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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW
156/402

第156話「夢のような時間」

「おおおおおおお!!!」

「よっしゃああ!!」


 ホームを踏んだ佐々木がベンチに走ってくる。それを全力で迎えるクロ高メンバー。


「佐々木ナイスバッティングだったぜ!」

「それよりも……田中さんだろ……ナイスバッティング!!」


 古堂と伊奈が佐々木を祝福しつつ、田中を讃える。


(新田ァ……いいチームだぞ。クロ高は。練習試合でこんなに熱くなれるんだ)


 伊東は佐々木とハイタッチをしながら、塁上にいる林里、今宮、田中に指示を出す。


「お前ら足はええんだから帰ってこい! 大滝は一発ドカンと出す気持ちで行け!」



 勝ち越し点を挙げたことにより、勢いに乗ったクロ高。この勢いに乗りたい大滝。


(小林さんも田中さんも、山口さんも……みんな力の抜けた綺麗なスイングを意識している。力まない。インパクトに集中して――――)


 大滝も初球を打ち返す。逆方向に大きく飛んでいく打球。


「うおおおお!!」


 少し深めに守っていたライト原が後退して打球を捕る。フライアウトになる大滝。


「ナイス原!!!」

「やるじゃねえか!!」


 悪い流れを切った原。桐陽ベンチが讃える。


「松下サン!! ナイスピッッス!」

「助かったぜ、原ァ!!」


 松下とハイタッチを交わす原。


「勝ち越されましたが、裏の攻撃が残ってます。それにずるずるいかずに失点1であの状況を切り抜けられたのはデカい。松下サンの集中力と、原のナイス守備に助けられましたね」


 村松が円陣の中心に立って話す。


「かけちゃん、ピッチャー代わるっぽい」


 塚岸が、9番バッターの工藤駆に話しかける。


「右のサイドスロー。見た感じ球はだいぶ遅いから、しっかり待って打つんだヨー」


 塚岸が軽く肩をぽんぽんと叩き、工藤を打席に送り出す。



(ここで11番じゃなくて……ブルペンのさらに一個奥の方で投げてたあいつを使うって言うのがちょっと意外だな)


 塚岸の視線の先には、背番号19番、小豆空也が立っていた。




「Aの試合じゃあ初登板か」

大滝が笑いながら話しかける。


「まあね……でも、今日の為にずっと準備はしてきているから、大丈夫だよ」

小豆は緊張しつつも、どこか清々しい表情だ。


「まあ気楽に行こうぜ。アピールタイムみてえなもんだ」

田中は肩をぷらぷらさせながら言う。きっと緊張をほぐそうとしているのだろう、と小豆は笑う。


「鷹戸や古堂が蓄えたモン、存分に食い散らかせ」

今宮の言葉。


(速い球。左からの独特の球。そして右のサイドからの遅い球。三人の投手のそれぞれ違う持ち味。コドーの球や鷹戸の球に見慣れたバッターたちを翻弄しろってことか……)

自分なりに納得する小豆。落ち着かせるように深呼吸をする。


「俺らがついてる。中学の時思い出して、思いっきり楽しんでいこうぜ。少なくとも俺は、久々のお前のバック守んの楽しみだ」


 伊奈が笑いながらグラブタッチを求める。無言でそれに応える小豆。



(楽しんでいこう……せっかく今宮さんたち三年生で野球ができる機会なんだ)



 先頭打者は工藤。


(先発の速い球も、中継ぎの左の球も全くダメだったけど……遅い球なら打てる練習してきてんだよ!!!)


 工藤は初球から打ち返す――が、芯を外される球。


(いきなり変化球!?)


 緩く曲がったスライダー。セカンド今宮が打球の正面にばっちり入ってファーストに。ファースト伊奈もしっかりと捕球してアウトにする。


「よしっ、1アウト!!」

「いいじゃねえか。それでいいんだって小豆!!」

「落ち着いてんな!!」

「いいぞ。それでいい」


 内野陣からの声掛けに、どこか肩の荷が下りた小豆。


(良い。調子はバッチリ。アップも完璧。あとは、全身全霊で楽しむだけだ!)



 1番バッターの中島は、凡退した工藤を一瞥し、声をかける。


「どうやった?」

「緩く曲がるッス。だいぶ遅いんで気を付けた方が良いっす」


(ふうん……遅い球か……。鷹戸の球に慣れてしまってる以上、警戒するしかないやんなあ)


 中島は打席に立ち、小豆を見据える。


(全国レベル……しかも強豪の一番バッターが相手――クロ高で頑張ってなかったら叶わなかった勝負――)


 小豆は初球を投げる。外に落ちるフォーク。見逃す中島。これはボール。


(変なフォーク投げるなこいつ……まあサイドスローだし、一応警戒しとくか)


 二球目、内に切り込んでくるスライダー。カットする中島。


(じっくりタイミング合わせに行ってるなあ……このままじゃ仕留められるぞ……)


 金条はストレートのサインを出す。アウトロー。小豆はゆっくりとうなずいて、構える。


(行くぞッ!)


 投げる小豆。中島は、タイミングを合わせ、振る。


(!?)


 それでもまだスイングの方が速い。タイミングが取り切れていない中島。少し呼吸を落ち着かせる。


(……ほぉ……)


 どっしりと構える中島。追い込まれてはいるものの、出塁狙いの単打の構えでないことは、容易に察しがついたバッテリー。


(低めにフォーク……空振りを狙う)


 ばっちりとコントロールされたフォークを投げる小豆。中島は低めでもしっかりと振りぬく――が、打ち上げる。


「これなら取れるよー」


 センター山口は落下点に入り、中島をアウトにした。


「よっしゃ! 2アウトじゃねえか!!」

「やるやん! 小豆やるやぁん!?」


 伊奈と田中が小豆を盛り立てていく。


(よし……通用してる……!)



 金条も手応えを感じたところで、バッターは村松。打席に向かう前に、中島に声をかけられる。


「ファーストストライクでタイミング取れ。お前はセカンドストライクを待って打て」

「なるほど。そんなに遅い球なんですね」

「ああ。さっき速かった分が相当厄介だ」



 村松が打席に立つと同時に、小豆は構える。


(なるほど……テンポでガンガン押してくるか)


 初球はインコースにストレート。ストライクになる。


(コントロールは良さげ……ってことは、追い込まれるとちょっとまずい)


 二球目は低めに外れたスライダー。見逃す村松。


(なるほど……さすがにこの捕手のリードは慎重か)


(何で2アウトで……ラストバッターになるかもしれないっていうのに堂々としてやがるんだこのバッターは)


 三球目……フォークを投げるが見逃す。


(セカンドストライクをしっかりと仕留める)


 四球目のアウトコースに来たスライダー――これを打ち返す村松。


(しっかりと待って……流すッ!!)


 意識して流す打球も、センター方向に飛んでいく。


(あら……普通にナイスバッティングや)


 山口と小林の間に落ちる打球。拾い上げるのは山口。しかし、村松は二つを狙っている。


(クソッ!)


 山口が送球し、今宮が二塁ベース上で滑り込んでくる村松をタッチする――も、脚が入る方が速く、セーフになる。


「よしっ!」

「ナイス村松!!」

「見せたぞ、強豪の意地!!」



 このピンチに、バッターは三番浦部。金条はタイムを取って内野陣を集める。


「小豆……勝ちを意識するぞ」


 金条からのプレッシャーのかかる言葉に、小豆は首をゆっくりと縦に振る。


(鷹戸にも、コドーにもこんなこと言わねえのに……なんで小豆にはこんなに厳しいんだ金条のやつ?)


田中は少し訝しむが、金条はくるりと背中を返す。


「ま、あんまり緊張するなよ」

「だな。お前の持ち味活かしていこう」


 田中と大滝がそれぞれ言葉をかけてショートとサードの守備位置に戻っていく。そこで、今宮が遅れて声をかける。


「お前がAチームの試合で投げるの初めてだから、金条はあえて厳しいこと言ってる。Aチームで投げるっていうことは、それぐらいの覚悟じゃねえとダメってことだ。お前は、ここを無失点できっちり抑えて、その覚悟があるってことを、監督やチームメイト、見てるやつら全員に伝わるプレイをすればいいってだけだ」


 にっこりと笑ってセカンドへと戻っていく今宮。最後に伊奈が小豆の右肩を叩く。


「お前はプレッシャーに意外と強いからな。万賀相手にしてると思えば大概のやついける」

「そうかもね」


 伊奈の冗談に小豆も笑い、タイムが終わる。



「逆転負けを二回もする気分はどんなんだろーな」


 浦部は金条に向かって呟く。


「知りたくも無いですね」


 金条は不敵にインコースに構える。ストレートが走る。空振りする浦部。タイミングがまだボール二つ分ほど早い。


 二球目のカーブ――初見の変化球。この試合でも投げるのは初めてである。しかし、浦部は打ち返す。


 鋭い打球。芯を食った快音が響く。


「!?」


 引っ張った打球は一塁線へ――ギリギリを抜けるかと思われた打球だったが、ファーストミットが横から飛び出してきて、打球をその中へ収めた。


「ん……な」


「っし……」


 ユニフォームを真っ黒にしながら伊奈は立ち上がり、打球の収まったグラブを高々と上げた。


「アウトォ!!!」


 この瞬間、黒光高校の勝利が確定した。



「よっしゃあああ!!!」

「やったぞ小豆ィ!!」

「ナイスだ伊奈ァ」


 黒光高校 6-5 桐陽学園


 黒光高校が、僅差で勝利をおさめ、この合宿の全試合を、3勝1敗1分という結果で終えるのであった。


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