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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
5.春大会
106/402

第106話「なるべくして」

 二回表、初めて対峙する新田と道中。

(来いよ変化球王子……! この頭脳派エース道中が……読み合いに打ち勝ち、お前のメンタルとスタンドを抉るホームランを放ったるわ)

道中が読み合いと称した打者とバッテリーの戦い――初球、新田はカーブを投げ込む。

(インローに決め球のカーブッ! 初球にしちゃあ攻めすぎやないか!?)

手が出ない道中。ストライク。

(こいつは……普通の相手やったら絶対に追い込むまでボール球放らへん。問題は、俺があいつらにとって“普通”なのかどうかやけどな)

外角にストレート。道中は外いっぱいに飛ばすようにバットを振ったが、空振り。

(やっぱしな……。ボール球振らされるんかい。過大評価おおきになッ!)

三球目、決め球に使ったのは――ツーシームだった。

(またまっすぐ!? んなあほなッ!)

いつものように打ち返す道中だったが、打球はどこか伸びない。レフト方向へと打球は切れていく。

「佐々木ッ!」

ライン際へと落ちていく打球へと、レフト佐々木は走って追いつく。しっかりと捕球した。

「よ……よしっ!」

佐々木は喜びを露にした。内野陣も、先頭打者で四番打者の道中をアウトに取れたことは大きかった。


 続く江ノ森を三振に取り、新田も勢いづく。

「いい感じですッ! この調子で、三人で切りましょう!」

金条がホームから叫ぶ声に対し、その声の主を強く睨む者が打席に立つ。


「金条くんだっけ? 何でキャッチャーやってんの?」


金口余介だ。右打席にゆっくり立つ。


「そんなこと聞いてどうすんの?」

「お前には関係ないでしょ」

(あるよ……何で教えなきゃいけないんだよ)

金口は、パワーこそないが、新田の球をしっかりとミートし、簡単に追い込まれはしたものの、新田に5球ほど投げさせるまで粘った。

(1ボール2ストライク。5球中4球がストライクゾーンに入るくらいのコントロール狂。厄介なのはそのストライクゾーンに甘い球が無いこと。一球だけ来たボール球も、僕を三振に取るために投げたきわどいやつ。白銀世代だね)


(長永タイプのバッターが、6番にもいるのかよ!)

金条はどこかで苛立ちを露にしていた。

(カットできねえくらいに届かないところへ!)


金条のボール球のサインに、新田は首を横に振る。

(ストライクゾーンに投げて打たせた方が得策だ……。うちの守備はそんなに軟じゃない)

まだ新田は気づいていなかった。金条が……金口の先ほどの言葉をきっかけに対抗心を抱き始めていること。


(……何でキャッチャーやってるかって……投手を最大限に活かすためだろ!! 新田さんの最大の持ち味は精密なコントロールと狂ったように曲がる変化球。逃げていくシュートで……一発で仕留められるはずなんだ!!)

そんなこんなで放たれた一球は金口に見逃されボールに。


(俺の相棒、余介は俺が見込んで藤崎に連れてきた、暗黒世代にして結果を残した知る人ぞ知る名捕手や……。打撃成績はかんばしないけど、四球による出塁数を含めたら、3割打者の出塁率を超えてるんや)

道中はブルペンで控え捕手に球を捕ってもらっている。どこか不満そうな表情で打席の金口を見ていた。

(そう、こいつは四球狙いのファントムとして超優秀な選球眼を持ってる。この選球眼は、リード面でも遺憾なく発揮されとるがな……。観察眼も良くてバッターのクセや内野陣の機微に鋭い。こいつは……キャッチャーをやるべくして生まれてきたんや)


 金条が意固地になっていたことに気付くころには、金口はフォアボールで出塁していた。新田も数球粘られ、少し疲れているようだった。

「タイムお願いします」

金条がタイムを取る。


「すいません……」

「気づいてるならいい。ただ、キャッチャーの言うことには俺も極力答えるようにしていかなきゃいけないよな」

新田はさわやかに笑い、金条の肩に手を置いた。

「三振に取れなくてスマン。次は仕留める」

「はい!」



(ああ……配球読むのしんどかった……。金条ってやつ……俺と配球似てるんだよな。対角めちゃくちゃ使ってくるし……)


切り替えたバッテリーは、続く7番打者の海原を三振に取って二回表を終わらせる。


「ナイピ新田!」

今宮がグラブタッチを要求するのに、新田も応える。

「……金条、挑発には乗らないようにしろ。粘るのが相手のやり方だ。今あいつらは、相当優れた頭で新田を降板させる算段を立ててるところだろうよ」

新田から少し離れたところで金条に囁いた今宮は金条と目が合うとにかっと笑って見せた。


「どっちが優れてるか、証明してやれ」




二回裏、先頭打者は伊奈聖也。

「お願いします!」


(さて、どの球で打ち取らせようか……変化球への対応力は高いバッターだし、やっぱ全球ストレート?)

金口の要求通り、初球からガンガンインコースを攻めてくる道中の投球に、伊奈も思わず仰け反る。二球目も手が出ず、早くも追い込まれる伊奈。

(普通に考えたらここで変化球……だけど、こいつはそれを狙ってるッ!)

金口は低めに外れるフォークを要求。伊奈はしっかりと見逃す。

(やっぱりな。少し動いた)

次に要求したのは、外角高めのストレート。振り遅れた伊奈はひっかけた当たりになる。

「セカンッ!」

道中が叫ぶと同時ぐらいにセカンドが捕球し、一塁へ。伊奈がアウトになる。

(おっ、おでましだ)


金口は嬉しそうに笑っている。打席に来る金条は、メガネをかけなおしてピッチャーを見る。

「……俺はさ、キャッチャーを始めたのは小学5年生。レギュラー欲しさにミットとプロテクターをつけたんだ」

金条は小声で金口に言う。

「ふはっ……じゃあキャッチャー歴、俺が二年先輩じゃねえか」

初球のストレートを振り遅れて空振りする金条。金口は嬉しそうに笑っている。



――金口余介。彼の近所には昔から一人の野球少年がいた。

「おっ、余介やないか。お前も野球始めたらどうや?」

「……」

彼こそ道中桔平。金口を野球に引き込んだ男である。当時小学四年生だった道中だったが、既に投手、打者としての才能を開花させており、地元のリトルではエース候補だった。小学三年生だった金口も、道中に誘われてキャッチボールをするようになった。


「余介。リトルでキャッチャーやったらどうや? 誰もやりたがらへんし、3年生のお前でもレギュラーすぐ取れるわ」

「……そんな簡単なもんじゃないよ」

「……お前が捕ってるその球は、越野リトルの時期エースのストレートや。キャッチングの才能はあんねんで」


 金口はそう言われ、なんとなくでリトル入団した。もちろん、初心者。守備はへたくそだったが、キャッチングだけは得意だった。

「きっぺーの近所の、ヨスケってやつ、キャッチャーすんの?」

「せやで。あいつは賢いしな」

「ふうん」


道中は既に知っていた。自分の頭が良く、人を見る目があることに。そして、金口も既に知っていた。少なくともそこらの人々の中では頭が良く、周りが見える方であると言うこと。

 そして、金口の才能は練習を繰り返すにつれて開花されていく。それは、金口が5年生になったときの初試合、ランナー二塁でノーアウトの場面。

「桔平くん、二塁ランナー盗塁するかもだから、ストレート外角高めに。んで、バッターが外角手出がちだから、サードショートは少し寄り気味で」

マウンドに集まる内野陣の中央で嬉々とした表情で危機を楽しむ金口がいた。彼の視野の広さは、捕手というポジションを経験することによって開花されたのだ。


(そう、俺は才能があったからキャッチャーをしてる。不人気ポジションだったこの捕手の才能が……)

そこから彼は思い始める。キャッチャーは選ばれた者にしかできない場所なのだと。


(なるべくしてなったこのポジションッ、俺が県内暗黒世代ではNo.1キャッチャーだッ!)

道中のカーブが金条のバットをすり抜けていく。ショートバウンドした投球だが、しっかりと金口は拾い上げている。

「ストライクッ!」

追い込まれた金条。金口は嬉しそうに笑っている。そんな彼の“出し抜いてやった”感に苛立ちすら覚える金条。


(きっと……俺を見下して悦にでも浸ってんだろ……。偉いのは捕手じゃねえ)

金条も打席に入る前から少し思い返していた。自分が捕手を始めたきっかけを。


(ああ、そうだ……そうだったよな)

金条は素直に、ストレートを打ち返した。レフト前に打球が落ちる。

(俺は別に、金口とキャッチャー歴を争うほどそのポジションにこだわってなかったな。俺がキャッチャーを始めたのは……キャッチャーがしたかったからじゃなかった)


 ――金条春利、公式試合13打席ぶりのヒットであった。


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