第173話「鶴VS藤崎」
昂大高校との試合を終え、ミーティングを行う絹田監督。
「鷹戸、肩の調子は大丈夫か?」
一度故障した経験がある以上、無理はさせたくない絹田監督。それでも、何とか今日は堪えてくれた方だ、と感謝している。
(高めに浮く球が多かった……肩よりも、下半身の疲労があるな……)
対する伊東は、調子も良さげで、コントロールやキレもまとまってきている。
「今日は伊東に助けられたな。そして、森下。ナイスバッティング」
「ありがとうございます!」
代打で結果を残した森下に、賞賛の声がかけられる。
「よく初球振ったよなあ」
「まあ、代打なりの思い切りの良さってやつが良い感じに出せたんだろ」
今宮や田中も評価していた。
「そして、大滝。今日の試合は忘れろ。次当たるベスト8の再抽選……場合によっちゃあいきなり鉄日と当たることだってありえるんだ。くよくよしていられないぞ」
「はい!(そうか……この後の第二試合が終わったら……8強が出揃う。いきなり鉄日と当たることだって……ありえる)」
少なくとも、新田の復帰までは負けられない。そう思ってやってきたクロ高の全員だったが、負けない、とは限らないという状況に、このとき改めて気づかされたのであった。
「そして、ここで一つ報告なのだが……新田が明日から本格的に練習に合流する。今週の調子次第では、準々決勝の登板も考えている所存だ」
「おおおっ!」
「新田さん!!」
全員が、新田の正式復帰を喜んだ。新田は照れながら笑っている。
「今まで迷惑かけて申し訳なかった! この2年半の恩返しをするつもりで……頑張ります」
「頼むぞ新田」
「やっと見れるのか、お前の化けモン変化球」
「あと精密コントロールもね」
新田の言葉に、今宮、田中、山口が応える。
(新田さんが復帰できる……良かった)
古堂も、どこか安心していた。しかし、同時に焦りも覚えていた。
(鷹戸も伊東さんも……この県予選で結果を残している……俺はどうだ? 登板数0……)
ここで、ばたばたした音がロッカールームの方から聞こえてきて、全員の視線が扉に向く。
「はぁ! 他3試合の結果が出ました!」
小泉が慌てた様子で扉を開ける。全員の目が見開く。
「どうだった?」
「まず、武里高校VS秋江工業高校……2-7で秋江工業の圧勝です」
「ほう……」
特別驚く様子を見せないクロ高ナイン。それもそのはず、秋江工業の強さは、自分たちが身をもって感じていたからである。
(そりゃそーだ。簡単に敗けるような相手じゃないよ)
(やるじゃねえか江戸川……大坂……)
「鉄日高校VS赤佐高校は、10-0で鉄日高校の勝利です。5回コールドでした」
「なるほどな」
これにも驚かないクロ高ナイン。
「そして、三浜高校VS市立松野高校は、6-2で三浜高校が制しました」
「意外と食い下がったんだな、イチマツ」
「明日の試合も気になるな……」
ふと呟く金条。そこで絹田監督がある提案をする。
「よし、明日はオフだ。練習が足りないと思う者は自主練習をして良い。が……今日確実に疲れが残っていると感じた者は、明日はゆっくり休め」
「……ってことは……試合を見に行くという選択もオーケー?」
「そういうことだ」
金条はほっとした様子を見せる。実は、個人的に気になるカードがあったのだ。
(鶴高校VS藤崎高校……ちょっと気になるんだよな)
翌朝、新田の携帯に、一つ着信が入っていた。
「ん……また黒鉄か……?
違った。
『今日ひま?』
(新井ちゃん……かよ)
しかしその数分後、黒鉄から相変わらずの煽りの含んだ着信が来て、新田は携帯の画面を一度切る。
(あっ……一応返信してやらねえとな)
返信を忘れていた彼は、再び画面を開いた――
「金条はどこの試合見に行くんだよ。全部?」
「……まあね。でも……一つ気になるところがあってね」
金条は古堂を連れて球場に来ていた。正直、古堂としては投げていなかった分練習したかったのだが、金条がそれを許さなかった。
「あっ! わかった。初巾が勝ち上がるか見たいんだろ?」
(それはだいたい上がると思うから良いんだけど……個人的に気になるのは、阿賀黎明とか、戦ったこと無いようなとこだったり……鶴高校と藤崎とか、どっちが勝つかわかんないところだったり……見ていて面白そうなところだよ)
「藤崎と鶴とか……下馬評だったら圧倒的に藤崎なんだろうけど……猿渡くんとかいるから、どうなるかわからんよな」
(そう、どちらのチームも道中と猿渡という唯一の白銀世代がいる。だからこそ……そのほかの選手の力量を見定めておきたいんだ)
金条なりに何か今日の成果を見つけておきたいと感じていた。
「あっ! 金条くんに、コドーくん」
「えっ……あ! 小泉ちゃん!」
小泉が歩いているのを見つけた金条と古堂。
(私服姿の小泉ちゃんかわいいな)
古堂が見惚れる小泉の見慣れない姿に、金条も苦笑いする。
「えっ、一人……?」
「まあね……誰にも練習呼ばれなかったし……今日は自主練習してる人少ないんじゃないかな?」
小泉の片手にはビデオカメラが握られている。
「あっ、撮影……今日の試合の偵察?」
「そーゆーこと」
働き者だな、と感心する二人。
「それじゃ一緒に見る?」
「ありがとー! どことなくか心細かったんだよね!!」
この夏の日差しを寄せ付けないような真っ白な肌の上に見せる笑顔に、古堂の心は完全に打ち抜かれていた。
第一試合、大利高校VS阿賀黎明高校が始まろうとしていた。
「大利高校は、一回戦、酒井農林に6-7の接戦で勝ってる。エースの上山くんを温存していることもあるし、打線もなかなか良い。けど、阿賀黎明高校は、去年ベスト8の鶴工業高校に対して5-4で勝ってる。やっぱり、堅守が持ち味の鶴工業に勝つってことは、打撃力が凄いのかな……? 勢いは凄いだろうね」
小泉の分析に、金条も唸る。
「阿賀黎明のエースは……秋藤俊介。124km/hとストレートは速くないけど、カーブとスクリューを投げる左の軟投派。2年生の暗黒世代エース……」
「対する大利のエース、上山将吉朗。直球は140km/hと速球派。コントロールはまずまず……だけど」
試合が始まる。大利高校のバッターは、阿賀黎明のエース、秋藤のボールにタイミングが合わない。
(ボールが遅いんだ……変化球も効いてるッ……)
「秋藤の決め球は……スクリューだな。やっぱり決め球を有効につかえるチームは強いよなあ」
横でぶつぶつ呟く古堂。
(ここにコドーを連れてきて良かったな……)
金条も、メモ帳を取り出しながら次々と気づいたことを書いていく。その横の小泉も、ビデオカメラを回している。
6回まで、両投手による無失点の0-0という投手戦となっていたが、7回の裏に、3番ピッチャーの秋藤がツーベースヒットで出塁し、4番レフトの木崎英二のヒット、5番キャッチャーの沖野圭介のスリーランホームランで3点を一気に取った。
「これは……阿賀黎明強いな……」
「終盤でのこの連打……効くよね」
そのままずるずると9回まで行き、最終回で大利が1点を返すも、秋藤の粘りのピッチングの前に続けず、1-3で阿賀黎明が大利高校を下した。
「しっかりと良いチームだな、阿賀黎明」
「エース秋藤が大した奴だよ」
「……でも、木崎くんと沖野くんのバッティングも良かったね」
第二試合も見る――初巾高校と小崎高校の試合。初巾の先発は3年生の阿佐間庄司。
「やっぱり柏木を温存するか……」
始まった試合だが、阿佐間のコースをついたピッチングの前に、小崎打線は完全に抑えられる。
その裏、一回からガンガン振りに行く初巾打線。先頭打者の白里虎次郎がいきなりホームランを打つ――
「えっ……マジか」
金条はダイヤモンドをかけまわる白里を見ている。
(スイングが洗練された気がする……)
2番ライトの瀬田成彦がセーフティをしかけ、サードのエラーを誘い、出塁する。そして、3番サードの大槻吉秀がレフト線に長打を放つと、4番のレイモンドがまたしてもホームランを打ち、4点を入れる。
「おいおいおいおい……バッティングやべえって……初巾」
「強豪って感じね……」
結局そのまま初巾打線は止まらず、8点を取る。結局そのままゲームは続き、コールド勝ちした――
「柏木も温存し、阿佐間もほとんど疲れていない……」
「やっぱり強力打線が健在ってところね……」
そして、3回戦――金条が注目する藤崎VS鶴高校の試合が始まろうとしていた。
「さあ、行こうや!!」
「間違いないよな!!」
道中の声に反応する藤崎ナイン。
「一回戦はロースコアゲームを制した。道中も完封勝利してるし、調子はかなり良いと思う」
金条の言葉にうなずく小泉。
「でも、鶴高校の平田恒太くんの調子もかなり良い。富野科学技術高校との試合では、3点取られたけど、9回まで粘りに粘って勝った」
「バッティングでも結果を残しているみたいだね」
「うん……普通に……白銀世代がいなかったら、って思うくらい」
先攻 鶴高校 オーダー
1番ショート、猿渡紋太。 2番ライト、小杉翔。3番ファースト、岩清水大河。4番レフト、北浦務。5番ピッチャー、平田恒太。6番セカンド、友岡夕貴。7番サード、古賀京一。8番キャッチャー、薙村祥太郎。9番センター、大内凌牙。
「1年生の3番ファースト、岩清水くんと、4番レフト、北浦くん。この二人の即戦力が打線の中軸を担ってる強いチーム。守備も猿渡くんを中心に安定してるから、決して弱くはないよね」
小泉はしっかりと調べている。
後攻 藤崎高校 オーダー
1番センター、長船永春。2番ショート、井口翔人。3番ライト、原田水。4番ピッチャー、道中桔平。5番キャッチャー、金口余介。6番ファースト、江ノ森大輔。7番レフト、片津瑛。8番サード、英賀淳。9番セカンド、井口急人。
「エースで4番の道中桔平はもちろんだけど、各バッターが各々の役割を果たすのが特徴で、確実に一点を取りに来るスタイルで、ロースコアゲームが特徴よね」
「……小泉ちゃんすげえ調べてるよね」
そして、一回が始まった――




