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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
7.県予選
169/402

第169話「点の取り方」

 一回表を無得点で終えるクロ高。昂大の確かな守備力にも驚かされていたところであった。


「守備は良いけど……バッティングはどうだろうな」

「小泉ちゃんの調べではかなり良いらしいけど」


 古堂と小豆がベンチで会話をする。先頭打者の岩城が打席に立つ。


(うひょお……向こうの先発背たけえ……あれで10番かあ)


 目前の鷹戸の放つ威圧感に、思わず腰が引ける。ストレートにタイミングが合わず、三振となる。


(ふん……俺たちは全国レベルの高校とやり合ってきたんだ。こんなところで負けるか)


 鷹戸に良い自信を与えた先頭打者の三振。二番小坂がセーフティバントをしかけるが、打ち上げてしまう。


「おーけ!」


 今宮がしっかりとフライを捕球し、2アウト。三番の熊野も三振に倒し、簡単に一回裏を終える。




 二回に入る。先攻のクロ高は5番の山口からだったが、氷室の緩急つけたピッチングの前に、初球のストレートを叩いた鷹戸以外ヒットがでず、4人で終える。しかし、守備では鷹戸のピッチングも冴えわたり、朝地の鈍い当たりによるヒット以外は完全に抑え、同じく4人で終わらせていた。


「あれ? クロ高と昂大いい勝負してねえか?」

「あの氷室っていうピッチャーどこのナニモンだ?」




「いやあ……いいじゃんねえヒムロン」

「……そうか?」


 嬉しそうに笑う氷室。三回が始まろうという所で、朝地が忠告する。


「二巡目の奴らは容赦ないぞ。気を付けろヒムロン」

「……だな」


(まあ少なくとも……今日の4番には、打たれる気はしねえ)



 先頭打者の佐々木を三振に倒し、1番今宮に打順が返ってくる。


(さあ……いよいよ二巡目……っていうわけだが、1アウト……出塁させたくねえなあ)


 今宮を見ながら、氷室は厳しい表情を見せる。


 対する今宮も、ここは緊張していた。


(さっきはフォアボールで1番の仕事をした。でも、今回は1アウト。一発打って流れを持ってこねえといけねえ)


 ストレートでカウントを稼ごうとする昂大バッテリー。しかし今宮が狙うのは、そのカウントを取りに来た球だった。


(アウトコース甘め! こいつをもらう!)



 狙い球――というより、狙い通りの球を打ち返してセンター前に落とす。今宮がヒットで出塁した。


「さすが……打率ナンバーワン男はちげえな」

「これは得点コースじゃないですか……小林さんが送ることさえできれば!」

 芝の声に合わせ、ベンチで林里が呟いた瞬間、小林が送りバントを成功させる。


「さすがすぎ……堅い仕事出来るぅ」


 ネクストの田中が笑う。


(さっきは正面の浅い所に打っちまったから刺された。次は間に打つ)


 意気込みも先ほどの打席とは違う。


(やっぱ黒光高校強ええな)


 氷室はロージンパックを右手でぽんぽんと跳ねさせながら白い粉を舞わせる。


 初球スライダーが要求され、投げる。見逃す田中。これはきわどく外れてボール。


(良い見逃し方しやがる……やっぱ堂々としてんな……)


 続いて投げられたのは、シュート。甘く入ったところを逃さない田中。


「うっ!」


 流した。ファースト熊野の頭を越え、ライト前に落ちる。


「今宮さん還れます!」


 三塁ランナーコーチを務めていた森下が右手をぶんぶん回す。


(オッケー!!)


 ライト小坂がライン際へと逃げるように跳ねる球を掴む。


(くっ、還られるかッ!!)


 カットに投げた小坂。ライン上にしっかりと入る鉄沢。田中は二塁へとオーバーランをするが、その送球を見て、脚を止めた。


(いい守備だな。ホームに投げるようだったら二塁狙ってやったのに)


 しかし、今宮がホームに還り、1点を先制するクロ高。ベンチに戻ってきた今宮を祝福するチームメイト。


「ナイスラン!!」

「いや、あのバッティングもえぐかったっしょ!」


「田中さんもナイスです!」


 ベンチから声を聞き、田中も小さくガッツポーズを取る。


(しかしまあ……まだまだこれからだよな。大滝が一発お見舞いしてくれれば……何とか出鼻はくじけそうだが……)



 4番大滝と対峙する氷室。4球目にして2ボール2ストライクと追い込む。


(厳しい所をさっきからカットさせられてる気がする。追い込まれても無いのに……んで、今追い込まれた……また厳しい所か?)


 大滝は焦っていた。このサイドスローの見覚えのある投法。自分にだけ本気を出されているかのような狐につままれた感触。芯をくらわない不思議な球筋。


(氷室ってやつ……絶対に俺は見たことあるはずなんだが……)


 そして投げられた五球目。高めの絶好球だが、なぜか打ち上げてしまう大滝。


「よしっ、おっけー!」


 センター朝地が手堅くキャッチし、スリーアウトとなった。


「ナイスピヒムロン!!」

「良いじゃねえか!!」




(氷室なんてやついたか……?)




 思い出すのは、中学三年生の時。湖畔シニアという強豪シニアに所属していた大滝。当時から4番を張ってはいたが、頗る調子は上がらず、評価されていたのはたまに出る一発だけ。そんな彼らのシニア最後の大会はベスト4という結果に終わるのだが、準決勝で敗れたのは鉄松シニアで、その時のエースが、氷室と同じサイドスローの軟投派だったのである。


(今まで……江戸川さん、柏木、高月さん、黒鉄さんと、サイドスローの球種絞りにくい投手に当たったことがあまりなかった。開盟の烏丸はアンダースローだったけど、球が遅いから逆に打てた……でも、サイドスローで球種絞らせないタイプ……そう、まさに氷室みたいなピッチャーは、俺がずっと苦手としていたんだった)


 大滝が過去の記憶にさまよっている最中、氷室も同じく中学時代の記憶を思い返していた。


(思い出すよ……忌々しき中学時代の時……君はあまりにも弱いバッターだった。4番であるにも関わらず……)



 三回裏、武田、氷室をアウトにする鷹戸。しかし、1番の岩城の目が早くも慣れたのか、粘られる。


「ふぅ……おいおい、変化球使わずに勝てると思ってんの? ストレートだけならさすがにタイミング合わせられるっつーの」


 笑いながらリードを取る金条に話しかける岩城だが、目は笑っていない。なんならむしろ、めちゃくちゃ頑張って食らいついていると言っていいくらいだった。


(こういう泥臭いところとか……割と俺好きだけどね!)


 スプリットを低めに投げる。すんでのところで手首を返さない岩城。


「ボール!」


 フォアボールで1番の岩城を出塁させる。


(変化球もしっかりと見逃せるとは……ここは三人ですぱっと切りたかっただけに、悔しいな)


 鷹戸の目を見ても、悔しそうなのが見て取れた。その悔しさをばねにしてか、2番の小坂は簡単に打ち取り、三回を終える。


「よしっ、先制点を取った回を確実に抑えられたのはデカい。確実に追加点を取って、差を広げるぞ」


 今宮の声に、この回先頭打者である山口は笑った。


「今回は相性悪くなさそう。一打席目はひっかけちゃったけど」

「あ、俺も苦手なタイプじゃないかもしれないっす」


 続く伊奈もそういうので、大滝は不安に駆られる。


(ってことはつまり……4番の俺が当たらないことが、脚を引っ張ることに繋がるのか)



 4回が始まる。山口がレフト前にヒットを打って出塁すると、続く伊奈がツーベースヒットを打ち、ノーアウト2.3塁を作る。


「よしっ、ナイスだ伊奈!」

「ワンヒットで二点だァ!」


 ここで、鷹戸が打席に立つ。


(こいつは打つな……どうする? 玄さん)


 氷室は武田のサインを待つ。サインはストレート。インコース。


(そうだよな……アウトコースの方が打たれる気がする)


 氷室は初球からインコースにストレートを投げ込む。鷹戸は打ち返す――が、引っかける。


(作戦通りッ!)


 ショート正面を跳ねる打球。しっかりと取る岩城。しかし、三塁ランナーの山口は、鷹戸がバットを振ると同時に走り出していた。


(スイングGO? 博打が過ぎるッ!!?)


 焦って送球をする岩城。キャッチャーの武田は少し逸れたボールを、身を挺して止める――その間に山口はホームに滑り込む。


(せめて鷹戸をッ!)


 武田の送球。しかし、鷹戸の方が一塁に早く到達した。


「セーフッ!」


(ショートのフィルダースチョイスか)


 鷹戸は冷静に一塁に佇む。しかし、しっかりと1点をもぎとった。


「くそっ! ホームに狙わず1コに投げれば良かったぁああああ!!」


 悔しがるショート岩城。しかし、ここはキャプテン鉄沢が制する。


「良いんだよ。お前はあれで。確実に一個を取るのは……俺の仕事だ」

「斗真さん……」



 続いて打席に立つ金条。氷室の変化球を初球見逃す。ストライク。


(ふぅ……監督のサインは無し。だったらここは僕から)


 鷹戸にサインを送る金条。頷く鷹戸。


(察してくれよ……伊奈ッ!)


 氷室が二球目を投げる。金条はバットを横に傾ける。走り出している伊奈と鷹戸。スクイズである。


(この場面でかよッ!)

サードのアダムは完全に反応が遅れている。

(バッターが自分からってッ!?)

 熊野もつまずいて反応できていない。


「クマ! ベース!!」


 ただ一人反応できていたのは、セカンドの鉄沢。一二塁間方向に転がる打球を素早くチャージして拾い上げる。


(4つは無理だッ!)


 すぐさま身を翻し、グラブトスの形を取って一塁にボールを送る。熊野がしっかりとキャッチしてバッターランナーの金条をアウトにする。


「よしっ! もう一点ッ!!」


 ホームに還ってきた伊奈。チームメイトとタッチを交わす。


(さすが強豪……。点の取り方が強い)


 黙りこくってしまう氷室。そこに寄ってくるのは、鉄沢。


「気にすんな!」


 背中を叩く音。びっくりして振り返る氷室。


「お前が野球を再び始めたきっかけを思い出してくれ!! こんなところで諦めて終わるためだったか!?」

「……」


 首を横に振る。にっこりと笑ってうなずく鉄沢。


「よし。じゃああと2アウト。頑張って取ろうぜ」


 鉄沢に鼓舞された甲斐もあってか、氷室のピッチングは切れを増し、9番佐々木を三振に、先ほど打たれた今宮さえもライトに打たせて取るという形で4回を終えた。


「うっしゃあああ! ナイスだぜヒムロン!!」

(さすがてっちゃんだ……2点とられ、三点差がついた状況からヒムロンを鼓舞するなんて)


 そして4回の裏――バッターは三番からという好打順。


「っしゃあ打つぞー!!」


 熊野が打席に立った。目の前の鷹戸に負けず劣らず睨む。


(俺たち昂大ナインは……てっちゃんと野球をもう少ししたいんだ!)

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