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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
7.県予選
171/402

第171話「変化」

 5回表――クロ高が手堅く3点を取る中で、昂大高校は連打で繋いで2点を返した。


 想像以上のシーソーゲームに、後半戦に突入しようとしている球場にも、盛り上がりが見られた。


「どうなるんだ?」

「これもしかしたらクロ高消えるんじゃ……」

「白銀世代がいないチームにか?」




 小林が打席に立つ。氷室の方を見ながら、しっかりと目を見開いていた。



 初球のストレート。アウトコースにきっちりと入った球を見逃す。ストライク。


(もう三巡目だし……打ちに行くのも悪くないか)


 二球目、低めに外したボール。これも見逃す小林。



「……(打ちに来ないのか)」


 武田のサインにうなずき、高めの釣り玉を投げる。小林はこれを打ち返す――


(ボール球だが……)


 レフト方向に打球が打ちあがる。しかし、大嶋の正面で打球は落ちる。


「ヒットだッ!」

「ナイスばってぃん!!」


 小林を讃える声。ベースの上でガッツポーズを取る。


「続けよ!」

「確実に一点!!」


 ネクストバッターは田中遊。本日既に二安打しており、期待がかかる。


(こいつは要警戒。初球からせめてもよさそうだな)


 インコースにスライダーを要求する武田。それにうなずく氷室。



「よしっ、もらいッ!」


 田中はしっかりとバントの構えを立てる。


 氷室の変化球をしっかりとバットに当て、三塁線に転がす。


「アウト!」


 一つはアウトになるが、しっかりと小林を二塁に送る。



「手堅い! ナイス田中さん!!」

「へっ……まあ、1アウト二塁……十分だろ。なっ、大滝!!」


 田中の視線の先には大滝真司が立っている。


(……いや、正直プレッシャーやばい……今日当たってないし……)



「確実に1点取ればいいからな」

「そうそう、シングルヒットで1点よ!!」


 ベンチから声をかけられるが、大滝は冷や汗を一つかく。暑さのせいでないことはどことなくわかっていた。



(変化球狙い……微妙に変化しているストレート……? どっちが良いんだ。氷室……玲也……れい……や?)


 何かを思い出した大滝。


(鉄松シニアに……熱川玲也っていなかったっけ?)



 どこか似ている球筋。同じサイドスロー。身にまとう雰囲気も心なしか同じに見えてきた。


 そう、準決勝でぼろぼろにされた鉄松シニアのエース、熱川玲也あたがわ れいや……今現在……大滝真司の目の前に立つ男、氷室玲也と同一人物である。



 やっぱりか、と大滝は諦めにも似た感情を抱いた。その時点で――今日の試合に、大滝に軍配が上がることは無かった。



 続く山口をセンターフライに抑え、5回表を無失点で切り抜ける氷室。その顔にも少し余裕が見えた。


「今日の俺……4番抑えてる。最高」

「間違いねえよヒムロン!」

「最高すぎ」


 勢いに乗る昂大高校。5回裏はそんな彼らの攻撃の番なのである。



 先頭打者の岩城が打席に立つ。鷹戸のストレートにタイミングを合わせているため、金条も警戒して外中心に外し気味に行く。岩城は、厳しい所はカットしつつ、粘ってフォアボールで出塁した。


「よしっ、良いぞ!」

「続け小坂!!」


 2番の小坂は、初球甘く入ったストレートをセーフティで転がす。三塁線ギリギリに転がす。反応が遅れた大滝。何とか送球するが、小坂は滑り込んでセーフになる。


「セーフ、セーフ!!」

「っしゃあ!!」


 小さな身体を起こして立ち上がり、ガッツポーズを取る小坂。ノーアウト1.2塁の状況が出来上がる。


「……いいじゃねえか」


 3番熊野が打席に立つ。先ほど打たれ続けた連打のシフトに、鷹戸もつらそうな顔を見せる。


(準々決勝以降の事もあるし、この回までだな)


 一点取られたら交代、と伊東に告げた絹田監督。伊東は強く頷く。


(鷹戸は次以降も投げてもらわないかん。古堂はここぞというときのために置いておきたい。となると、お前しか頼れない)


 熊野にライトフライを打たれ、ランナーが2.3塁へと進塁する。1アウトの状況である以上、内野は前進せざるを得ない。


(仕掛けてくるな)

(間違いない)


 内野陣はアイコンタクトを取る。そして、投手である鷹戸も、次のバッター、朝地のたたずまいを見て、どことなく察した。


(やれるもんなら……やってみろッ!!)


 ポップするジャイロボールを投げる。朝地はそこにバットを当てる。


(打ちあがるなよッ……)


 真っすぐ飛んでいく打球――鷹戸の足元でショートバウンド。強く跳ねる。


(ぐっ!)


 鷹戸が弾く――その間にホームに滑り込む岩城。


「ちっ! 一つだ!!」


 金条はすぐさま立ち上がり鷹戸に指示を出す。鷹戸が一塁に投げ、伊奈が捕球。アウトを取る。



「スクイズ決めたあああああ!!」

「同点だぁあああああああああ!!」


 5回の裏に、3-3の同点へと追いつく昂大高校。2アウト3塁という状況。打席には5番アダム。


「交代だ。伊東」

「っしゃあおらああ!」


 監督の声に大声で反応するのは伊東律斗。3年生のリリーフピッチャー。



「すんません伊東さん」


 鷹戸が珍しく謝る。


「おっ、珍しいな。もっと悔しそうにしろよ」


 伊東は笑う。


「……まだ同点。まだ5回。終わらねえさ。終わらせねえさ」


 11という、自分よりも一つ後の背番号に、少しだけまぶしさを覚えた鷹戸であった。



 伊東がマウンドに立つ。それでもアダムの表情は変わらない。


(鷹戸の方が十分怖いピッチャーだよ)



「アダム! 単打で良いぞ!!」

「叩きつけろ!! エラー誘うような速い打球で!」


(わかってますとも!!!)


 アダムが伊東の初球ストレートを狙う。しかし空振りする。


(あれ……鷹戸くらい速い……)


 二球目のインコースに入ったストレートに手が出ない。


(ぐっ……良いストレートだ……)


 そして三球目――アウトローに落ちていくフォークを振らせ、三振に切って取る。



「ナイスピッチ!!」

「伊東さんイカスー!!」



 同点に追いつかれても、追撃を許さない伊東のピッチングで5回を凌ぐクロ高。何とか援護したい打線だが、氷室のピッチングの前に、伊奈、伊東、金条と三者凡退して6回表を終える。


 しかし、その裏、伊東の冴えわたるピッチングが光り、昂大打線も抑えられていく。


 この投手戦が続き、気づけば9回まで来ていた――




「大滝――あのピッチャー、ナニモンか、知ってるんだろ?」

「えっ?」


 次の回の先頭打者となる男、伊奈に尋ねられ、大滝は沈んでいた首を上げた。


「お前が苦手としているタイプのピッチャーだってよくわかった。明らかにあいつのこと知ってそうな顔つきだったし、向こうのピッチャーも、完全にお前ってわかってるからこそのピッチングをしていた。誰なんだ? 氷室玲也ってやつは」


「……元々、熱川玲也っていうやつだったんだ。でも、名字が変わっていた。ピッチングは前のままだったけど……」

「まあ、なんかあったんだろうな。俺らの知るところじゃねえけど」


「……けど、叩くとしたら、シュート回転して甘く入ってくるインコース気味のストレート――ここしかない」

「オーケー」




(そうだ……4番が打てなくても、チームが打てれば良かったんだ……どうして俺は……そんな簡単なことにも気づけなかったんだろう)


 ベンチに座り、悔しさをにじませる大滝。9回表――気づくにはあまりにも遅すぎた。



(さて……俺の強みはなんだ? 変化球への対応力だ。活かせ……俺の武器を!)


 伊奈は厳しく入ってきたインコースのカーブをカットする。三塁線を跳ねる打球。アダムはしっかりと捕球するが、ファウルゾーンの上。


(いい守備するじゃねえか……昂大……しっかりつええチームじゃん)



(てっちゃんを中心に集まった昂大高校は……白銀世代を倒すためにここにいる! 全員が、己の野球人生に立ちはだかり続けた白銀世代のクソ共を倒すために……ここにいるんだ! お前ごときに打たれてたまるかッ!!)


 氷室のアウトコースのストレート。思った以上のスピードに手が出ない。


(くっ……サイドスローであんだけ出てたら十分だろ……)


 三球目のスライダー……外いっぱいを掠める良い球だが、伊奈はこれも食らいついてカットする。


(っし!!)


(クソッ!!)


 悔しさをにじませる氷室の目前で、確かに手応えを感じている伊奈。


 汗を拭き、武田のサインを見る氷室。


(こいつらに打たれてたら……また今宮たちを迎えなければならん……それは避けたい……)


 氷室は勝負を急いだ。インコースに投げたストレート。今まで丁寧に投げてきたストレートだったが、今回、焦りからか少し抜け、シュート回転していく。


(大滝の言ってた……狙い球ッ!!)


 伊奈は……この絶好球を、たった一度の絶好球を、しっかりとタイミングを取って、打ち返した――


 右中間へと飛んでいく打球。


「スバルッ!!」

「任したぞッ!!」


 ライト小坂はカバーへ行く。その代り、センター朝地が前へと猛ダッシュ。


(捕るッ!!)


 伊奈は一塁ベースを蹴った――全員の視線が打球へと注がれる。


(間に合えッ!)


 滑り込む朝地。しかし、打球はワンバウンドして朝地のグラブをすり抜けた。



(クソッたれッ!)


 小坂がカバーリングし、そのまま二塁へと送球する。鋭い送球を受け取ったセカンド鉄沢。タッチしに伊奈の足を目視した瞬間、砂ぼこりが舞う。


「セーフ!」


「しゃあ!」


 するっと立ちあがった伊奈がガッツポーズと共に叫ぶ。先頭打者のツーベースヒットに、勝ち越しムードを大にするクロ高ベンチ。


「いいぞぉ!!」


 ネクストから伊東が叫ぶ。代打を出すことも考えた絹田監督。しかしここは、伊東のことを信じた。


「1点でも取れば、あとはお前が抑えるだけで良い」

「はい!」


 伊東の太い返事に、絹田監督はそれ以上何も言わなかった。




(クソッ……どうしたらいい?)


 氷室はロージンパックをずっと右手で触りながら考えていた。この回、無失点で抑えないと、勝利は一気に遠のく。次の回のバッターが自分からと言うのが、一番の自信の無さの原因であった。


「おい、俺らは1アウトからだろーとツーアウトからだろーと点を返すぞ、玲也」と鉄沢。

「だから……ヒムロンはいつも通りでいいんじゃね?」と熊野。

「バッターのことだけ考えてろよ。裏のことは俺たちで何とかするからよ」と岩城。

「……任せたぞヒムロン」とアダム。


「とまあ……そういう感じだ! お前が投げるしかないんだぜ! うちはよ!」


 ホームから武田が叫ぶ。バッターの伊東。大きく息を吐く氷室。



(もう……親父しょうりに囚われたピッチャーじゃない。俺は、熱川じゃなくて……氷室だもんな)



 氷室は大きく吐いて、伊東に一球目を――投げた。


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