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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
7.県予選
161/402

第161話「そして夏が始まる」

「おかえり今宮先輩!!」

「お疲れ様です!!」


 全員がグラウンドに並んで、アメリカ代表との試合から帰ってきたU-18代表、今宮陽兵を迎える。


「なんでこんな盛大に出迎えてるんだよ」


 少し照れながら今宮は笑う。しかし中心に立っている小林を見て、真剣な表情に変わる。


「すまんな。大事な時期に」

「それどころじゃねえだろ、今宮」


 小林はどこか興奮冷めやらぬ表情をしていた。


「え? 何が……」

「アメリカ戦との活躍を見たプロのスカウトが……お前が練習に合流する今日、ここに見に来るんだよ!!」


「な……マジかよ!!」




 その前の日、アメリカ代表との試合をしていた今宮らU-18日本代表。今宮は2番セカンドとしてスタメン出場を果たしていた。エースは黒鉄。アメリカ代表の超重量打線を5回まで1失点に抑える活躍をし、茅場に交代。茅場もヒットを許しつつもピンチをしのいで9回まで1失点で終えていた。


 しかし、それよりも注目するべきは打撃であった。先頭打者の芳賀山の出塁を今宮が送り、レイモンドがツーベースヒットで1点を取るのを皮切りに、クリーンナップの連打が炸裂し、初回から3点が入っていた。その後も今宮もヒットを打ち、最終的には5-2で試合を終え、日本代表の圧勝と言う形で親善試合を終えたのである。


「今宮さんのミート力と守備力、小技を確実に決める器用さはプロ注目らしいっす」

伊奈が恐る恐ると言った様子で告げる。


(明らかにみんな緊張してんな……)


 絹田監督からの連絡も終わり、練習が始まるクロ高。トレーニング室へとゆっくり歩いていく新田を見ている今宮。


(こいつの復帰ももうすぐだが……ちょうどその頃が予選が始まるとき……)


 そこへやってくるのは、古堂黎樹。二年生のピッチャーである。


「今宮先輩!! どうでしたU-18!」

「あ、ああ……黒鉄とかやばかったぞ」

「やっぱそうですよねえ……アメリカ代表と投げ合って1点ってやばすぎでしょ……。地村さんとかどうだったんですか?」

「地村は出てねえ。明徳の三好がファーストだ」

「明徳かあ」



 古堂はどこかあっけらかんとした様子だ。他のメンバーたちは明らかにプロのスカウトが来ると聞いて緊張している様子であったために余計な緊張をしている。


「新田さん、今まで以上に気合が入ってます。ケガを焦ってる感じはしないんで、安心しても大丈夫だとは思いますけど……すごいことになって帰ってきそうです」

「……そうか」


 新田のことを一番見ていたのは古堂だったのか、と今宮は気づく。


「まあ、コドーや鷹戸に頼ることも多くなると思う。すまないがよろしく頼む」

「新田さんの引退試合がアレなんて、詰まらなすぎるので……絶対に勝ち続けます」

「それはお前だけのセリフじゃないから」



 今宮も合流した中で練習が始まる。


「絹田監督。おはようございます」

「おはようございます」


 プロのスカウトがやってきた。


「どうも……プロ野球チーム、ソルジャーズのスカウトをしております、遊佐慎一ゆさ しんいちと申します」

「黒光高校で体育教師及び野球部の監督を務めております、絹田幸二郎です」

「今宮くんを今回は注目してきたんです。しかしですねえ。武石さんから聞いた話によると、新田くんという面白い投手がいると聞いてましてね」


 遊佐の興味は今宮だけでなく新田にも向いていた。しかし、絹田監督は咳ばらいを一つ。


「新田は今故障中でして……そちら様の期待にそえるような状態ではないのです……」

「そうですか。まあ、今宮くんだけじゃなくて新田くんにも声をかけておきたいですね。室内トレーニング場向かってもよろしいですか?」




 室内トレーニングでは、投手がフィジカルトレーニングをしているところだった。


「そういえば……今日来てるソルジャーズのスカウトって……去年森下さんに声かけてた人だよな?」


 伊東がリストを鍛えながら呟く。それに新田が応える。


「ああ、そういえばそうだった気がする。今二軍で頑張ってるんだよな」

「郷田さんは何してるんだろ」

「さあ……確か甲子園行ったときにレックスのスカウトから名刺もらってた気がする」

「レックスかあ……あそこだったらワンチャン来期から一軍ありえそう」

「確かに」


 鷹戸と古堂と小豆は1年生の井上らと共に黙々と体幹トレーニングを繰り返していた。


「3……2……1……終了です!」


 1年生マネージャーの神原初奈のストップウォッチの計測に従いながら30秒間体勢をキープするトレーニングを行っている。1年生はこの辛さにのどの奥から震える声を出して叫んでいた。


「しんどい……毎日こんなトレーニングしてるなんて考えられねえ……」

「もう5月下旬だしね……いよいよ本格的にウチの練習に慣れていってもらわないと」


 小豆がなんとない様子で笑う。細身の身体からは想像もできないほどに腹筋は鍛えられており、シャツで汗をぬぐった瞬間にアンダーシャツの上からでもわかるくらいの6パックができていた。


(小豆さんすげえ)

(何気に二の腕とかもしっかり鍛えられているし……コドーセンパイは肩回り何気ごついし……鷹戸さんは文句なしにマッチョだし……みんなやべえよ)


 驚いている1年生投手の呉井という男。その隣に立つ井上は汗を拭きながらもう一度座りなおす。


「次のセット行きましょう」

「おっ、将基もやる気満々だな!!」


 古堂は笑いながら隣に座る。鷹戸、小豆そして呉井とぞろぞろと座り込む。


「次は両足と肩を浮かせてV字キープ……えっと20kgの重りを持ち、1kgの重りを足首に乗せて1分間キープです」

「うぉい!!」



(なるほど……クロ高のピッチャー陣は気合が入った連中ばかりだな)

トレーニング室に入ってきてスカウトの遊佐が抱いた感想はこれであった。


(新田くんも故障中だというのに上半身を中心に余念のないトレーニングを積んでいる。面白いね)



 そして――夏大会を一か月前に控えた日、新田は病院に来ていた。主治医の若い先生がカルテを見ながらボールペンで何やら色々書いていた。


「うん。偉いね。ちゃんと安静にしていたのか」

「はい」

「経過は良好。1か月後には運動を再開しても大丈夫だよ」

「あ、ありがとうございます!」


 医者の笑顔に、新田もつられて表情が明るくなる。すぐに監督に連絡を入れた。


『経過は良好で、一か月後には運動を再開しても大丈夫だそうです。1週間あれば元の調子に戻せます』


 このメッセージを受け取った絹田監督はほっと胸をなでおろす。彼の手元には、オーダー表が書かれていた。


(来週の土日に最終選考を兼ねた紅白戦を行うわけだが……ベンチ入りできるのは18人。春から二人減らさなければならない……)


 そのことを考えながら、紅白戦のオーダーを考える。


(Aチームは春大会のレギュラーを中心に組むか……)


 非常に頭を抱えている様子の絹田監督の元に、一つの連絡が入る。黒光高校の理事長、黒光昭次郎くろみつ しょうじろうからであった。


「こんにちは。どうしました、理事長」

『こんにちは絹田監督。……いえ、今年も甲子園の予選が始まるなと思いましてね』

「はい。ただいまも、選手はトレーニングに精を注いでいる時です」

『うむ。今年も優勝期待しているよ。なんてったって、去年の盛況っぷりは凄かったからね。プレッシャーをかけるつもりは無いんだけど……やっぱり私立だとさ……ね?』

「はい。重々承知です。そして、選手はもっと上を目指していますので、その程度のプレッシャーは気にしないことでしょう」

『ははっ、頼りになるね。ま、気負いすぎず、よろしく頼むね』

「はい」


 電話を切る理事長。大きく息を吐く絹田監督。再び机の上のオーダー表と向かい合う。


(さて……どうするかな)




 この時期になると、他校も夏を目指して練習にさらなる勢いが生まれ始める。


「よっしゃああ!!」

「ばっちこいやあ!!」


 大声で練習を盛り上げるのは――秋江工業高校の白銀世代、江戸川と大坂。ノックを打つのは、暗黒世代の捕手、万賀翔平である。


「はいセカンドッ!!」


 鋭く打球が跳ねるが、セカンド上月練也は巧くバウンドに合わせ、打球を捌く。


「うおしっ!!」


 大きな声に伴ってガッツポーズを取る上月。自然とチームも盛り上がる。


「ナイスプレイじゃねえか!!」

「これは……去年よりいい所狙えるんじゃねえの!?」


大場や里田などの三年生もチームを引っ張っていく。


(しょうみ……江戸川さんと大坂さんのいる今年が一番甲子園に近いだろ……勢いで言ったらクロ高や鉄日、ハッ高にだって負けてねえ)


 万賀も強い気持ちをノックバットに乗せ、鋭い打球を打っていく。そんな光景を見て、紅葉監督も手応えを露にする。


(江戸川中心のチーム……まさかここまで完成されるとはな……狙うぞ。甲子園。狙えるぞ……)



 そう、夏の甲子園予選まであと一か月。この日もまた、今年の最高気温を更新した。


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