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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
8.県予選準々決勝~
178/402

第178話「伝播」

(入った……ん?)


 打ち返した瞬間に違和感を覚えたレイモンド。打球は強く打ちあがる――しかし、レフト方向へと流れていく。


(……少し、詰まらされたか?)


 全力疾走で一塁ベースを蹴る。左中間に打球が落ちる。


「佐々木ッ! 刺しに行けッ!」


 センター山口の声に、佐々木はボールを拾った瞬間に、送球の体制に入る。


(来たぞ見せ場ッ!!)


 佐々木の鋭いレーザービーム。送球はノーバウンドで、二塁ベースで待つ今宮の元へとやってきた。しかし、レイモンドの足が入る方が早い。


「セーフッ!!」


「……ふぅ(危なかった)」


 レイモンドは土を払いながら立ち上がる。ツーベースヒットである。


(チッ……打たされたか)


 レイモンドは捕手を見る。金条は悔しそうにマスクをかぶりなおす。


(食えん男だ。金条春利……)


 しかし、その間にも白里虎次郎が本塁へと還っており、1点の追加点を果たした初巾高校。伊東も悔しさをにじませてはいるが、レイモンドを2塁打に“抑えた”だけでも大きいというのが、正直な気持ちだった。


(詰まらせたあのボール……金条がカットボールを選んだのは……わざとなのか?)



 続いて、白里一哉が打席に立つ。


(クロ高は学んでる。一哉を強く警戒すべきバッターだと。だからこそ……三番に虎次郎を置き、六番にヨッシーを置いた。これで……クロ高は安易な敬遠ができねえんだよ。どうだ? レイモンドを何とか二塁打に抑えても、次に控えるのが一哉ってのはちょっと厳しだろ? そんで……敬遠しようものなら後ろのヨッシーが食いに来るぜ?)


 根古屋監督の打順の変更。白銀世代の最後の大会にかけている。



(元々……レイモンド=アルバードがこの高校に来るなんて……当時の高校野球界誰も思わなかっただろうな)


 3球目。2ボール1ストライクのカウントで伊東が投げたフォーク。低めの良いボールを……打ち返す白里一哉。


(マジかッ!? 今のを――)


 掬い上げるように打たれたライナー性の打球は二遊間を強く跳ねる。


「山口! 一人で刺しにッ!」

「おうけい……!!」


 山口が捕球体勢に入るころには、レイモンドは三塁を蹴っている。



「バックホーム!」


 金条が叫ぶと同時にボールがまっすぐに投げられた。しかし――送球を待つ間に本塁に滑り込むレイモンド。


(くっ……足も速いなんて……!!)



1-3。3点目を挙げる初巾高校。白里一哉のタイムリーヒットで、2点差がついた。



「……想定内! 良いですよ伊東さん! 良いボールだったから単打です!」

(そうだとしても……まだ4回だぞ……?)


 金条の言葉に、疑心暗鬼になる伊東。



 続く大槻のセーフティに全く反応ができない投手伊東と捕手金条。何とかファーストの伊奈が真っ先にチャージし、カバーに入った今宮が大槻をアウトにすることには成功した。


「バッター走ってるッ!」

「三つ!」


 二塁カバーに入っていた田中の声が今宮の耳に届く。サードの大滝が今宮からの送球を呼ぶ。


(クソッたれがッ!)


 今宮が三塁に向かってボールを投げる――が、白里がヘッドスライディングで滑り込み、セーフになる。



「よおおおおしッ!!」


 ベンチからレイモンドが叫ぶ。


「ナイスだ一哉ぁああああ!!」


 根古屋監督は立ち上がって大声を上げた。




「わ……1アウト!!」


 外野から小林が叫ぶが、誰も返してはくれない。内野陣の背中は丸くなっている。



「内野陣締めろぉ!!」


 ベンチから新田の声が響いた。全員の背筋がピンと張る。


「……新田?」

「新田先輩……」


「誰もミスしてねえんだ! 相手の巧さに呑まれんなッ!! 次のプレイで取り返すんだ!」


 鼓舞する新田。鼓舞されるチーム。


「……誰もミスしてないッ」


 金条も頷く。しかし、目前の伊東から、かなりの疲労を見て取ることができた。


(伊東さん……このバッターが……最後になるか……)



 7番権田に対し、ストレートを中心にファウルしか打たせないピッチングで伊東が魅せるも、権田のきわどい所を見逃す選球眼も冴えわたり、フォアボールとなる。



(くっそ……くそったれ……何でなんだ……)


 悔しさをにじませる伊東。タイムがかかる。



(やっぱ俺は……ここまでの男なのか……)


 大量の汗をこぼす伊東の前に現れたのは、古堂黎樹。


「伊東さん……マジ、カッコよかったッス」


 ボールを催促するように伸ばされた右手のグラブ。伊東は顔を上げる。


「……」

「伊東さん……」


「まだ準々決勝じゃないっすか。ここらで休んどいてくださいよ」

「……ふん、お前がそんなことを言えるようになるとはな」


 古堂の言葉に顔を綻ばせる伊東。目の周りに大量に噴き出てきた汗を拭くように、袖を顔に当てた。


(最後まで結局……後輩に任せねえと……俺はダメなのか)




 4回の途中から登板することとなった古堂黎樹。


(古堂が出てきやがったか……)


 顔をゆがませるのは、柏木。打席から離れたところでバットを数回素振りする。


(チッ……せっかく権田がいっぱい球見せてくれたって言うのに)


 ランナー1.3塁の状況。1アウト。この大ピンチに、古堂は依然として、毅然と振舞っている。


(……やっぱ……予選独特の緊張感……負けたら終わりのプレッシャー……正直言って……最高だ)


 このピンチの舞台を……楽しんでいた。




「ストライークッ! アウト!!」


 柏木の歪んだ顔は、結局打席が終わるまで変わらなかった。古堂の球に合わせることができないまま三振し、9番錨にバットを託す。


(同級の暗黒世代ピッチャーだろ……打てないって思うことの方が問題だろッ!!)


 錨は初球からガンガン振っていくが、古堂のシュートも織り交ぜた投球の前に、バットにボールが当たらず三振する。


(最初からギア全開かよ……)


「よしっ!」

「中継ぎ緊急登板も問題なしだな……コドー!」


 1アウト1.3塁のピンチを、二者連続三振で何事も無かったかのように切り抜ける古堂。平然としているクロ高だったが、初巾高校側のベンチやスタンドの観客席はざわついていた。



「なんだあの18番……見たことあるか?」

「いや……全く……っていうか……まだ2年生?」

「凄いな……」


 ざわつく観客。その横で見ていた道中。


(ふん……古堂黎樹……春よりもまた一段と実力をつけてきた印象やったが……。コントロールか。エリアの投げ分けの意識がだいぶついとるな)

「ただでさえ伊東律斗っちゅう速球派の先発がおって、次にリリーフで出てくるのが左腕の古堂。鷹戸も控えていながら、新田が投げるかもしれないというプレッシャー。今のハッ高は、今……どうやって追加点を取るかについて悩んでいるだろうよ」


 金口が笑う。


「どういうことや? 恒ちゃん」


 猿渡が平田に尋ねる。


「……一見後手にも見えた絹田監督の交代策。あえてこういう場面で無類の強さを誇る古堂を持ってきてベストパフォーマンスを見せたことにより、あとに控える鷹戸、新田の存在感もにおわせながら……一気に初巾ペースに持っていかれそうなところを食いつないだってところだよ」

「……確かに……3点差がついたら終わってたやろな……」




 5回表は下位打線から。8番古堂、9番佐々木が凡退し、2アウトから今宮が打席に立つ。


(ちっ……運が悪いな……ノーアウトからだったら、どうとでもできた気もするが……せめて三人で終わらないよう、出塁してやるかッ!)


 柏木のカーブを打ち返す――センター前に打球が落ちる――かと思いきや、レイモンドが距離を詰めて、難しい打球を捕球して見せる。


「うおおおおおッ! レイモンドだ!!」

「……やるな……」


 このプレイで今宮はアウトとなり、5回の攻撃を三人で終えることとなった。


「ナイスプレイだレイモンド!」

「流れはまだこっちにあるぞ!!」


 レイモンドのプレイで、渡りかけた流れを何とかつかみ取る初巾高校。



 その回の裏、瀬田からの好打順で始まる。


「お願いします!!」


 瀬田が大声で叫ぶ。


(三振を取りに来るピッチャーなら、絶対にストライク先行だろッ!)


 初球から狙いに行く瀬田。打ち返す――が、ゴロになる。


「ファースト!」


 伊奈がしっかりと捕球し、1アウト。


(か、カットボールかぁ……ッ!)



 2番山田が打席に立つ。


(……とりあえず、先発を引きずりおろせたのはデカい……。問題は、こいつをどう打ち崩して鷹戸か新田かを引きずりおろすかってことだけど……)


 一つ考えて、直球狙いに絞った山田。


(伊東よりは遅いし、変化球よりは打てる)


 初球のストレートは見逃す。目前の古堂は、どこか淡々としている。


(あれ……こいつ……もしかして、こっからストレート投げない?)


 二球目のシュートを見逃したとき、山田はふと思った。そして投げられた三球目――ストレートに絞るという気持ちが揺らぎ、その古堂の左腕から投げられた141km/hのストレートを空振りしてしまう。


「は、はええ……侮れねえ」


 1.2番の凡退を目の前で見ていた白里虎次郎は次に古堂を見る。


(……初球打ちが一番有効か? だが、少しでもミスれば一気に向こうのペースか)


 後ろのバッターを見る。レイモンドが控えている。


(レイモンドさんに回せたら……2点は堅い。ってことは、俺はフォアボールでも良いから出ねえとダメだ)


 そうだ、と言い聞かせるように打席で構える白里虎次郎。


(初球からガンガン行くのは抑えて……粘って粘って次につなげるような一本を……)


 初球のストレートを見逃す。二球目のボール球も見逃す。1ストライク1ボールとなる。


(はん……珍しいんじゃねえの……ボール球なんて……ここは……次に来るカウント稼ぎの甘い球を!)


 3球目――ストレートを狙い撃ちする白里だが、タイミングが全く合わず空振りする。


(す……スローカーブ……!)


 大きく空振りした白里を見て、にやりと笑う金条。


(さあ、これでもう……こっちのもんだ!)



 4球目――低めの直球を空振りし、白里虎次郎を三振に切って取った古堂。


「うおおおお、またしても二者連続三振ッ!!」

「今日だけでもう4つ目かよぉおおおお!!」


 ベンチが沸き立つ。そして、その様子はスタンドへと感染していく。



「す、すげえ……」

「一気に流れ持っていきやがった……」


 クロ高ベンチもそれに驚いている始末――そこで声をかけるのは、今宮陽兵。


「翔馬、遊。ここがチャンスだ。俺たちに流れを持ってこられるかは、バッターの野手オレたちにかかってる」


「どんな形でも……出塁するよ」

「……せっかくコドーが作った流れなんだ。乗っかっていこう」


 そして……6回が始まる。


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