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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
5.春大会
105/402

第105話「藤崎の戦い方」

 開幕した藤崎高校VS黒光高校の試合。先攻、藤崎の先頭打者は長永安春。

「お願いします」

(ぼけっとしてそうなやつだけど……これで選球眼とカット力があるんだから憧れるよな)

金条は心の中で悪態をつきながら、初球、新田にシュートを要求する。

「ストライク!」

いきなり内角に決まるシュート。右打者の長永は手が出せずに固まった。

(あ……デッドボールになるかと思った……。そこから入れてくるのか)

二球目のスライダーで追い込む。次は外角ぎりぎりに決めてきた。

(ストライクゾーンを縦横無尽に走らせやがる……。キャッチャーのリードも怖い……)

藤崎高校の監督、藤代豊彦ふじしろ とよひこ。この高偏差値の高校球児たちを指導しているだけあって、理論派の監督である。

(振り遅れても良いから後ろでポイントを捉えろ。ストレートのときは微妙にクセが出るさ)

監督のポイント後ろ……のサインに、長永は頷く。

(まあ所詮、僕には粘ることしかできないので……)

続くカーブは、紙一重の所で打球を後ろに飛ばす長永。

(さすが……白銀世代の中でもトップクラスの変化球を誇るだけのことはある……)

カットを続ける長永。一塁線よりも外側を弱く跳ねる打球。

(だいぶ投げさせられてるな……)

しびれを切らし、ストレートをインコースにサインする金条。新田も全力で答え、ストレートをインコースギリギリぴったりに投げ込む。しかし

(ストレーッ!)

長永は強く引っ張り、三塁線よりも外側に打球を飛ばした。打球は大滝の右側を強く跳ねていく。

(こいつ……引っ張りもできるのか!?)

金条は驚きつつも、にやりと笑い、外角ギリギリにカーブのサインを出した。

長永は監督の方を見て、新田を見る。新田がボールを投げる。


(決まった!)

ギリギリに決まった球。しかし、これもカットされ、一塁線へと飛んでいく。

「ふっ」

伊奈が打球に飛びついた。ボールはファーストミットの中に収まっており、アウトをものにしたのだった。

「ふぁ、ファウルボールのライナーを……」

会場、観客はナイスプレイに沸く。しかし、藤崎高校の面々は、他に驚いている点があった。

「……今のファースト、ファウルゾーンで打球を待っていたな」

「セカンドもだいぶファーストよりだったし」

「対応が早いぞ。さすが強豪校だ」


 先頭打者をアウトに切り、二番打者を迎えるクロ高バッテリー。二番打者の井口翔人が打席に立つ。

(あらら……長永が出塁させてもらえなかったか……っていうか、あのピッチャー……ボール球投げなかったなあ)

二球で追い込まれた井口は、そのままカーブをひっかけさせられ、ショート田中に捌かれアウトとなる。

「っしゃ! 2アウトだぜ!」

三人目の原田も、大滝に打球を捌かれ、3アウトでチェンジとなる。


「新田さん、思ったより投げさせられましたね」

「ああ……。でも、通用してる。焦ることは無いよ。次の回が本腰だから」

「そうですよね」

金条と新田の会話を聞いて、二人の成長をわずかに感じ取る絹田監督。


 一方、藤崎高校のベンチでは、守備に移る前に、監督が道中を呼んでいた。

「思ったより相手はやり手だ。ただ、エース新田の配球を少しくらいなら教えてやれそうだから、次の回、お前が一番槍決め込んで来い」

「了解っす」

「その前に、ここ三人で切れたら、理想的だが……まあ無理するな。硬くなったら、捕れるアウトも捕れなくなるぞ」

「うっす!」

肩を楽にしながら道中はマウンドのプレートに足をかけた。


(さあ、先頭打者は今宮。昨日はものすごく煽られたから、三振に切ってやりたいところだが、無理をして勝負に行く相手じゃねえ。初球にぱんと打ってもらって、楽に次の打者を迎えよう)

初球ストレートを、真ん中低めに投げる道中。金口のミットに収まる前に、今宮が打球を転がす。

「セーフティッ!」

「警戒済み!」

サード原田が前進していたが、予想以上に転がらない球。彼の足の遅さに待てなくなった金口も飛び出すが、それが反ってお見合いになってしまう。

(原田さんッ!)

金口は重心を後ろにして、原田に打球を譲る。原田がファーストに投げるが、その間に今宮はベースまで駆け抜けていた。

「セーフッ!」

「んあっ!」

「まあええよ! こいつアウトにするんはあの鉄日でも骨折れんねん。無理せんでええで」

サード原田が悔しそうにするのを、ピッチャーの道中はマウンドから励ました。

(まあ……ホームにはできれば還らせたくはないな)

道中の目線を読み取ったキャッチャーの金口。

(まあ、道中さんの球なら、白銀世代はともかく、そうそう打たれるもんじゃないでしょ。低めに集めて、ゴロ打たせましょう)

初球からストレートがうなる。二番打者の小林のスイングはなかなかタイミングが合わない。

「タイミング! せっかくの良いスイングがもったいないよ!」

ベンチにいる山口から声が飛ぶ。

(んー、寿のミート力にはまだまだ届かないなあ)

結局、変化球を振らされ三振する小林。今宮も金口の牽制が強く、盗塁のチャンスをうかがえなかった。

(あのキャッチャー、やっぱり強かだなあ。めちゃくちゃ俺のこと見てくるし……道中の球捕るだけじゃなくて、しっかりと扇の中しっかり見てやがる)


 次の打者、田中が打席に立つ。

(この人もミート力あるし、パワーもありそうだなあ……。道中さんのカーブをうまくひっかけさせるか)

初球カーブが厳しい所に決まるが、ボール。しっかりと田中は見ている。

(ああ、元一番打者って監督も言ってたっけ。クサイ所には手を出さなさそうだな)

(余介、無理することはないで。ストレート打たせよや)

(もう一球変化球使いましょ)

道中と金口はサインでコミュニケーションを取り、配球を決める。田中はフォークを空振りする。

(かぁ……読み外したぁ)

唇をかみしめる田中。サインが特にないことを確認すると、田中はもう一度構えなおす。

(あくまでヒッティングか。信頼されてるのな)

ストレートを投げる道中。タイミングを少しずらされ、身体が突っ込む田中。

(やべっ!)

ひっかけた当たりになり、打球はショート前を転がる。

「ゲッツー!」

セカンドの井口急人いぐち せかんどが双子の弟からの送球を呼ぶ。寸分の狂いも無いトスが、弟翔人から放たれ、兄急人はしっかりとそのトスを素手でつかみ、セカンドベースを踏む。

「アウト!」

一塁ランナー、今宮をコースアウトにし、そのまま間もなくファーストに投げる。一塁手江ノ森が捕球するも、田中が一歩早く、セーフになる。

「あ………今のやべえな」

「二遊間連携完璧じゃん」

クロ高ベンチがざわついている。今宮も戻ってきて悔しそうに笑っていた。

「トス素手キャッチは遊のでもなかなか捕ろうと思わないわ」

2人の息の合ったプレイに、田中も今宮も悔しそうな顔をしていた。


「よしっ2アウトや」

道中がマウンドでつぶやく。打席には大滝。

(ランナー足速いし、長打が出たら先制されるんか)


絹田監督がサインを出す。そのサインを出すところを、遠目ながらしっかりと見ている金口。

(ああ……盗塁かな。このバッター、初打席の得点圏打率異常だし)

盗塁警戒シフトにした金口は、高めのストレートを要求する。

(ボール球で良いです。あわよくば振らせましょう、あわよくば刺しましょう)

金口のサインに、道中はストレートを投げる。走り出す田中。

「にげっ!」

ベンチから声が飛び交う。田中の足はそれでも速い。金口は捕球体制半ばに腰を浮かす。

(刺すぜッ!)

ショートの弟とセカンドの兄がベースのカバー体制に。しかし、大滝はバットを振りぬいて、セカンドの左手側――右中間に素早く低い打球を飛ばした。

(エンドラン!?)

急人が反応するも捕れない。見事にライトとセンターの間を抜けていく打球。必死に追うライトの片津をよそに、田中は2塁ベースを回り、三塁ベースも回ろうとしているところだった。

「GO!」

遠慮のないランナーコーチの合図に、田中はギアを上げる。打球を拾いあげたライト片津の送球がホームへ。大滝はその間に二塁ベースへと到着する。

(先制点は積極性から生まれる……うちのチームのやり方だッ!)

田中はホームに滑り込み、左手をベースに触れる。金口のタッチは間に合わずセーフ――クロ高が先制点を手にするのだった。


「っしゃあ!」

大滝の打撃と田中の走塁に、ベンチから惜しみない称賛が送られた。

「ナイス遊!」

「さすがッ!」



「読み合い敗れましたね」

「仕方ないやろ」

タイムを取って、マウンドの近くで会話する藤崎高校バッテリー。

「んまあでも、今ので監督はサインを読み取ったやろ。次回以降はエンドラン通用せえへんで」

「2アウトでしてくるんだから、ランエンドヒットが近いですかね。でもまあ、ボール球を低く飛ばした大滝がナイスバッティングってところでしょ」

金口が笑って道中を遠回しに励ました。


 次の打者の山口はレフトフライに倒れ、1点で攻撃を終えたクロ高。二回表になり、道中が打席に立つ。


「さあ……かっとばすで」


「させへんで」


 ほくそ笑む道中を見ながら、新田もマネして笑う。


ランエンドヒット……ヒットエンドランは、バッターがボールを打つことありきの盗塁だが、ランエンドヒットはランナーは盗塁を絶対行い、バッターは打てそうだと思ったボールのみ打つというサイン。走者進塁率は、バッターが何もしないことがある分、ヒットエンドランよりも低くなるが、失敗したときのリスクが低い。

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