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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW
125/402

第125話「攻撃的」

 振りぬいた木口の打球は、少し詰まっている。しかし、強く古堂の足元を跳ねる打球。


(ぐっ!)


 古堂がグラブを伸ばすが届かない。ショート林里とセカンド田中の間を打球が抜けていく。


(逸らさないッ!)


 センター嶋田は打球をしっかりと受け止める。ランナーの四方、木口はそれぞれ1.2塁。


「ランナー1.2塁……ここで月守か……」


 ベンチにいながら、小豆と井上は息を呑む。しかし、一番緊張するであろう古堂は、にやりと笑っていた。


(古堂先輩……どうしてそんなに笑ってられるんすか……)


 井上もつられて口角が上がる。バッターの月守は、そんな古堂の様子に対して無表情である。


 金条も息を大きく吐いている。


(コドーがあんなに楽しそうなのに、俺が緊張してどうする……)


 右打席に立つ月守。


(徹底してるなあ……でも、利き手じゃないのに右で良いのか?)


 インコースに詰まるように入ってくるカットボール。見逃す月守。


「ボールッ!」

(厳しすぎたな)


 金条は笑いながら返球する。


(今のところ手を出さないのは……選球眼はすさまじく良いな……)


 金条が月守を一瞥するが、月守は相も変わらず無表情を貫く。


(アウトコースにシュート……振らせよう)


 ストライクゾーンギリギリに入るシュート。逃げていく球だが、しっかりと振りぬく月守。しかし……


(思ったより抜けるッ……!)


 バットの先に当たったボール。一塁線方向を弱弱しく跳ねる。


「龍ッ!」


 森下が打球を拾う頃に田中が呼ぶ。すぐに投げる森下。田中が送球を受け取り、二塁ベースを踏む。


「アウト!」


 すぐさま一塁方向へ投げる田中。カバーに入った古堂が受け取るが――


「セーフッ!」


 月守の滑り込みの方が速かった。



(まッ……打ったら終わりじゃない姿勢だな。評価しよう)


 乾監督は顎をさすりながらネクストバッターを見ている。


(まあ、打てる日と打てない日があるし、打席によってもまちまち。鍛えるべきはバッティングよりこういうときの意識。チャンスを無駄にしない力……さあ、問われるぞ泉中。お前ができることはなんだ?)


(チャンスで一本出せるバッター。乾監督に一番評価してもらえたのはここだ。こういう場面で回ってきたこと……ちょっと嬉しいな)


 しかし、泉中の元に投げられる球はいきなりスローカーブ。アウトコースいっぱいに、滑り込むように入ってくる球。


(う……厳しい)


 そして、二球目、内角に切り込んでくるカットボール。


(ふんッ!)


 引っ張る泉中。打球は三塁線を大きく超えて跳ねる。


「ファウル!」


(タイミング……)

泉中は苛立ちを見せた。


(カット上手いな……)

古堂は泉中の技術に感服していた。


(それじゃ、低めに一球、カーブ外しとくか)


 金条のリードにうなずく古堂。


(こいつは、遊び玉一切なく決めてくる……ってことは……次は、シュートかインローにストレート)


 狙い球を決めた泉中。古堂のリリースを見ながらしっかりと構える。タイミングを取って、バットを振りぬいた――


(え?)


 ボールは、泉中の予想以上に来ない。当然の如く空振りした泉中。低めに外れたスローカーブ。三振である。


「ストライークッ!!」


「……くっそッ……」


 悔しそうに打席を去る泉中。監督と目が合って、気まずそうに視線を逸らした。


「犠牲フライでも十分だったんじゃないのか? デカいの狙ったのか?」

「……自分は、チャンスで一本出してチームを盛り上げたかったんです。同じ追加点でも、ヒットで1点と犠牲フライの1点じゃ、訳が違いますし、アウトカウントだって……」

「でも、お前はそれを狙った結果、一番やっちゃいけないことをやってしまった」

「……はい」


 乾監督の言葉が胸に刺さる。


「……状況判断だ。小さなプレイでも、お前なりの考えが見れたなら俺は満足だ。チームを思ってのプレイならなおさらな。ま、ボール球を振っちまったのはいただけねえ。相手に勢いづかせてしまうだろ」


「……はい」


「まあ、守備ミスんなかったらノーヒットでも全然いい。クロ高で一発あるのは大滝と5番の一年生くらいだ。まだ6番がわかんねえけど。ヒット打てる練習をしてるのは間違いなく俺たちの方。お互い打てないときはあって当然。だったら、するべきことはなんだ? 迫田」

「ノーエラーノーミスで守備を切り抜けること」

「そうだ。泉中も迫田も、守備でミスするなよ」


「はい!」


 本日未だノーヒットの二人は大きな声で返事した。


「……でも、お前は打ってもらわなきゃ困るぜ。本日1エラーの、赤河くんよ」


 小さな声で呟く乾監督。赤河は打席へとゆっくり向かっていた。



(オーラあるな……こいつ)


 金条は打席に立った赤河を見ながら思った。


(簡単な打球でエラーしちまうようなやつだけど、一打席目の流し打ちは本当にうまかった……)


 赤河を警戒している様子の金条は、初球、インコースのボール球から中へ入ってくるシュートを要求。


(デッドボール覚悟ってか!)


 古堂は、厳しい球でも嬉々とした表情で投げ込む。あまりの厳しい球に、思わず仰け反る赤河。


「ストライークッ!」


(!!? 入った……のか)


 不敵に笑う赤河。


(今のインコースの球見せられて笑う奴がいるかよ……)


 サードの大滝は赤河の放つオーラに、思わず同じものを感じ取った。


(お前も……バッティングだけを頼りに生きてきたんだな)



「さあ、打てよ赤河。普段出れない分大暴れしてくれねえと、俺もやってられないからな!!」


 乾監督がいつになく大声を出す。


(ふん……良く言うぜ。打ったって守備でノーミスしない限り使う気無い癖によ)


アウトコースに投げられたスローカーブは見逃す。しかし、ギリギリに入ってストライクとなる。


(ふん……小賢しい)


 完全に、彼の狙いはインコース、と判断した金条。


(もう一球同じので良い)


 古堂はまた、アウトコースにスローカーブ。これはボールになる。


(ありゃりゃ……ここは外したくなかったな……)


 悔しそうに歯を見せながら金条の方を見る古堂。少しばかり、赤河のオーラに気おされている部分はあるらしい。


(アウトコースこんだけ意識させられたらオッケーだ。最後、インコースにお前の全力ストレートをお見舞いしてやれッ!!)


「どりゃあぁッ!!」


 古堂は腹の底から声を出してストレートをインコースに投げ込む。少し高めに浮いて甘くは入ったが、ノビは決して悪くない。


「(良い球ッ……)ナイスボ――」


 金条が絶対にキャッチャーミットに到達すると思った球は、そこにはなかった。そこにあったのは、フルスイングをし終えて、まっすぐ前を見ている赤河の姿だけ――


「……やっぱり野球はこうじゃねえとな」


 ゆっくりと、一塁ベースへと向かう赤河。スリーランホームランで1-4と一気に差をつけた鉄日高校。対するクロ高は、その打球に戦慄していた。


(打球速すぎて見えなかったな。スイングも凄かったし)

打者として、素直に尊敬の念を向けているのは伊奈。


「大丈夫だ古堂。俺たちだって、黒鉄さん相手じゃあねえんだ。点はもっと取ってやれる」

「わりいなコドー。リードミスっちまった。でもいい球だった。甘く入ったのはよろしくないけど」


 励ます大滝と、辛口の金条。


「……わかってる。とりあえず、ココ。ぱぱっと締めよう」


 古堂自らタイムを終わらせる気だった。金条は、彼の左胸にキャッチャーミットをとん、と当てた。


「もっと俺たちを頼って良いんだぜ」

「……ああ」



 すぐに切り替えた古堂は、次の迫田を三振にし、なんとか守備を終えた。



「ナイスバッティングだったぜ栄介」

「……ふん、これくらいしねえとお前ら納得しないだろ」


 宮城に言われて少し鼻が高い赤河。


「……俺だって、ただ漠然とバット振ってるわけじゃアねえんだよ。結局点を取れなきゃ野球は勝てないからな。監督は守備できねえやつ使わねえって言ってるけど……。俺はそんなところでもレギュラー取れるくらい……打撃磨いてやる」


(殊勝な努力なこった……そんなことしなくても、秋になったら間違いなくレギュラーだろ。俺や月守差し置いてクリーンナップなんて普通にありえるぞコイツ……)

(うかうかしてられないな……外野転向されたらレギュラー取られそう)


 木口と泉中はひやひやする思いだった。


 7回表、嶋田が打席に立つ。


(読み合い……読み合い……)


 大滝らの言葉を思い出して読み合いを意識する嶋田。初球の高めのボール球を見逃す。二球目、アウトコースのスライダーと、ど真ん中のカーブも見逃す。


(さあ、追い込まれてからだ。相手は鉄日高校のリリーフを任されるようなピッチャー。かたや本日ノーヒットでタイミングが合ってない、なおかつこの打席一度もバットを振ってない男。ストレートで勝負を決めに来るのが自然。でも、迫田さんがそんなリードするだろうか?)


 自分の読み合いに少し自信のない嶋田。しかし、彼は開き直る。


(俺の栄光時代を思い出せ。読み合いなんかしなくても打ってたあの頃を……)


 インハイに来たストレートを、タイミングを合わせて打ち返す嶋田。レフト方向に打球が飛ぶ。レフト泉中の守備位置は絶妙だったが、打球が風で押し戻される。


(!?)


 ショートバウンドになった。ヒットだ。しかし、泉中は打球を逸らさない。


「ヒットか……」


 泉中は悔しそうにファーストベースを見ている。


(確か同じ中学の……あいつはシニア。俺は野球部。親交があったわけじゃないけど、打つって噂は聞いてたな)


 金条が手堅く送りバントを決め、1アウト2塁のチャンスを作るクロ高。しかし、打席には古堂。


(代打出す? いやでも監督はコドーがどこまで通用するか見たいでしょ)

(小豆や井上にチャンスやってもいいと思うけど、どうせGWからの連戦でそれは見れるか。今は、この試合をどうするか……だし)


 結果、打席には古堂がいく。続投だ。もちろん、闘争本能むき出しの宮城のピッチングに対し、バッティングは素人の古堂が打てるわけもない。三振に倒れる。

「くっそー。頼む塁!」


「まっ、コドー先輩はピッチャーなんすから、無理に打ちに行ってケガとかだけはやめてくださいよ」


 田中が打席へと向かった。


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