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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
5.春大会
118/402

第118話「終わらせない」

 11回裏――同点の状態のまま延長戦に入るクロ高VSハッ高。今、最大とも言える佳境を迎えていた。

(ここで決められなかったら、また今宮ら上位打線を相手にすることを考えると……ここで決めるしかねえんだわ。クリーンナップ三人を前に、ランナーは山田。誰が何といおうとチャンス)

三番打者の大槻は大きく構えた。


(甘い所は許されないぞ)


 金条のサインに、古堂は大きく頷く。


 初球のストレートは、厳しい所に入ったが、ボールとなる。大槻は堂々と見逃している。

(やっぱり……堂々としたバッター相手だと、審判もそっちに寄りがちになるよな)

続いての球は、シュート。ストライクゾーンから外に逃げる球――切れ味鋭い球が、大槻のバットをかすめる。

「ファウルボールッ!」


 ファウルゾーンを跳ねていく打球。スイングスピードに、内野陣は息を呑む。

(あれが飛んできても、俺は止めなきゃいけないんだよな)

サード大滝はより一層身構えた。


 そして、古堂は投げる。次の低めのカットボールは見逃す大槻。ストライクとなり、追い込まれる。

(さすがに今の入ってたか……まあ厳しいし、振らなくて正解だよな)

監督に目を向ける大槻。ネクストのレイモンドと、ベンチから大声を出している白里を見る。

(一哉とは、そういえば1年の頃からよく一緒にバット振ってたっけ? レイモンドに対する嫉妬とか、監督や先輩への愚痴とかあこがれとか……いろいろしゃべったよな)


 古堂のボールをしっかりと見る大槻。スローカーブだとわかっていたが、手が出てしまう。

(何でしっかりと軌道が見えても――タイミングが合わないんだよッ!!)

空振りする大槻。三振である。


「ストライークッアウト!」


 1アウトである。古堂のナイスピッチングに、クロ高は沸き立つ。ここで、監督はランナーの山田にサインを送る。

(フルカウントでランエンドヒット……レイモンドの打撃力と、万が一の三振に備えて――か。根古屋監督も相当ピリピリしてんだな。まあ今日の古堂アイツを見る限り、決め球をスローカーブにしてくるのは堅い)



 しかし、金条はそれを読んでいた。

(レイモンドさんに打たれたら終わり――だけど、次には白里兄が控えている。普通の監督なら1アウトで決めに来るが――選手を信頼することで有名な根古屋監督なら――)


 初球からスローカーブをアウトローに決める古堂。レイモンドはサインもあるのでカットに徹する。

(あくまで見えてるぜっていうアピールか?)

二球目のストレートは見逃す。

(厄介なバッターを敵に回したもんだ)

シュートも、カットボールも、釣り玉のストレートでさえも器用にバットを動かしてカットするレイモンド。そして、古堂にもボール球がかさみ、フルカウントとなったところで策が動く。


「逃げたッ!」

ボールのリリースと同時に、外野から小林の声が聞こえる。金条はボールを高い体制で受け取ろうと腰を浮かす――しかし、古堂のカットボールに、レイモンドはバットのギリギリを擦らせる。

「チッ!」

ボールは、腰を浮かせた金条のミットの下の方へ。山田は走っていた足を止めずに二塁へ。

(……ファウル!?)

そう一瞬よぎった初巾高校の面々。しかし――ミットを構えていた手は、地面スレスレまで下がってきていた。


 バチンと芯でとらえた音。バットに当たったことにより変わった軌道の球を、金条はノーバウンドでしっかりと受け止めていた。

「取ったッ!」

金条の即座のアピールプレイに、審判は、右手を上げた。

「ストライークッ、アウトォ!!」

「ッしゃああ!!」

グラブに左手をたたきつけ、喜びを露にする古堂。ランエンドヒットによってチャンスを作ったはずの初巾ベンチも、これには驚くしかなかった。

(スローカーブ待ちだったはずなのに……良く当てたぜレイモンド……! ただ、キャッチャーがナイスプレイすぎたな)

山田は悔しそうに二塁ベースに佇む。しかし、表情は逆に開き直っている様子だった。

(2アウトになったおかげで何も気にせず走れる。頼むぜ……キャプテン!)


 打席からベンチへと戻ろうとするレイモンドに、白里が話しかける。

「良く当てたな……あの球動いたろ」

「……前に飛ばせない時点で褒める所など無いに等しい」

彼の激励をレイモンドはあしらい、ベンチに戻る足を速める。少しあきれ顔の白里は、打席に向かう。

(ある意味ラストチャンスだと思った方が良さげだな。レイモンドが抑えられて、こっちも思った以上に沈んでやがる)

息を整える白里。心臓の音が顕著に早まっていた。


(あれ……俺ってこういう場面で緊張するようなやつだったっけ?)


 苦笑いしながら白里はバットを構えている。キャプテンである重圧は、今は不思議と感じていない。今感じているのは、目前のピッチャーから感じている無言の重圧プレッシャー。『お前には意地でも打たせない』という強い意志が感じられる目線。


(秋からは想像もできねえくらいに、成長してきてるな)


 そんなバッター、白里に投げられたボールは、初球――インコースギリギリを突くスローカーブ。

(初球から見せてくるかよ……なんつーリードしやがる)

まるで甘ければ初球からたたくことさえ考えていた彼の思考を見透かすかのような金条のリード。そして二球目も、インコースにストレートが走ってくる。

(ッ! いつもより速く感じる……これも武器として持ってるのかよ)

打ち気――というよりも、それを通り越した白里の使命感を金条は揺さぶりに利用している。しかし、それが白里の心に火を点けた。


(……打席で利用されるほど、軽い気持ちでキャプテンやってねえんだよッ!!)


 次に来たスローカーブ――タイミングが読めない球だが、ギリギリまでしっかりと待ってカットする白里。決して力任せに振るわけではないスイングに、金条も震撼した。


(そうか……ヒット一本だせば還れる状況……外野はとにかく前……佐々レフトは肩を信じて少し下がってもらおう)


 金条の思考が外野に現れる。そこから読み取る白里。

(相手もギリギリだ。レイモンドが打てなかった球が来たって――ここで努力の成果を見せるときだろう!)

バットを握る手にも力が入る。


 そんな彼の耳に、1人の声がする。



「お前しか頼れない。決めてくれ」



 それは、嫉妬の対象であり、憧れの対象であり、頼れるチームメイトであり、切磋琢磨すべきライバルである男――初巾高校の4番レイモンドの声だった。

(そうだよな……俺は白里一哉。それで良いんだ。俺は俺のバッティングを。俺が応えられる形で、俺を頼ってくれるチームの期待に応えよう)


 古堂は、全身全霊を指先に込める。金条のサインはシュート。しっかりとうなずいて内角胸元を抉り込む球を投げる。これまでに無いぐらいに指先に縫い目がかかり、これまでにないくらい速い回転を伴って打者の元へと向かう白球。


(俺がレイモンドに勝てるところ――ミート力ッ!!)


 古堂の投げたシュートを、白里は素直な、綺麗なスイングで右中間に流した。


(若干詰まらせたかッ!!?)


 鋭いライナー性の打球が芝を跳ねる。三塁を蹴っている山田。捕球するセンター山口。

(どのみち還られたらサヨナラ、刺すしかないッ!)

思考よりも先に肩からボールが放たれる。送球はバッチリとホームへ――


「セーフッ!!」





 結果は4-5で初巾高校の勝利。延長11回の激闘の末、クロ高は敗北した。


「ナイスランだったぜ律!」

「一哉こそ、ナイバッチ」


 センター山口の送球がキャッチャーミットに届くよりも早く滑り込んだ山田がサヨナラを手にしたのだった。観客も、あまりのナイスゲームに拍手喝采を送っていた。





――浮かない顔をしているのは、サヨナラタイムリーを打たれたピッチャー、古堂黎樹。

「最後の、良いボールだった……つか、お前何レイモンド相手にしれっと三振取ってんだよヤバすぎ」

試合には出ることのなかった伊東が涙を堪えて古堂を励ます。自分が出ていないとて、負けるのは悔しいらしい。

「……はい、すいません」


 いや、むしろ出ていないから悔しいのだ、ということを理解した古堂は伊東の涙を堪える様子に我慢が利かなくなっていた。


(秋勝ったからって油断したわけでもねえ、試合中にデカいミスがあったわけでもねえ。シンプルに打たれて、打てなくて、負けた)

今宮は冷静にある意味冷徹に分析していた。

(俺たちにはまだ夏がある。でも逆に言えば夏しかない……。これで良いのか?)


 新田も、鷹戸も――そして絹田監督も、それぞれ思うところがあるようだった。


「課題山積……だな」

小さな声でつぶやくエース新田。背番号がずっしりと重たく感じていた。




 初巾高校 5-4 黒光高校


 初巾高校、春大会決勝進出。黒光高校、準決勝敗退。


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