第122話「配球」
一回表の黒光高校の攻撃が終わり、裏、鉄日高校の攻撃になる。
「みや、ナイピ」
「センキュ。尋、レイはストライクガンガン取ってくるから、初球から甘いとこ逃すなよ」
「おーけー」
1番打者、沢口尋が左打席に立つ。
「……(MAXは143km/h出したらしいし、みやよりちょい遅って感じだな。でも、なかなかえげつない変化球持ってるらしいし、何よりストライクにしか投げてこねえから、一球も気を抜けないな)」
(足の速さは林里くらいか……?)
金条は初球、ストレートをアウトコースに投げさせる。古堂は相変わらずの全力投球でストレートを走らせる。
「ストライクッ!」
「ふむ……(ノビるね……)」
二球目、同じコースに直球を投げる古堂。
(同じコースとか舐めてんのか!?)
沢口は打ち返す――が、引っかける。
「ショート!」
林里が打球を拾いあげるが、バッター沢口の足は速い。
(はっ、はええ!)
投げる林里。しかしセーフ――
(何だありゃ……アウトコースに角度のある球だと思ったんだが、詰まった感じがした)
(カットボール……か? そういえば秋大会のときも……斑鳩さんが引っかかってたな)
宮城は古堂の新しい武器を見ながらにやりと笑った。
二番の四方雅也――三年の四方和也の弟である。同じポジションで中学時代も1番。鉄日高校期待のルーキーである。
(ストライクゾーンに攻めてくるスタイルなら、バントが手堅いよねッ!)
(させないよ)
初球の金条の配球は、アウトハイのボール球のストレート。見逃す四方。
(あぶなッ……そっか、ヒロさんの盗塁警戒もあるかそりゃ)
二球目は、低めに外れるシュート。空振りする四方。
(あー……だめだ……打てると一瞬でも思っちゃうと振っちゃうんだよね……俺が兄貴に劣る理由はそこだけなんだけど)
いっそ開き直った様子で、構える四方。古堂は内角にストレートを投げる。
(今の俺はこれで及第点……でしょ?)
バントを一塁線に転がす四方。森下は拾って、タッチする。送りバント成功である。
「追い込まれてからのバントか……一歩遅れたぜ」
森下は唸るように四方を見た。
(同学年か……厄介な野郎が鉄日に入ったもんだ)
「オッケー! ワンアウト!」
「よっしゃッ!!」
古堂自らの声だしに、野手陣の声もつられて出てくる。
(エースとして、ムード作りはうまいな)
三番打者の木口が打席に立つ。古堂を見ながら笑っている。
(こういうストライクガンガン取りにくる投手の方が好きなんだよね……わりぃけど、撃たせてもらうぜ……)
(っとまあ、木口はこんな感じに打ち気だろうから、カットボールで凡打作戦は封印。コドーの大好きな三振取りに行くスタイルで勝負だ)
初球、アウトコースのストレートに空振りしてしまう木口。
(ちょっとボールか!?)
鉄日高校の1.2番バッターは左打者。古堂が右打者相手に投げるのは、今日の中で初めてである。
(さすがにストライク取りに来るって言ったって、コントロール特別いいわけじゃないし……)
と思っていた二球目、内角ギリギリにシュートが抉り込んでくる。
「ストライクッ!」
(ひゅー……手厳しね? ちょっと……)
三球目、高めにストレート。ボール球は見逃す木口。
(一球釣ってからスローカーブだろッ!)
変化球を待つ木口に、次は内角にクロスファイアで角度がついたストレートが飛び込んでくる。
「アウト!!」
手が出なかった。三振である。
(やらしい配球だな……金条春利……)
「木口のやつ、油断したか?」
6番打者でサードの赤河が帰ってくる木口を揶揄する。
「まさか。シンプルにバッテリーにやられたよ」
木口は嘲るように笑った。
「……(木口は読み合いで良い当たりを出すバッター……俺が目指している地村さんとは真逆だな。だからこそ、バッテリーに出し抜かれやすいのだ)」
月守はそんなことを考えながら打席へと向かっていく。
「ハル、しっかり見てけよ。サウスポーカーブなんて、一生に一度くらいしかお目にかかれないぜ?」
泉中は少し余裕を持たせた様子で月守を送り出した。
(正直……諒真が三振するのは少し意外だったな……。あいつだって普段はちゃらんぽらんだけど、打席では凄い集中を見せる。それを越えてきた古堂のストレート、警戒した方がよさそうだな)
泉中に送り出された月守は、右打席に立ち、しっかりと古堂を見据える。
「あれ、ハルさんって左利きじゃなかったっけ?」
「つうか、普通に左打ちだったらしいよな」
四方と影山はベンチで月守の立つ打席について考えていた。
「うるせえよ」
それに対して文句を垂れるのは赤河。
「あいつは……変えてきてるんだよ。クロ高の新田、三浜の柴川、福富の寺田、んで、コイツみたいなサウスポーと戦えるように……」
古堂が投げる初球のストレート。内角にばっちり入ったストライクボール。クロスファイアの角度はついているものの、月守は一瞬も迷わずに打ち返す。
(カットボールッ!!?)
ストレートと一見だけでは見分けのつかないカットボール。内角に切り込んでくるその球に、月守は強引に打ちに行った。
「っしゃあッ!!」
レフト佐々木が打球に追いつき、アウトにする。
「よしっ、とりあえず内野安打一本で抑えたのはデカいぞ」
ベンチに戻り、金条が円陣を組む。
「ナイピコドー」「先輩さすがっす」
ベンチで燻っている者たちも、古堂に声をかける。
「金条、お前のリードもなかなかエグイな」
「まあな。これは練習試合。俺たちの実力を計るためのものでもある。できること、出せる実力を出し切った上で鉄日に勝つ。そうだろ?」
「おーけー(金条、頼れる奴になったじゃねえか)」
伊奈は金条の肩を軽く叩いて笑った。
「んじゃ、森下、嶋田、一年生だからって遠慮するな。俺や大滝が打てなかったピッチャーから一本出して来い」
「は、はい!」
(も、燃える発言ッ……!)
伊奈の言葉に、森下も嶋田も鼓舞された様子だった。
「金条、古堂の配球変えたのか?」
絹田監督に問われ、金条は頷く。
「はい」
「カットボールとフォーシームを使い分けているのか」
「そんなところです。でもまあ、木口みたいな読み合いでフルスイングしてくるやつには、あまり通用しないと思って、従来通りの三振を取りに行くスタイルで」
(配球を変えたせいか、ここまであまりスローカーブを見せていない。鉄日高校も古堂の独特のカーブには警戒しているだろう。だからこそ読み合いにずれも生じる。これも金条の計算だとするならば、こいつも腕を上げたな)
続いて、5番バッターの森下が打席に立つ。
(すぅ……俺は、兄貴みたいなバッターになりてえって思って、毎日野球をしてきて、今日、やっと……やっとあこがれのクロ高の一員として……しかも、兄貴と同じファーストで出させてもらえるなんて……)
気持ち昂る森下の初打席――宮城のストレートがアウトコースギリギリに決まる。
「ストライクッ!」
(く、すげえストレートだ。ただ、ノビる球ってことは……)
二球目の球が森下に向かって走ってくる。森下はいつも通りのスイングでバットを振るう。
(ノビる球ってことは……軽いってことだッ!!)
タイミングを合わせたつもりだった森下。しかし、その球の実態は――切れ味鋭い変化球だった……。
(あっ、まずい……)
バットの先に当たったボール。ピッチャーの左手側を弱く跳ねる。
「尋ッ!」
「オーケー」
セカンド沢口は足を合わせて、何とない打球を拾いあげる。そのままファーストに投げてアウトになる森下。
「アウトッ!」
「嶋田ッ、緊張したら負けだぞ!」
嶋田に声をかける田中塁。
「わかってる……。俺だって、坂東さんとかがいたブルーシニアで四番張ってたんだよ」
(あれ……嶋田ってすごいの?)
疑問に思っている田中をよそ目に、嶋田は宮城にきりきり舞いにされ、三振に倒れた。続く金条も、宮城のカーブをひっかけ、ライトフライになる。
「すまんなコドー。もうちょい休ませてやれると良かったんだけど――」
「何? 早く投げたくて仕方なかったんだけど!?」
(全く……こいつは……)
金条がプロテクターをつけ終わると、古堂はいかにも準備万端と言った様子でマウンドへと向かっていくのだった。




