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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
7.県予選
174/402

第174話「決め球」

 先攻の鶴高校は、1番猿渡から始まる。エース道中は笑っている。


(いや……こいつは高めを打ち上げさせたい。足が速いから、構わず前来い)


 金口がボディを使って内野、外野に伝える。道中にもサインを出し、猿渡を警戒する。


(初球ストレートで良いッ!)


 高めのストレート――猿渡は手を出さない。ボール。


(走るストレートやなあ。ワイのこと、警戒してるんが伝わるわい)


(変化球は芯食らって長打を受けるのが危険だ。ストレートの力押しでいい)


 金口のリードは依然としてコースを突いたストレート。見逃す猿渡。1ボール1ストライク。


三球目もアウトローに来るストレート――ここも見逃す猿渡。1ボール2ストライク。


(よしっ、ここでインコースにカーブ……タイミング外すんが目的やから、外して!)


 金口のサインに道中はインコースにカーブを投げる。手が出せるようなボールではないが、猿渡はバントをする。


 コツン、と音がしてボールが地に落ちる。


「ファーストッ!」


 ファースト江ノ森がチャージするも、猿渡は余裕を持ったセーフ――俊足に驚く球場内。


「さすがやな……俊足巧打堅守が光るショート猿渡紋太……」

「いいよ桔平さん! 盗塁は任せて!!」


 金口は様子を変えない。


 二番小杉が打席に立つ。初球、ストレートを高めに外している――それでも走る猿渡。


(マジでするスポーツ間違えてるんだよッ!!)


 金口が捕球しようと腰を浮かした瞬間、一塁線ギリギリにバントを転がす二番小杉。


(はっ? バントエンドランだと?)


 意表を突かれて一歩目が遅れる金口。しかし、ここで道中がしっかりとチャージして球を拾う。


(猿渡はもしかして3つか!?)


 道中が身を翻してサードに投げる。しかしサード英賀は反応できずに弾いてしまう。


「セーフ!!」


 俊足の猿渡が一気に3塁に行き、ノーアウト1.3塁の状況を作り上げる。


(猿渡は還させた方が道中さんも投げやすいし、守備も迷わない。ゲッツーシフトで行こう)



 1点覚悟のゲッツーシフトを取る藤崎高校。3番岩清水がセカンド方向に打ち返す。


「よしっ!」


 セカンドの井口急人がしっかりと捕球し、ショートの井口翔人に投げる。しっかりと二つを踏んでアウトにし、一塁へと投げる。


「アウト!」


 ダブルプレーで一気に2アウト。しかし、猿渡が三塁からホームに還り、1点を手にした鶴高校。


「よぉし!! 良いぞ!」


 ベンチから平田が叫ぶ。


「1点を捨てた藤崎の選択……これが吉と出るか凶と出るかだが……」



 ここで4番北浦が打席に立つ。道中の初球スライダーを見逃す。


(2アウトランナー無し……さすがに初回からそんなにうまく行くとは思えへん……)


 道中はもう一度スライダーを投げる――北浦が打ち返す。左中間方向に大きな打球が飛んでいく。


「……おっ?」


 センター長永が打球を追う。しかし――気づけばフェンス際。


(クソッたれ……)


 ジャンプして手を伸ばす――が、打球はグラブよりも数m奥のフェンスの中へと入っていった。


「打ったあああああああ!!!!」

「良いじゃねえかうらあああ!!」


 4番北浦のホームランもあり、一気に2-0と突き放す鶴高校。対する藤崎高校のエース道中は思わず苦笑いする。


(マジかよ……やべえな……)




「いや……これまで鶴高校は、猿渡しかいないと言われていたチームだった。でも3番の岩清水や4番の北浦、ピッチャーの平田とか、白銀世代じゃない人らが確実に力をつけている。こりゃ強いよ」


 金条は唸る。


 しばらくお互いに無得点の状況が続き、6回裏。先頭打者は4番の道中。


(……ウチの打線はこいつのドロップカーブに見事にやられとる……。いかんで……俺が打つしかないんや)



「うおりゃああ!!」


 初球から闘志を込めてストレートを走らせる平田。道中は見逃す。


(あかんで……ストレート手出したくなるけど……ドロップカーブ叩いて1点取るんや。そうやないと……この試合落としてまうで!!)


 二球目のフォークを見逃す。1ストライク1ボール。


(フォークも持っとるんかい……クソッたれィ)


 三球目のストレートをカットする道中。次に来る球が、ドロップカーブだとは容易に予想がついた。



(やからこその……狙い撃ちやッ!!)


 平田のドロップッカーブに、打ち返す道中。ライトオーバーの打球が飛んでいく。


「小杉ッ!!」


 ライトが後退するが、取れない。フェンスに直撃する打球。二塁を蹴った道中。小杉が投げる――サードが捕球するが――


「セーフッ! セーフッ!!」


「しゃおらああ!!」


 道中が先頭のスリーベースヒットで出塁した。平田は汗をぬぐう。


「……さすが桔平くんや」


 金口が打席に立つ。一二塁間に打ち返し、道中をホームに返した。


「よしッ……とりあえず1点や」


(想定内想定内……道中に打たれるのも、そのあとの金口が堅実に一点を取りに来るのも)


6番江ノ森、7番片津を凡退させる平田。調子は依然として変わらない。



「やっぱり……平田君のドロップカーブは良いよね。俺にとっては……あれをスローカーブにしなきゃいけない……んだよなあ」


 古堂のつぶやきに、金条は強く頷く。


「……今日コドーをここに連れてきた理由は、そこに気付いてほしかったからなんだ」

「……なるほどね」


「コドーくんのスローカーブは……攻略難しいし……初見殺しの良い変化球だと思うけどね」

「決め球にするとなったらもっと精度上げたいなあ。球数増やしても見抜かれにくい感じにもしたいし」


 悩む様子の古堂。


「まあ……準々決勝まで多少の時間はあるから、焦っちゃだめだよ。なんせ、今のままでも県内では十分戦えてるんだし」

「十分……県内では……」


(古堂くん……そんなためこまなくても……)



 心配する小泉をよそに、古堂は黙々と試合を見ている。最終回に、平田のタイムリーで三点目を入れた鶴高校。


「こりゃ堅いな。鶴高校の勝利……」


 その回の裏に3者凡退で抑えぬいた平田。藤崎高校、道中桔平の夏はここで幕を閉じたのであった。


 鶴高校 3-2 藤崎高校



「福富商業と明誠の戦いは、福富商業が11点を取って勝利か……」

「……強かったな」


(8強が……出揃ったな)


 今日の4試合を終え、ベスト8が出そろった。



 第一ブロック覇者 黒光高校

 第二ブロック覇者 阿賀黎明高校

 第三ブロック覇者 秋江工業高校

 第四ブロック覇者 初巾高校

 第五ブロック覇者 鉄日高校

 第六ブロック覇者 鶴高校

 第七ブロック覇者 三浜高校

 第八ブロック覇者 福富商業高校


 次の試合は……2日後。明日の再抽選のあとに、対戦相手がわかる。


(どこと当たっても負けないようにしねえと)


 古堂は早くも意気込んでいた。


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