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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
5.春大会
107/402

第107話「流れ」

 金条のヒットもむなしく、佐々木、新田が凡退し得点にはならず。三回表になる。

 ヒットを打った金条は、その余韻に浸ることなく、ベンチに戻ってすぐにプロテクターをつける。

「新田さん、点がなかなか取れないこの状況こそ正念場です。精一杯頑張りましょう!」

「……ああ、そうだな」


 新田は、金条の確かな成長に気付き、嬉しく思った。

「あ、あと……一番打者の長永、ほぼ敬遠気味でいいと思います。その後で切れれば問題ないので」

「わかったぜ」


 8番急人と9番片津を三振に取る新田。すべて金条の配球の掌の上に転がされる打者2人。

(なんつー変化球……コースも厳しい所しかつかねえ)

(これがクロ高バッテリーか……)

今日の新田の調子はすこぶる良いらしい。そして、それを金条は最大限に活かすことのみに務めていた。


「ボール、フォアボール!」

続く1番長永が出塁する。

(悠々と出塁させやがって……)

長永はにやりと笑ったが、少なくとも彼は気づいていなかった。


「新田さんがストライク入れずにフォアボールって珍しいですね」

クロ高ベンチでは古堂が伊東に話しかける。

「球数減らすためのわざと敬遠の可能性はあるな。まあ、もっとも……そう見せないくらいの絶妙なところに投げれるあいつのセンスを際立たせるだけなんだけどな」



 二番打者に切り替わったところで、藤崎高校の監督はサインを出す。盗塁だ。長永が走り出す。

「スチール!」

内野から声。しかしバッテリーは少しも動じない。

(刺さなくていい……だって、ここで抑えられる)

金条は、新田から投げられたスライダーのキャッチングに全神経を注いだ。盗塁を決められるが、バッターである翔人を2ストライクと追い込むことに成功していた。

(遊び玉は一切いらない。ここで終わらせる!)

低めのストレートを転がされる井口。伊奈がしっかりとつかんでベースを踏む。

「アウト!」


 3アウトとなり、三回表を終える。

「新田ナイピ!」

「やるじゃねえかああ」

今宮と田中がかけよってきてハイタッチする。金条もプロテクターの面を外して新田に笑った。

(すげえじゃねえか……お前のリード)


 しかし三回裏、今宮が先頭だったが、ピッチャーゴロに倒れてしまう。ピッチャー道中のストレートの球威は、増していた。

(打倒クロ高、打倒ハッ高、打倒テッ高……。俺は、俺のやり方で勝利を手にするッ!)

続くバッター、小林が打席に立つ。変化球で追い込まれ、最後はストレートを打ち返すが、球威に負けたセカンドフライになった。


「っしゃああ!!」

雄叫びを上げる道中。会場の雰囲気を飲み込んでいこうとしている。


「ここで流れを渡すのは良くないぞ田中」

「はい……」

監督に言われ、そのまま打席に向かう田中。

(三者凡退で片づけてやる!)

ストレートを空振りする田中。白銀世代とは言っても、同じ白銀世代のストレートは力が籠っていてなかなか打てるものではない。二球目、三球目と、変化球を織り交ぜながら田中を追い込んでいく。

(スライダー!)

バットには当たるが前には飛ばない。

(ストレート!)

振り遅れはするも、しっかりとカットして粘る田中。

(次はカーブ!)

道中の球は、ゆっくりと弧を描きながらキャッチャーミットへ。金口のリードに翻弄されるかのように、タイミングを取りかけた田中は空振りした。


(や、やられた……)

悔しそうにベンチに戻る田中を背後に、粘られたことを少し気がかりにする金口。

(このまま流れを持っていけたら苦労はしないが……あのエースがそれを許してはくれ無さそうだな)


 金口の予想は奇しくも当たっていた。三番原田から五番江ノ森を三振に抑え込む新田は、またしても金条とグラブタッチをした。

「ナイスリード!」

「いえいえ、ナイスピッチですよ」


 4回裏も、山口と伊奈の連続ヒットからの金条の犠牲フライでさらに一点を加えるクロ高。

(くそっ……暗黒世代にまでヒットを打たれるようになってもうてるやないか……なんでや)

取れると思った流れが取れず、やきもきする道中。自身も二打席連続で凡退しており、苛立ちが募っていた。


 そして5回表、金口の四球による出塁と、井口急人のヒットによってチャンスを作る藤崎高校だったが、新田の前に得点を挙げられない。

(なぜだ。なぜだ)

道中と金口のバッテリーは、顔を見合わせる。お互いが何を考えているのかはわかるが、どうしたらいいのかは、彼らの頭を以てしてでもわからない。


「はい、落ち着け」


 沈黙を続けたバッテリーの視線を変えたのは、藤豊監督だ。

「相手が強いことはわかっただろう……」

道中と金口は監督をじっと見る。

「……できることはなんだ? どうしてそれをさせてもらえないのか、今一度考えろ。ただ、5回裏……9番新田から始まるし、さっきの回は抑えられたが、まぐれはそう続かない。そこは点を取られることを考えるのが良いだろうな」

「ってことは……三点、どう返せば?」

「ラッキーなことに、長永は出塁してもらえる。お前が打てばいいんだ。お前が」

監督は道中の目を見て笑った。道中は目の色を変えた。


 しかし、クロ高はそこを付け入る隙と捉えた。先頭打者の新田からガンガン攻めていく。初球のストレートにタイミングを合わせ、振りぬく新田。

(初球打ちッ! ライナー!!)

道中のミットが鳴り響く。正面に飛んできた球を、左手に収まったミットでしっかりとつかんでいた。

「1アウトォ!!」

道中が叫ぶ。次の打者、今宮が打席に立つ。

「あらら、虚勢張るのも疲れるだろ? そろそろやめたら?」

金口に笑う今宮。

(こいつには打たれる。抑えるのは無理だ。でも、簡単には打たせない)

変化球を織り交ぜつつ、今宮を追い込む道中。しかし、そこからの粘りが彼らの計算を優に超えていた。

「じゅ……10球も粘るかよ」

「道中のコントロールが良いのが逆にあだになってやがる……」

藤崎高校ベンチは絶句した。道中から10球ほど粘り、彼を疲弊させている今宮。

(嫌らしいバッターだ)

道中が笑いながら投げたストレートを、今宮は引っ張ってレフト前にヒットにする。

(粘られた末に打たれるのが屈辱だろぉ?)

次の打者、小林翔馬はサードに送りバントをし、チャンスを作り出す。


(2アウトの状況をつくってまでも送りバントをすることはそんなに得策じゃない。そんなにクリーンナップの打撃力に信頼があんのか? だとしたら……抑えてやろう。桔平さん!)

次の打者、田中に対し、ど真ん中のストレートで勝負を挑む金口。空振りでも取れば、一気に流れをかっさらえる――そんな配球だった。

(さっきも今宮が粘ってきたし、桔平さんが疲れてることも想定している。適当に打ち返して打ち取れば大きな儲け!)

田中は、そんな金口の思惑を、少しも考えずにまっすぐ、センター返しした。

(んな?)

センター長永は、初球から来るとは思わず、一歩目が遅れる。今宮には悠々と三塁へ進まれ、田中も一塁ベースに到着し、ヒットになる。


「今宮は還れたんじゃねえの?」

試合を観戦しているのは、初巾高校のエース柏木と、キャッチャーの白里虎次郎。

「……わからない。浅かったし」

「確かにそうか。でもまあ、次が大滝か……藤崎にとっちゃあ不穏な状況がずっと続くわけだからしんどいわな」




 道中は焦っていた。

(さっきのエンドランもそうや……考えすぎた俺らの裏を飄々とかいて、セオリー通りに点を取るのかと思いきや、今はこう……チャンスを続けたいだけなんか?)


 そんな道中の焦りを微塵も感じていない大滝はまっすぐ構える。

(さっきは凡退したけど……次は打つ!)


 初球のカーブが甘い所に入るが、大滝はファウルにしてしまう。

(あれだったか?)

藤崎高校のベンチは気が気ではない。

「甘い所に入ったらホームランにするようなバッターだ。さすがに5点も入ったらこの先がしんどいぞ……」

監督が固唾をのんで見守る中、道中はインコースにストレートを要求。タイミングが合わず空振りする。

(……ヨスケェ……次はどんな球で行くんや?)

道中の焦る表情をくみ取ってか、金口は次のサインを早急に出した。

(同じところに来るように見せかけたフォークボール。もう片付けよう!)



 道中のフォークボール。しかし、大滝は見逃す。ボールだ。

(くそっ……なんでそこを見逃すんだ……)

金口は気が気ではない。そして、次に投げられたのは、外に逃げるスライダー。これを大滝は狙い撃ちした。

「もらったッ!!」


 打球は道中の頭の上を、鋭く飛んでいった――


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