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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
9.白銀世代最後の夏
224/402

第224話「背負う者」

「すげえよな、あいつら……甲子園いっちまったぜ」

「どうせならベンチで見てたかったな……あの瞬間」


 沈黙が流れるクロ高の図書室。ベンチ入りメンバーに入れなかった3年生の中には、受験生となる者もいた。蔵元和重、庄野慎也、菅木晴信らもそれにあたった。


「……やめろよ慎」


 蔵元が止めるが、庄野の言葉は続く。


「……まあ、新田がケガしてピッチャーもう一枚必要だったから小豆が入るってのもわかるし、森下やら一年生がめちゃくちゃ打ってたからベンチ枠取られたのも、今となっちゃあ仕方のないことだったわけだ」

「まあな……俺はケガしてキャッチャー諦めてから、どこかバッティングも調子崩してたし、肩は元から強くなかったし、入れなかった理由を挙げればいくらでもある」


 菅木も続けて言葉を吐く。


「……やめろ」


 蔵元の持っていたシャープペンシルの芯が折れた。


「……やめろよ……あいつらが甲子園出てくれたおかげで、俺らも胸張ってスタンドで応援できるだろ。まだ。そんな卑屈な気持ちで応援されたくねえよ誰も」

「……ま、そりゃそーだな」

「……でも、受験失敗する言い訳にはできねーぞ。残ってるやつらのためにも、絹田監督の為にも」


 蔵元の言葉に気付かされた庄野と菅木。再びペンを走らせる。



「あ、ごめんショーノ。シャー芯貸して」





 大阪府代表を決める決勝戦――桐陽学園VS開盟学園。それを観戦していた今宮らクロ高ベンチ入りメンバーの三年生たち。


「お前らも……ってことは……」


 たった今、『お前らも甲子園出るの?』と尋ねられた今宮ら。斜め後ろの席に座る3人組に、見覚えのある顔を見つける。


「……一方的にだが知ってる、花丸大宮のエース、渡守わたり まもる!」

「ちょっと、今宮に関しては一方的にちゃうやろ」


 渡の横に座っている男が笑いながら言った。


「ああ、ごめん……U-18で見知った顔がいたからつい」


 渡は笑う。今宮もつられて笑う。


(渡は良いやつだったからな……覚えてるに決まってるだろ。まあ、渡に覚えてもらってるってのはちょっと思ってなかったけど)


「すげえな今宮。知り合いだけなら全国区じゃん」

「だね」


 新田と山口も笑っている。


「おっと……しかしや、お前らも知ってるぜ俺は。去年の甲子園、俺は全試合見てたからな。6番ショート田中遊。9番ライト山口寿。んで、背番号10のリリーフ、新田静」


 渡の横の男が笑っている。


「ああ、ごめんなみんな。こいつ、記憶力バグってんだべ」

「俺は栄藤奮騎えとう ふるき! 大阪から単身岩手の花丸大宮高校に来た4番キャッチャーの男や!」

「……初めて名前知ったぜ。一応県内じゃ名の通ったキャッチャーだったんだろうが……全国的に有名なのは、横の渡だけじゃねえか」

「ったりめーだ。花丸大宮は堅守のチームだからな。4番とは言っても大したことはねえ。な、上城」


「あ、ごめん……んで、こっちの横に座っているのは、上城裕貴かみしろ ゆうき。1番ショート」

「あ、ども……1番のショート、上城です」

「守備そつなくこなしすぎて目立たへんの、こいつも」


 栄藤、渡、上城――3人とも県内じゃ名の通った白銀世代らしい。


「まあ、俺が地元帰るついでに無理やり連れてきたんやこいつらは」


 栄藤の強引さにあきれる山口。


「……偵察がてらってところ?」

「そういうことだべ」


 渡は笑う。


「そういえば、さっき堤に出会ったんだけど、今宮らも会った?」


 渡の言葉に、クロ高の面々は全員首を横に振る。


「知廉学園も決めてるからね甲子園」

「……やっぱりか」


 新田は思い出す。ケガをしたあの練習試合。他の選手たちも、苦い思い出として記憶を呼び起こされた。


「……ってまあ、そんなこんなしてるうちに、8回表終わったね」


 渡が前を向く。スコアは3-3となっている。


「……んー、どうやら、なんとか頑張って1点返したのかな? ノブくん打ってたみたいだし」

「あ、マジ?」


 今宮はその活躍を見逃していた。


(ち……やるじゃねえか……野淵!!)




 試合は9回裏までもつれ込んだ。先頭打者は5番塚岸。マウンドには依然としてエース河原井が立っている。


「おい! 塚岸!! お前まだノーヒットだぞ!!」

「今日はダメな日なのか!!?」


 ベンチから怒号にも近い声援が飛ぶ。塚岸はあくびを一つ。


(ああ、こいつも俺と同じ気分屋タイプか……)


 河原井はそんな塚岸にシンパシーを感じながらも、遠慮なく初球を投じる。



(ああ……そうか。点獲ったら終わるやん)


 塚岸は目を見開いて打ち返す――打球は右中間深い所へ――


(くそっ、当たってへんから長打ケアしてへんで!!)


 足立が猛スピードでバックするが、ランナーの塚岸の方が、足が速い――――


「アダ一人で三つ!!」


 セカンド白波が叫ぶ。足立がボールを拾い、そのまま三塁へ投げた――


(滑り込んだら……セーフやろ!)


「セーフ!!」


 いきなりスリーベースヒットで出塁を果たす塚岸。これには桐陽学園ベンチが騒ぎ立てる。


「一気に勝ち越しのちゃーんす!」

「サヨナラ勝ちもらっちって浦部ェ!!」


 打席には、今日“当たっている”6番浦部。それに対し、開盟学園ベンチはタイムを取る。


「さすがに厳しいな」


 グラブで口元を隠しながら話す内野陣。ベンチを一瞥する根津。井達監督も頷く。


「敬遠っすね」

「だな」


 諦めた様子の河原井。しかし――勝利は諦めていない。


(浦部に打たれて終わるくらいなら、7.8.9で仕留めたろーか)


(ちっ……敬遠か)


 浦部は初球の外されたボールを見て確信する。故意四球で出塁を果たすが、腑に落ちない浦部。


(工藤と三坂……んで松下抑えて勝つってか? 厳しいぞ?)



「面白い展開になってきたね……」


 小林が呟く。芝と今宮は頷く。


「下位打線のプレッシャー尋常じゃないよこれ」

「いや、ピッチャーの方がだろ」


 新田がすかさず否定した。


「敬遠するってことは、あとのバッター絶対に抑えますっていう意思表示なんだ。ピッチャーにとっても。だから……できればしたくない」

「ふん……全国知る人ぞ知る名投手、新田静氏の意外な見解やな。もっと冷静で、敬遠も策の内とか言いだしそうな顔してんのに」


 栄藤の言葉にムッとした表情で振り返る今宮。それを制するかのように新田が続けた。


「まあね……でもエースってそうも言ってられなくない……ねえ渡くん」

「はは、その通りだよね」


 渡の方を向かず、それでいて試合をじっと眺めながら笑う新田――しかし、その表情を、その声色からどことなく察した渡は栄藤の方を見た。


「……クロ高と当たるってなったら気を付けないと……新田静はヤバいべ?」

「……みたいやな」


 どことなくそれを察した花丸大宮高校の3人――そして、大阪府代表を決める決勝戦を、緊張した面持ちで眺めるクロ高の8人。


 7番工藤を三振に倒す――


「1アウト!!」

「うおっし! ナイス河原井!!」



(バッターにも相当なプレッシャーがかかる。浦部を盗塁させてやりたいが、キャッチャーの根津はそれなりに肩も良い――迂闊に走らせて2アウトにさせる方がプレッシャーか)




 8番三坂に託す――が、ピッチャー正面のライナーに倒れる。


(くっ……! 当たりは良かったのに!!)

(塚岸も浦部さんも飛び出さなかっただけましか……)


 村松はマスクをつけている。10回表があるもの――そう捉えてさえいる。


「不要だ。村松!」


 打席からの叫び声。目をあげる村松。9番松下が打席に立っている。


「松下サン……(いつもの弱気はどこへやら)」


 松下の目に闘志が宿る。それと対峙する河原井も笑う。


(数奇な運命かな。ずっと……勝てなかった、そんなライバルと……最後に対決できるなんて!!)




 2ストライク2ボールと追い込んだ5球目。インコース低めに仕留めるように投げ込んだストレートを打ち返した松下――二遊間を抜けた打球。



 軍配は――桐陽学園に上がった。



 開盟学園 3-4 桐陽学園


「っしゃああああ!!!」


 桐陽学園、全国高校野球甲子園大会出場決定。




「決まりだな」

「だね」


 山口と今宮が足早に立ち上がる。


「おい、待てよ……」


「どした?」


 田中が呼び止める。今宮は振り返る。


「……」

「野淵らにかけてやる言葉なんてねえよ……あいつらは頑張った。努力した。でも負けた。んなことはあいつらが一番わかってる」


 新田、小林、芝、坂本、伊東と次々に田中を追い越していく。


「……そりゃ、悔しいだろうけどな。んなこと言ったら、レイモンドや白里兄貴、江戸川、大坂……黒鉄たちだっておんなじだ。みんな俺らに負けて甲子園への道を閉ざした」


 今宮の言葉に、田中は俯く。


「……そいつらの分も勝つぞ。んで、甲子園の強敵たちと……正々堂々ぶつかり合う。そして、そいつらの分も背負って次も勝つ」


 その背中に、田中は腹をくくった。


「そうだな。今宮の言う通りだ。ついていくぜ……(そりゃそうか。どこの強豪だって……甲子園に出るチームに負けたんだ。なんで俺はそんな当たり前のことに……)」


 見下ろしたグラウンド。野淵が涙を流しながら松下と握手を交わしている。河原井は空を見上げている。


「なあ恒興……俺が松下だったら勝ってたんかな」

「……さあな。相手が河原井じゃないとは限らんやろ」


 河原井は多田に話しかけたが、多田の返事も曖昧なものだった。


「まあ、大阪府準優勝って凄いんやないの? うちのオカンも言ってたわ。桐陽に負けるんはしゃーないって」


 足立が笑う――が、笑顔は固い。


「なに……お前らの分も勝ってきてやるよ。安心しな」


 向かいに立っていた岡田が右手を差し出す。握手を交わす足立。


「大阪の代表として……行ってくるぜ甲子園」


 松下が力強くつぶやいた。野淵は何度も頷く。


「まあノブ、大学野球するんやろ……俺もプロ行けへんかったら大学そっち行くけん、またやろや」


 浦部が野淵と握手を交わす。






 そして、本日――全国高校野球甲子園大会の代表48校が――出揃う。記者は慌ただしい。



「宮城代表は?」

仙台大英せんだいだいえい

「……じゃあ東京」

「西が爽田実業、東が美星松学園みほししょうがくえん

「東都第一は負けたんか」

「美星のピッチャーえぐいらしい」


 世間もこんな話をし始める――甲子園はもうすぐだ。


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