでミットを構えた。そこに小豆もストレートを投げる。しかし、その球は少し甘めに入る。

(やば)

金属音が響く。完全にミートした流し打ちだ。打球は真っ直ぐ伊奈の方へ飛んでいく。

「うぐぉ!!」

難しいところだったが、捕球してみせた伊奈。ベースカバーに入った小豆に送球し、なんとか打ち取った。

「サンキュー聖也……」

「気にすんな。それより次は4番だぜ!頑張れよ」

伊奈に強く背中を叩かれ、小豆の眉が下がっていた状態からもとに戻った。しかし、彼の顔には、この夏の暑さとはあまり関係のない汗がダラダラと滲んでいたのだった。

ベースカバー…ゴロやライナーなどで、塁手が守備位置を離れて捕球しなければならなくなったときに、変わりにピッチャーなど、空いている選手がその塁近くで走者をアウトにするために守備につくこと

流し打ち…右打者なら一塁線方向、左打者なら三塁線方向へと打球を飛ばすこと

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